↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/12

慢心

それから、俺たちは3つの砦を攻略した。

魔物たちは、どんどん弱体化していった。


「やはり前線に兵を集中しておったか」


「このままですと、それほど苦労なく、手に入るかと」


「だな。しかし、そう上手くいくか……」

殿はしばらく地図から目を離さなかった。


「勇者殿。取り急ぎ、王都まで御帰還ください」

宰相の使いが来た。


「全蔵、来い」


俺たちは、王都に向かった。

謁見の間に通される。


高価そうな衣装に身を包んだ者達が、冷ややかな目でこちらを見ていた。

何か様子がおかしい。

「全蔵」


「はっ」


(かしゃかしゃ)

槍が突きつけられる。


「宰相、どういうつもりだ」

殿は静かに言った。


「申し訳ございません。

あまりにも連戦連勝。

あなたがたに疑いが出ておるのです」

宰相は目を逸らす。


「そうか。では軟禁でもしろ。軍はお前らが動かせ」

殿は言った。


その言葉に、

宰相が顔を上げた。


殿は抵抗せずに、

軟禁を受け入れた。


部屋は、

一応は豪華なものだった。

殿との二人きりの時間。

俺はうれしかった。


ベッドに横たわる殿。

「全蔵。この動きどう見る」


「城内に、戦が終わっては困る者がいる……」


「だろうな」


殿はベッドから起き上がった。

机の上にある焼き菓子を持ち、

扉を開ける。


「勇者殿、出てはなりません」

衛兵が止める。


「出る気などないよ。

ただ暇でな。少し話をしないか。

お前の任務は、ここで俺の監視をすることだろう。

俺が退屈で逃げ出したら、大事だ」


「たしかに、そうですね。しかし私は面白いことなど言えませんよ」


「そうか?

まぁいい。

そっちのお前もこっちに来い。まぁこれを食え」


殿が焼き菓子を手渡すと、

もう一人の衛兵が近づいてくる。


「全蔵、茶を入れてやってくれ」


「はっ」


殿はしばし、衛兵たちと歓談をした。


「しかし、この国の菓子と茶は美味いな。

お前らはいつもこんなモノを食っているのか?」


「いえ。こんな高価なモノは食べたことがございません。弟たちにも食べさせてやりたい」


「そうか。弟がいるのか?」


「はい。三人」


「そっちのお前は?」


「うちは四人です」


「そうか。そうか。全蔵。まだあるか?」


「はい。こちらに」


「お前ら、なにか包むものを持ってないか?」


「こちらに」


「これに菓子を包んで、持って帰れ」


「これは勇者殿の菓子です。頂けません」


「お前にやるんじゃないよ。お前らの弟たちにやるんだ」


「不服か?」


「いえ。滅相もございません」


「じゃあ。楽しかったよ。また話し相手になってくれ」


「はい。ありがとうございます」


殿は、そのまま扉を閉じた。

それから、

殿は食事や菓子の一部を、衛兵や侍女などに与え続けた。


ある時、

衛兵の一人が言った。

「勇者殿。とある大貴族の方が、あなた方を嫌っているようです。お気をつけください」


「そうか。ありがとう。その貴族の名前……」

衛兵の顔が曇る。


「いや、別に良い」

殿は言った。


それから数日たち、

食事を運んできた侍女に殿は尋ねた。

「この国にも大貴族は、たくさんいるのか?」


「いえ。

大貴族と言われるのは三家。

マース家、ユラナス家、ムーン家です」


「そうか。ワシの国と大して変わらないな。どこの国も同じということか……。

ありがとう。

ワシのいた国と、この国はどう違うのか知りたくてな」

殿は笑った。


それから、殿は暇だからこの国の歴史が知りたいと、学者を一人つけさせる。

数日の授業のあと、

「この国の大貴族は三家。

マース家、ユラナス家、ムーン家。

それぞれの成り立ちは?」

と尋ねた。


学者はなんの躊躇もなく、

答えていく。


「ではマース家が国防の要だったと」

殿は尋ねた。


「しかし、不思議だ。マース家は勇猛果敢だと聞く。なぜあそこまで、砦を陥落されたのか?」


学者の顔が曇る。

「いや。すまぬ。忘れてくれ」


殿は菓子を差し出す。


「これはあくまで噂ですが、現当主が……」


「なるほど、どこの国も同じだな。

いやな。

ワシの国でも同じようなことが、あったのよ。

だからもしかすると、どこの国の歴史も同じなのではないかと思ってな。

お主も歴史学者ならわかるだろ」


「はい。もちろん」


「歴史を紐解き、因果関係を探るのは、真にオモシロイのう」


「おわかりいただけますか?」


「もちろん。国にとって、もっとも必要な学問は歴史だ」


「勇者殿に、そう言っていただくと、うれしゅうございます」

学者の目は潤んでいた。


……

その日の夜。

「全蔵。調べてきてはくれないか?」

殿は言った。


「マースでございますね」


「あぁ」


「面白いものが見つかれば、どうしますか?」


「ムーン家と宰相、国王の所にでも、証を入れておけ」


「はっ」

俺は窓から部屋を出て、

マース家に侵入し調べ出す。

夜に出かけ、明け方までに戻る。


三日三晩かけ、慎重に調べた。

すると、

武器商人と穀物を扱う商人等から、

マース家は、

多額の賄賂を受け取っていたことがわかった。


俺はその証拠を、

ムーン家、宰相、国王の所に、入れておいた。


「殿、賄賂の証拠が出てきましたので、届けておきました」


「そうか。ご苦労だった」

殿は優しい目で俺を見た。


それから、城は慌ただしくなった。

殿は何食わぬ顔で、

衛兵や侍女たちに、

お菓子や食事の一部を与え続けた。


一週間後、

宰相が部屋を訪れた。


「勇者殿。疑いが晴れました。前線に戻ってはくれませぬか?」


「それで誰だったのだ。疑いをかけたのは?」


「マース……」


「噂になっておるな」


「はい。賄賂に手を染めていたようです」


「商人との癒着。戦が終わっては不都合だったのだな」


「そのようです」


「領地は没収だな」


「はい」


「では、よこせ」


「それは……」


「国王に話を通せ」


「……はい」


宰相は部屋から出て行った。

数刻後、宰相が戻ってきた。


「二割五分が限界です」


「わかった。それで良い。前線はどうなっている」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。