慢心
それから、俺たちは3つの砦を攻略した。
魔物たちは、どんどん弱体化していった。
「やはり前線に兵を集中しておったか」
「このままですと、それほど苦労なく、手に入るかと」
「だな。しかし、そう上手くいくか……」
殿はしばらく地図から目を離さなかった。
「勇者殿。取り急ぎ、王都まで御帰還ください」
宰相の使いが来た。
「全蔵、来い」
俺たちは、王都に向かった。
謁見の間に通される。
高価そうな衣装に身を包んだ者達が、冷ややかな目でこちらを見ていた。
何か様子がおかしい。
「全蔵」
「はっ」
(かしゃかしゃ)
槍が突きつけられる。
「宰相、どういうつもりだ」
殿は静かに言った。
「申し訳ございません。
あまりにも連戦連勝。
あなたがたに疑いが出ておるのです」
宰相は目を逸らす。
「そうか。では軟禁でもしろ。軍はお前らが動かせ」
殿は言った。
その言葉に、
宰相が顔を上げた。
殿は抵抗せずに、
軟禁を受け入れた。
部屋は、
一応は豪華なものだった。
殿との二人きりの時間。
俺はうれしかった。
ベッドに横たわる殿。
「全蔵。この動きどう見る」
「城内に、戦が終わっては困る者がいる……」
「だろうな」
殿はベッドから起き上がった。
机の上にある焼き菓子を持ち、
扉を開ける。
「勇者殿、出てはなりません」
衛兵が止める。
「出る気などないよ。
ただ暇でな。少し話をしないか。
お前の任務は、ここで俺の監視をすることだろう。
俺が退屈で逃げ出したら、大事だ」
「たしかに、そうですね。しかし私は面白いことなど言えませんよ」
「そうか?
まぁいい。
そっちのお前もこっちに来い。まぁこれを食え」
殿が焼き菓子を手渡すと、
もう一人の衛兵が近づいてくる。
「全蔵、茶を入れてやってくれ」
「はっ」
殿はしばし、衛兵たちと歓談をした。
「しかし、この国の菓子と茶は美味いな。
お前らはいつもこんなモノを食っているのか?」
「いえ。こんな高価なモノは食べたことがございません。弟たちにも食べさせてやりたい」
「そうか。弟がいるのか?」
「はい。三人」
「そっちのお前は?」
「うちは四人です」
「そうか。そうか。全蔵。まだあるか?」
「はい。こちらに」
「お前ら、なにか包むものを持ってないか?」
「こちらに」
「これに菓子を包んで、持って帰れ」
「これは勇者殿の菓子です。頂けません」
「お前にやるんじゃないよ。お前らの弟たちにやるんだ」
「不服か?」
「いえ。滅相もございません」
「じゃあ。楽しかったよ。また話し相手になってくれ」
「はい。ありがとうございます」
殿は、そのまま扉を閉じた。
それから、
殿は食事や菓子の一部を、衛兵や侍女などに与え続けた。
ある時、
衛兵の一人が言った。
「勇者殿。とある大貴族の方が、あなた方を嫌っているようです。お気をつけください」
「そうか。ありがとう。その貴族の名前……」
衛兵の顔が曇る。
「いや、別に良い」
殿は言った。
それから数日たち、
食事を運んできた侍女に殿は尋ねた。
「この国にも大貴族は、たくさんいるのか?」
「いえ。
大貴族と言われるのは三家。
マース家、ユラナス家、ムーン家です」
「そうか。ワシの国と大して変わらないな。どこの国も同じということか……。
ありがとう。
ワシのいた国と、この国はどう違うのか知りたくてな」
殿は笑った。
それから、殿は暇だからこの国の歴史が知りたいと、学者を一人つけさせる。
数日の授業のあと、
「この国の大貴族は三家。
マース家、ユラナス家、ムーン家。
それぞれの成り立ちは?」
と尋ねた。
学者はなんの躊躇もなく、
答えていく。
「ではマース家が国防の要だったと」
殿は尋ねた。
「しかし、不思議だ。マース家は勇猛果敢だと聞く。なぜあそこまで、砦を陥落されたのか?」
学者の顔が曇る。
「いや。すまぬ。忘れてくれ」
殿は菓子を差し出す。
「これはあくまで噂ですが、現当主が……」
「なるほど、どこの国も同じだな。
いやな。
ワシの国でも同じようなことが、あったのよ。
だからもしかすると、どこの国の歴史も同じなのではないかと思ってな。
お主も歴史学者ならわかるだろ」
「はい。もちろん」
「歴史を紐解き、因果関係を探るのは、真にオモシロイのう」
「おわかりいただけますか?」
「もちろん。国にとって、もっとも必要な学問は歴史だ」
「勇者殿に、そう言っていただくと、うれしゅうございます」
学者の目は潤んでいた。
……
その日の夜。
「全蔵。調べてきてはくれないか?」
殿は言った。
「マースでございますね」
「あぁ」
「面白いものが見つかれば、どうしますか?」
「ムーン家と宰相、国王の所にでも、証を入れておけ」
「はっ」
俺は窓から部屋を出て、
マース家に侵入し調べ出す。
夜に出かけ、明け方までに戻る。
三日三晩かけ、慎重に調べた。
すると、
武器商人と穀物を扱う商人等から、
マース家は、
多額の賄賂を受け取っていたことがわかった。
俺はその証拠を、
ムーン家、宰相、国王の所に、入れておいた。
「殿、賄賂の証拠が出てきましたので、届けておきました」
「そうか。ご苦労だった」
殿は優しい目で俺を見た。
それから、城は慌ただしくなった。
殿は何食わぬ顔で、
衛兵や侍女たちに、
お菓子や食事の一部を与え続けた。
一週間後、
宰相が部屋を訪れた。
「勇者殿。疑いが晴れました。前線に戻ってはくれませぬか?」
「それで誰だったのだ。疑いをかけたのは?」
「マース……」
「噂になっておるな」
「はい。賄賂に手を染めていたようです」
「商人との癒着。戦が終わっては不都合だったのだな」
「そのようです」
「領地は没収だな」
「はい」
「では、よこせ」
「それは……」
「国王に話を通せ」
「……はい」
宰相は部屋から出て行った。
数刻後、宰相が戻ってきた。
「二割五分が限界です」
「わかった。それで良い。前線はどうなっている」




