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おばあさまの幻

 人は、いくら内容が違えど似通った事を多く擦られ続ければ、いずれ馴れて飽きていく。


 最初の炎は新鮮だった。

 次は少し強く。

 その次は、もっと強く。


 刺激は次第に薄れ、同じ火では誰も振り向かなくなる。


 ならば、より乾いた薪を探せばいい。


 より過激な言葉。

 より尖った主張。

 より大きな敵。


 火は確かに大きくなる。


 だが、その炎はもはや暖を取るためのものではない。


 ただ、意味もなく燃え盛っているだけだ。


 

 彼は気付かない。


 火事に集まっているのは読者ではなく、野次馬であることに。



 野次馬は、物語を読まない。

 彼らが消費するのは作品ではなく、騒ぎだ。


 そして野次馬は、すぐに別の誰かの所へ移っていく。

 気付けば、手元にはマッチしか残っていない。


 それを擦れば、確かにまた明るくなるだろう。

 だが、同時にそれは終わりを意味する。


 信用は燃え尽き、「またか」という冷たい視線だけが残る。




 マッチ売りの少女は、最後の火で幻を見る。

 優しい笑みを浮かべるおばあさまの姿。


 消えないで、私も連れて行って。


 そう願い、手にしていた残りのマッチの束に纏めて火をつけたのだ。

 


 創作者もまた、最後の火で幻を見る。


 「これで読者を取り返せる」

 「話題さえあれば、きっと作品は読まれる」

 「夢の小説家になれるんだ」



 だが、朝は来る。


 残るのは、大量の灰と、冷え切った信用。


 爆発は芸術かもしれない。

 しかし炎上は、芸術にはならない。

 


 評価されぬ静寂に耐えられない者は、その後の創作にも耐えられない。



 なぜなら創作とは、

 ”誰も見ていない夜を積み重ねる営み”だからだ。



 火は一瞬で灯る。

 誰だって簡単に出来る。やりたいのならば、いくらでも出来るだろう。

 捨て垢ではなく、ちゃんとしたアカウントで、過激なリプを一本送れば良いだけなのだ。




 だが信用という階段は、積み上げるのに何年もかかる。

 なのに、失うのは一瞬だ。

 亀裂が走り、ヒビを埋める事すらただ積み上げるよりもはるかに時間がかかるのだ。




 最後のマッチを擦る前に、問うべきことがある。


 あなたは暖を取りたいのか。

 それとも、自らの棺を燃やしたいのか。




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