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初めて

「殿……、少し待ってはいただけませんか?」

俺は殿の目を見た。


殿は、口角をあげる。


「待てば何か変わるとでも?」


「いえ……、どうでしょう」


「ならば、よいではないか……、受け入れろ」


「……はい」


(がたがたがた)

突然部屋が揺れはじめた。


「殿……」


「全蔵……」


殿の匂いと声が薄くなっていく。


……


「勇者殿。勇者殿」

声が聞こえる。


俺は目を開ける。

すぐ隣で殿が倒れている。

体を動かしたいのに、動かない。


「殿、殿、大丈夫ですか。殿」

俺は呼びかける。


「あぁ、こちらのお供の方は、無事なようだ」

声が聞こえる。


俺は首を動かす。

あごひげを蓄えた老人が、我らを覗き込んでいる。


「身体のしびれは、もうすぐ取れましょう。驚かせてしまいまして、申し訳ございません」

老人は答えた。


老人の言うように、しばらくすると、しびれは取れた。


俺は殿にかけより、脈を診る。

大丈夫だ。


「ご老人。あなたが我々を助けてくださったのか?」


「いえ。そうではございません。我らがあなた方を呼び出したのです」


「呼び出した? ここはどこだ。我らは地震で……」


「ここは王国の神殿にございます。神の力であなた方を召喚したのです」


「王国?神殿?どのような意味だ。お主は異国の民か?」


「はい。私どもは異国の民にございます」


「さては、妖術を使ったのだな」


「妖術……、まぁあなた方の言葉で言うと、妖術なのかもしれませんな」


「異国の民であれば、なぜ我らの言葉を話す?」


「どう説明しましょうか。それも妖術のようなもので……」


「我らを元のところへ返せ。忙しいのだ」


「申し訳ございませんが……、帰る手はございません」


俺は胸元の短刀を探す。


「短刀でしたら、お預かりしております」


「返せ。それは殿に頂いた大事な刀だ」


「返せば、私の喉元を掻き切るでしょう」


俺は身体を反転させ、

隠し持った針を老人の喉元に沿わす。


「急所を一突きすれば、お前は絶命する。さぁ我らを返せ」


「ですから、帰る手はございません」

老人は言った。


「まぁ待て」

殿の目が開く。


「殿、ご無事でしたか?」


「当たり前だ。ワシを誰だと思っておる」


「失礼いたしました」


殿の目がぎょろりと、老人を睨む。


「ご老人。我らを呼んだ理由を聞かせてもらおうか?」


「はい。

実は我が王国は、魔物達に襲われ、滅びかけております。

そこで勇者召喚の儀式を行ったところ、あなた方二人が召喚されたのです」


「つまり、ワシら二人が勇者だと……」


「そうです」


「なるほど。全蔵どう思う?」


「我らが加担する義理がございません」


「そうよな。ご老人。全蔵が言うように、義理はないが、どうする」


「もちろん報奨をお支払いします」


「どの程度だ」


「我が国の貴族としての地位はいかがでしょうか?」


「貴族……。それはつまり領地をくれると?」


「そうですね。領地を……」


「煮え切らぬ言い方だのぅ。お前はしかるべき立場の人間ではないのか?」


「私はこの国の賢者。つまり相談役のようなもの。

国王様と宰相様がお決めになられることですので」


「ならば、そこに連れていけ」


「はい。こちらにございます」


俺たちは、

賢者に案内をされる。

石造りの冷たい施設。

時おり、外が見えるが、ここは山城だろうか。


「賢者殿とお呼びして良いか?」

俺は尋ねた。


「はい。私はどうお呼びしたら」


「全蔵で」


「わかりました。全蔵様」


「賢者殿、ここは山城なのであろうか?」


「山城……。そうですね。あなた方の国の山城にあたると思います」


俺はあちこちを確認しながら、ついていく。


しばらくすると……


「しばらくお待ちください」

賢者が立ち止まった。

賢者は扉を開け、中に入っていく。


「全蔵。この城は攻略できそうか?」

殿は耳打ちをする。


「全体を見ていないので、なんとも言えませんが、道具があれば侵入は可能かと……」


殿は頷いた。


「お待たせしました。どうぞこちらへ」

賢者が出てきた。


その部屋は廊下とは違い、壁面には漆喰が塗られ、床には赤い毛織物が敷かれていた。

中央奥には椅子があり、顎髭を蓄えた威圧感のある男が座っていた。

側面の壁には、鉄の鎧を着た兵士が手に槍を持ち立っている。

人数は五十人程度。


「勇者殿。よくぞ来てくださった。ワシがこの国の王である」

中央奥の椅子に座った男は言った。


「お初にお目にかかります。

それで……、

褒賞と敵、そしてこちらが使える戦力について聞かせてもらおうか」


「宰相。任せたぞ」


「御意」

宰相と呼ばれる男は頷いた。


「褒賞は取り返した土地の一割」


「少ないな。半分だ」

殿は表情を変えずに言った。


「いや。一割だ」


「話にならない」


王が手を上げる。

宰相が耳打ちをする。


「では二割だ」


「四割で手を打とう」


「それは無理だ」


「ワシが協力しなければ、国が亡びるのであろう」


王は再び、宰相を呼ぶ。


「わかった。二割五分」


「無理だな。こっちとしては命がけの戦だ。命の対価が二割五分では安すぎる」


「しかし……」

宰相は苦虫を噛んだような顔をしている。


「陛下。このような無礼な者。打ち取ってしまいましょう」

兵士の中で特に立派な装備を持つ者が言った。

兵士達は槍を持つ手に力を入れる。


殿は俺に目配せをする。

その瞬間、

俺は王の喉元に針を沿わせる。


「ワシが合図を出せば、王は終わる。どうする?」


「騎士団長、おふざけが過ぎるぞ」

宰相は叫んだ。


「お前らやめろ」

騎士団長と呼ばれる男は言った。


「謝罪は?」

殿は笑った。


宰相は騎士団長に目くばせをする。


騎士団長は苦々しい顔をして、膝をついた。

その配下の兵達も膝をつく。

その手は微かに震えていた。


「勇者殿、御無礼をいたしました」

騎士団長はそう言った。


「わかれば良い。」


重苦しい沈黙が流れる。

俺は国王の近くにそのままいた。


「勇者殿。王への手を……」

宰相は言った。


国王は冷静に威厳ある態度を示してはいた。

だが、

微かに、王の着物が揺れていたのだ。

俺は、殿の目を見る。

殿は頷く。


俺は一歩、

一歩と周りを見ながら、

殿の側に戻った。


殿の匂いが微かに強くなった。

殿の額をみる。

汗の光が見える。


「いつでも殺れます」

俺は殿に囁いた。


殿は俺の肩を触った。

殿の手は微かに震えていた。


もし「続きを読んでみたい」と思っていただけたら、

ブックマークしていただけるととても励みになります。


本作はすべて完結済みで、安心して最後まで読めます。


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