レーラ姫との出会い
「父上」
女の声と共に、
入口の方から、百合のような香りがした。
「申し訳ございません。謁見の途中でございますと申し上げたのですが」
兵士は跪く。
「レーラ様、何事でしょうか?」
宰相は尋ねた。
「出過ぎたことかとは思いますが、私を褒賞としてお付けするのは、いかがでしょうか?」
王は宰相に首を振る。
「いけません」
宰相は言った。
「ほほぅ。なるほどな。ワシが政治的には役に立たん男だと、王はそう言いたいのか?」
殿は笑みを浮かべる。
王は宰相に向かって首を振る。
「いえ、そうではございません」
「ではなんだ?
功労のあった者に、褒美を出せないのなら、娘を差し出す。
世の習いだろう」
「ですが、あなたは異国の……」
「異国?
異国だと言って差別しながら、頼るのか?
まったく訳がわからないご都合主義よのう」
「勇者殿のおっしゃる通りです。我らが頼れるのは、勇者殿だけ。私は救国の勇者殿であれば、嫁ぐことに躊躇は致しません」
レーラは真っすぐに王を見た。
王は頷く。
「では、討伐の暁にはレーラ姫を勇者殿へと嫁がせると約束しよう」
「ちょっと待て、俺の意思確認なしにか……」
緊張が走る。
「それは御無礼を」
レーラは膝をつく。
殿はレーラを舐めるように観察する。
「わかった。三割だ」
王は一度レーラを見てから頷いた。
「わかりました。奪還した領地の三割を勇者殿の領地といたしましょう」
「わかった。それで敵は?」
「地図や絵などがありますゆえ、詳しくは別室でお話しましょう」
そう宰相は言った。
俺たちは宰相と騎士団長、そして賢者についていく。
謁見の間と呼ばれる先ほどの部屋の三つ隣の部屋に案内される。
中央に大きな机と、数多くの椅子が並べられていた。
「そちらにお座りください」
背もたれがついており、正座や胡坐には向いていなさそうだ。
「殿。これは腰をかけるものだと思われます」
そう囁く。
殿は頷き、腰をかける。
俺は殿の側で膝まずく。
「全蔵殿も、椅子にお座りください」
殿が目で合図をする。
「では殿、失礼いたします」
俺も腰をかける。
机の上に、地図が広げられる。
「戦については、私が説明いたします。
まずこれが我が王国の領土の地図です」
騎士団長は言った。
殿は頷く。
「そして、このバツがつけられているのが、魔物に落とされた城や砦です」
六割程度の城や砦にバツがついていた。
「それで、ここの城はココという事だな」
殿は確認をする。
「そうです」
「騎士団長殿。
その魔物とやらは、どのような順番でここまで城や砦を落としてきた?」
「まずはこの北の砦を皮切りに、ここ、ここ、ここ……という順に落とされました」
「なるほど、わかった。それで全蔵から奪った武器や道具はどの程度ある?」
「しばらくお待ちください。おい、全蔵様の物を持ってまいれ」
賢者は廊下に出て、指図をする。
「お待たせしました。こちらにございます」
俺の道具が目の前に並べられた。
「道具は全部あるか?」
「いえ、普段持ち歩かないものもありますので、足りないものばかりです」
「何が必要だ?」
「腕のいい鍛冶屋と薬屋と大工ですね」
「用意できるか?」
殿は騎士団長を見た。
「すぐにでも」
騎士団長は廊下に出て指示をする。
「それで兵士はどのくらい用意できる?」
「出せて百名です」
「百名か……、兵士じゃなければ?」
「志願する者がいれば、補充はできますが、訓練には時間がかかります」
「罪人はいないか?」
「罪人はいますが、何にお使いになるのですか?」
「兵士だ」
「危険です」
「そんな事は聞いていない。罪人は何人くらいいる?」
「五百ほどはいるかと」
「罪状は?」
「窃盗、強盗、詐欺、あとは政治犯です」
「活躍したら、恩赦を与える。可能か?」
騎士団長は宰相を見る。
「戦時下の特例としてなら、ただ政治犯は難しいです」
「わかった。じゃあ今日は解散だ」
「それだけで良いのですか?」
「他に何がいる?
あぁワシらの拠点と、身の回りの世話をするものも頼む。
身の回りの世話をするのは、若い男だ。
女はダメだ」
「わかりました。さっそく準備いたします。用意するまで、しばらくこちらの部屋をお使いください。なにかありましたら、外の衛兵にお声をおかけください」
宰相はそう言い、部屋から出て行った。
部屋には俺と殿の二人きりとなった。
「全蔵。騎士団長の話を聞いて、どう思う?」
「魔物とやらが、この国を落とした手順の事ですよね」
「あぁ」
「合理的ではありません。手あたり次第といった感じでしょうか」
「戦は強いが、それほど賢くないかもしれぬな」
「油断はできませんが、殿のおっしゃる通りかと」
「全蔵はどう思う?」
「まずこの地点の奪還が最重要かと」
「だな。それで……、どう攻める」
「まずは、この地点、次にこの地点、そしてこの地点を順に落としていきます」
「それが順当だろうな」
「はい。あとは道具が用意できましたら、偵察に向かいます」
「あぁ」
「その間殿は……」
「そうだな。この国には囲碁もなさそうだ。何をするか……」
「殿は怖くはないのですか?」
「怖い?」
「いえ。失礼しました」
「怖くはないよ。全蔵、お前がいるからな」
殿は俺の肩を持った。
殿の手はもう震えてはいなかった。
「命に代えてお守り致します」
「お前が逝くとワシが困る」
「はっ」
殿の目はとても優しかった。
しばらくすると鍛冶屋と薬屋と大工が部屋にやってきた。
俺はそれぞれに、
必要なものを注文する。
お代は国が持つとの事だった。
「何に使われるのですか?」
と不思議そうな顔をされたので、俺は嘘を教えておいた。
皆が帰ったあと。
「嘘つきだな」
殿が笑った。
「兵は詭道なり」
「だな」
殿は俺の肩を触った。
殿の匂いがする。
先ほどより、匂いは薄まっていた。




