王子と姫
「考えたいと言われるのか?」
「いえ、そうではありません。名目上でも指揮下に入るお方。
どういうお方なのか。知っておきたいのです」
「わかった。
では……、
姫と先に会われるか?王子と先に会われるか?」
「姫は裏をご存じで?」
「無論だ」
「では二人同時に会いましょう」
「わかった。すぐに手配しよう。宰相」
「はっ」
宰相は謁見の間から外に出て、指示をしている。
「ワシがおらぬほうが良いな」
「こちらは問題ございませんが、王子が本音を言えぬやもしれません」
「なるほどな。では任せよう」
「はい。王から見られて、王子はどのような……」
「優しいが、すこし頼りない」
「頼りないと言うと、意思がハッキリしないと」
「あぁ」
「学業などは?」
「それは優秀なのだよ」
「では鼻が高い」
「まぁそうなのだが……、心配なのだよ」
「王としては、良君になって欲しいと」
「無論だ」
「王にとっての良君とは」
「民のことを思い、家を末永く守れる」
「なるほど。王子は優しいと言われましたが、民のことを思ってはないですか?」
「いいや。
そうじゃない。
民のことを思ってはおる。
しかし家を末永く守れるかは、心配だ」
「なるほど。では王子が心配なのは、家を末永く守れるかどうかのみですな」
「そうだな。たしかに」
「わかりました。では二人にお会いしましょう」
「頼む。勇者殿」
準備ができたようなので、別室に向かう。
そこにはレーラ姫と、十二歳になる王子がいた。
「はじめまして、直にございます。こちらは側近の全蔵でございます」
殿は言った。
俺は会釈をする。
「はじめまして。アーノルドと申します」
王子は言った。
まだあどけなさも残る少年ではあるが、王族らしい気品があった。
「二度目ですね。レーラです。ご活躍嬉しく思います」
姫は優しい笑みを浮かべた。
「それで、急遽婚礼が決まり、参じました」
「申し訳ございません。父上が無理を申しまして」
王子は下を向く。
「いえ。私はまったく。それよりレーラ姫様のほうが心配です」
「勇者殿、私のなにが心配なのですか?」
「いえ。心の準備とか、色々あるでしょうから」
殿は優しく微笑みかけた。
「御心配には及びません。レーラは嬉しくて、喜んでおるのですから」
姫は恥ずかしそうにする。
「勇者殿。
私もそれは保証しましょう。
数か月前から姉君は父上から話を聞き、そわそわしていたのですから」
王子は笑った。
「アーノルド。それは内緒の約束でしょ」
姫は王子を睨みつける。
「ははは。お嫌でなければよろしいのです。私は姫のような美しい方を妻に娶れるなど、考えてもなかったのですから」
殿の言葉に、姫は頬をあからめる。
「殿」
俺は殿に声をかける。
「それで、お父上から、私が王子の配下に加わると話を聞きました」
「はい。問題はございませんか?」
「実は十二歳という御年齢から、少し心配はしておったのですが、お話をして安心しました」
「それでは」
「はい。謹んでお受け致します。ですが、いくつか気になる点がございます」
「それは何ですか?」
「王子の経験不足の件です」
「はい。確かに今回が初陣となります」
「私の国で、初陣と言えば、勝つことが確実視されている戦に限るとされております」
「この戦は勝つことが確実視できないと」
「いえ。ワシが動かす分には、勝つ戦しか致しません。
しかし、
この国の用兵と、ワシらのやり方は随分違うのです」
「なるほど。では後ろから眺めておれと……」
「いえ。そうではございません。共に学んでいこうと、そういうわけです」
「共に学ぶ。私が直殿から習うではなくですか?」
「はい。ワシはワシの国の方法、我が家に伝わる兵法を使うのみ。しかし王子には、王子が見える戦がある」
「なるほど。視点がそれぞれ違うと」
「はい。話し合いの末、ワシのやり方が良さそうであれば、そうする。王子のやり方がよさそうであれば試す。という事にございます」
「なるほど。私の案が採用されることもありうるわけですね」
「もちろん。なぁ全蔵。ワシは全蔵の意見も採用するよな」
殿は俺をまっすぐ見た。
「はい。殿は俺の意見も取り入れてくださいます。
先日などは兵のほんの一言さえも、軍略に入れ込まれたお方。
見極めは厳しいですが、
幼い者の意見だからと、
無下にするようなお方ではありません。」
「そうですか。では共に戦おうと」
「はい。王子。よろしくお願い致します」
殿は頭を下げた。
それから三時間程会談を行い、
王に報告を済ませ、
俺たちは用意された部屋に入って、
休むことになった。
服をだらしなく緩め、
ベッドに横たわる殿。
胸がはだけ、
逞しい胸の筋肉があらわになる。
「全蔵。疲れただろう。お前も服を緩めよ」
「しかし……」
「いいではないか。人も来ぬよ」
「されど……」
殿はしばらく俺を見ていた。
「殿はご結婚されるのですね」
「不服か……」
「いえ、またとない縁談。不服などと」
「結婚したとて、お前はずっと側にいるだろ」
「お暇を頂くまでは」
「暇なんぞ、出さんよ」
「はい」
「全蔵」
「はい」
殿はじっと俺を見つめる。
(こんこんこん)
扉を叩く音がする。
「何事か?」
殿は言った。
「お風呂が用意できました」
侍女の声がする。
「わかった。少し待て。全蔵、風呂に行くぞ」
「はっ」
俺たちは、
浴場に案内される。
広さは十畳ほどであろうか。
ずいぶん大きな湯舟だ。
「この国では、滅多に風呂に入らぬと聞いたが」
殿は侍女に尋ねた。
「はい。今回はご婚礼という事もあり、用意いたしました」
「そうか。連れも一緒に入ってもよいな」
「もちろんです」
「では全蔵。一緒に入ろう」
殿は言った。
侍女はじっと目を伏せ、
立ち尽くしている。
「なぜ、そこにおる」
「お勤めにございます」
「何の仕事をする」
「お背中をお流ししたり、あとは……」
侍女は口ごもる。
「背中は全蔵に流してもらうから、いいぞ」
殿が言うと、侍女は微かに震えた。
「なぁ。
この国の事はよくわからぬが、背中を流すのを拒否されるのは、この国では恥なのか?」
俺は尋ねた。
「はい」
侍女は顔を赤らめた。




