処理
翌朝も砦の処理は続いた。
殿は宰相に、砦の整備を行うよう依頼した。
前の砦はあまりにも抜け道が多かったので、
様々な仕掛けを仕込むよう進言した。
「これで全蔵も手が出せまい」
「失礼ながら、この程度であれば落とせます」
「そうか……、どこが弱い」
「ココとココです」
「なるほどな」
「ですが、費用がかかりすぎます」
「そうだな。だから抜いたのか」
「はい」
「ゴブリン共は片付けたか?」
「はい。あとは砦を水で洗えば」
「捕虜はおらぬな」
「はい。人語を話せぬゆえ」
「なにか物資はあったか?」
「魔物由来のものはなさそうです」
「では元々この国のモノばかりと」
「おそらく」
「鹵獲品で、装備の更新はしたか?」
「それがどれも平準的な装備で、補充用にしかなりません」
「では宰相に言って、整備させよう」
「はい」
「残敵は掃討したか?」
「兵士たちを使い、捜索中です」
「そうか……、砦の上にまいる。
ついてまいれ」
「はっ」
砦の上からは、王都もこれから落とそうと目論む砦も、ハッキリと見えた。
「次の砦はあそこにございます」
「あぁ」
「ご予定は?」
「まずあの森が厄介だ」
「砦に向かう際の挟撃ですね」
「あぁ」
森をよく見ると、木と木の間が短く、倒木もずいぶんある。
「たまたま北風が吹いた時に、火事でも起きれば……」
「なるほどな。それほど都合の良いことが起きるか?」
「神仏に祈りましょうか?」
「あぁ頼む」
「はい」
俺は土地の者に風の流れを尋ねた。
俺は森の隅に祭壇を置き、
ロウソクに火をつけ祈りを捧げる。
すると北風に煽られて、
ロウソクの火が枯れ枝に燃え移り、
火が広がっていく。
俺は黙って、それを見つめる。
強い熱が出て、野生動物たちが騒ぎ、森から逃げる。
その中にはゴブリンたちの姿もあった。
半日ほどで森は真っ黒な炭と化した。
弓を扱えるものを五十名ほどつのり、
森から追い出されたゴブリンたちを始末してまわった。
……
「神仏のご加護か……、殿の望みどおりになりました」
俺は殿に報告をした。
「野生動物には悪い事をした」
「狩りますか?鹿や猪などもおりました」
「弓兵の訓練になる。ただ腐らせるほどは狩るな」
「はっ」
俺は再び弓を持たせ、今度は鹿や猪を狩ることにした。
そして一週間、
兵たちは十分な肉を食らい、英気を養った。
……
「では偵察に行ってくれるか?」
殿は言った。
「はい」
俺は再び新しい砦に忍び込んだ。
砦を落とされたことで、警戒は強くなっていた。
しかし、厳重とはいえ、死角は必ずできる。
俺は、砦に忍び込む。
またしてもゴブリン。
砦の造りも大差なく、
大型のゴブリンが一匹いた。
そして、
人が奴隷として使われていた。
「殿。見てまいりました」
「どうだ。先日の砦との違いは?」
「ほとんど違いはございません。しいて言えば、ゴブリンの数が三百ほどに減った事くらいでしょう」
「なるほど……、やはり前線に戦力を集中していると見ていいと思うか?」
「合理的かと」
「戦術的には同じで良いと思うか?」
「問題ないかと」
「いつ行く?」
「今晩は?」
「だめだ。今晩は満月だ」
「しかし警備が増えると、落としにくくなります」
「満月は闇が明らかになる」
「殿。
あんなにも多量に炭があるではありませんか」
「なるほど、兵たちに炭を塗らせるか」
「はい。俺も炭を塗り、闇に紛れ込みましょう」
「そうだな。そうしよう」
「はい」
「そういえば、先日はぬか袋を使ってなかったな」
「板の間や、玉砂利のように、足音を気取られそうな場所がありませんでした」
「そうか。地面の状況が違えば、道具も不要なのか」
「はい。今回もぬか袋は不要そうです」
「そうか。ワシらの国よりも攻めやすそうだな」
「今のところは、そう思います」
「では今晩向かうとするか」
「はい」
俺はそう答え、
砦に忍び込む準備を整えた。
そして、
あっけなく砦は落ちた。
兵士は、先日のように、喜んではいなかった。
酒を飲む兵の言葉が聞こえてきた。
「俺、戦って命の取り合いだと思ってた。でも今回のはそんな感じがしない」
「いや命の取り合いだろ。ゴブリンとかも襲ってくるし」
「砦落とすのに、前はどれくらいの命が落ちた?」
「まぁ半分くらいはすぐに命落とすもんな」
「前回と今回、どのくらいの味方が命落とした?」
「皆生きてる。だれ一人欠けていない」
「そうだろ。それに矢に当たった奴はいるか?」
「いない。ゴブリンは矢を使うだろ」
「あぁ使う。俺見たんだ。弦が切れた弓を」
「弓を封じていたと」
「あぁ。それだけじゃない。ゴブリンも弱々しかった」
「たしかに、一方的に蹂躙している感じしかしなかったもんな」
「そうだろ。それにデカいゴブリンもいたのに。もう死んでた」
「戦う前に、戦いが終わっていたという事か」
「あぁそうだ。贅沢いう訳じゃないが、戦いの醍醐味みたいなのがないんだよ」
「たしかにな。単に後片付けをしてるみたいだ」
……
俺は殿に一部始終を話した。
「人というのは、強欲だな」
「はい」
「危険だと安全にしろと大騒ぎしよる。安全だと退屈だと文句を言う」
「確かに」
「適度な博打性も必要だという事だろうか?」
「殿、それは本質ではありません」
「そうだな。ワシらは魔物を討伐して、領地を得ることが目的だからな」
「俺がやっていることを伝えたほうが……」
「忍び、隠密、お前のやることは、そういう事だ」
「口を閉ざせと」
「あぁ。しかし時折、戦の恐怖は教えんとな」
「では模擬戦でもいたしましょうか?」
「そうだな。ただ全蔵。お前は出るな」
「なぜですか?恐怖を味わわせるのが肝要なのでは」
「お前が出ると、勝てるなど思わぬではないか。
少し勝てそうなくらいが、一番良いんだよ」




