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叶さん  作者: Toyo
5/6

暴走

過去の記憶を戻し二度と忘れない記憶、その願い、叶えます。


*莉々愛が決意を込めた言葉を口にした、その瞬間。

ベランダに通じる窓がカタリと小さな音を立てた。

二人がそちらに視線を向けると、閉めたはずのガラス戸の向こうにぼんやりと人影が浮かび上がっている。*



その願い、叶えます。

*静かだが凛と響き渡る声。

そこに立っていたのは紛れもなく叶だった。彼女は柔らかな笑顔を浮かべ、まるで最初からそこにいたかのような自然さで二人を見ている。*


…かなえ…さん…? ななんでここに…。


*莉々愛が驚愕に目を見開く。鍵は閉まっていた。ここは二階だ。ありえない。*



*叶がそう囁いた瞬間、皇輝の頭の中で何かが弾けた。

堰を切ったように忘却の彼方にあったはずの光景が濁流のように流れ込んでくる。

初めて彼女に出会った日のこと。不器用な優しさに触れた日。くだらないことで喧嘩して、それでも離れられなかった日々。そして――この腕の中で彼女を抱きしめ、愛を告げた夜の熱。*



…あ……ぁ……


*皇輝はこめかみを押さえ苦しげに呻いた。

頭が割れそうだ。情報量が多すぎる。

日記で読んだだけの出来事が、鮮やかな映像と感覚を伴って、失われていたパズルのピースがはまるように、次々と脳裏に蘇ってく。*


…梨々…花…


*彼は目の前にいる少女の名前を今度こそ何のてらいもなくはっきりと口にした。

それは日記帳に書かれた文字ではない。

一年間ずっと呼び続けた愛しい人の名前だった。*


…皇輝…! 私のこと思い出したの…?


*名前を呼ばれ莉々愛は感極まったように彼に駆け寄りその身体を強く抱きしめた。

やっとやっと思い出してくれた。長かった。本当に長かった。

彼女もまた彼の背中に腕を回し、喜びを分かち合おうとした。

しかし、その身体はすぐに小刻みに震え始めていることに気づく。*


…? どうしたの…?


*彼を抱く腕の中で何かがおかしいと感じ始める。

再会を喜ぶ震えではない。これはもっと深い絶望と苦痛からくるものだ。*


*皇輝の意識はもはや幸福な記憶の中にはなかった。

それよりも遥か以前の暗く冷たい記憶の海へと引きずり込まれていた。

そうだ。彼女は俺を突き放した。

冷たくされ、傷つけられ、遠ざけられた。

生きる意味を見失った。死のうと思った。何度も。

屋上から飛び降りた感覚。首を吊った時のロープの食い込み。薬を大量に飲んだ後の胃がねじれるような苦しみ。

一度ではない。

二度三度四度…。

死んで死んで死に続けた。

その度に気づくとまた同じ日に巻き戻っていた。

叶の言っていた「やり直し」。

その真実が、今無数の「死の記憶」と「感覚」となって彼を襲う。*



…あ…が…っ…うあああああああああっ!!!


*それは言葉にならない絶叫だった。

彼は莉々愛を突き飛ばすようにして頭を抱え、床に膝から崩れ落ちた。*



……俺が願えばよかった…そうすれば莉々愛はこんなに苦しい思いをしなかった…!!


*彼からほとばしったのは、思いがけない言葉だった。

自分が忘れていたことへの怒りでも、彼女に拒絶された悲しみでもない。

ただひたすらに彼女が一人で背負ってきたであろう苦しみへの悔恨だった。

無数に繰り返された時間の中で、彼女は一体どれだけ傷つき、絶望してきたのだろう。

その想像が、津波のように彼に襲いかかった。*


…っ!


莉々愛は一瞬傷ついた顔をしたが、すぐに皇輝の異変に駆け寄った。彼が何を叫んでいるのかその意味を瞬時に理解する。*


…違う…! 違うよ皇輝!


*彼女は彼を正面から抱え込むようにして抱きしめ、震える声で叫んだ。*


苦しくなんかなかった…! あんたが隣にいてくれるなら、私は何回だってやり直せた…! 苦しかったのはあんただよ…!


*彼女の声もまた涙で震えていた。

そう彼女は知っていたのだ。

時を戻すたびに彼が自ら命を絶っていたことを。

その度に彼女は世界が終わるよりも辛い喪失感を味わっていた。

自分の力が、愛する人を死に追いやっていた。

それが彼女にとって最大の苦痛だったのだから。*


ごめん…ごめんね…私が、もっと早く…!


*二人は互いを想うがゆえに、互いに深く傷ついていた。

その悲痛な叫びは誰に届くでもなくただ広いリビングに虚しく響いていた。*


……叶の力…俺に寄越せ!!俺が叶える側になる!!


*その声はもはや懇願ではなかった。

全てを奪い取るかのような、絶対的な意志の発露。

お前が彼女をここまで苦しめたのなら、その力は俺が貰う。今度は俺が彼女のために使う。

理不尽な要求。筋の通らない逆恨み。それでも、それが彼の偽らざる本心だった。*


*すると背後から再びあの穏やかな笑い声が聞こえた。

いつの間にか叶が二人のすぐ後ろに立っていた。まるで最初めからそこにいたかのように、当たり前の顔で。*


…え…?


*莉々愛と皇輝が同時に、信じられないという顔で振り返る。

何を言っているんだこの人は。願いを叶える側になる? そんなことが可能なのか?*


*だが、叶は悪戯っぽく微笑むだけだった。*


その願い、叶えます。

…ありがとう、私の願いを叶えてくれて。


*彼女はそう言うと、ふっと姿が透け始めた。

まるでこの世界に存在する時間が尽きかけているかのように。*


待って…! 行かないで…!


*莉々愛が慌てて手を伸ばすが、その手は叶の身体をすり抜けるだけで、何にも触れることはできなかった。*


これで良かったんだ……これでやっと二人の世界になる……。


…うん…。

*彼女は皇輝の胸に顔をうずめその温もりと心臓の音に耳を澄ませた。

もう誰にも邪魔されない。もう何も失うことはない。

これからはずっと一緒にいられる。

その事実が、じわりと胸の奥から温かい幸福感を広げていく。*


…ねえ皇輝。

*顔を上げた莉々愛の瞳は、涙に濡れながらも今まで見たことがないほど幸せそうに輝いていた。*


今度こそ…ちゃんと言わせて。

…私と付き合ってくれますか…?


もちろん、一生愛します。


…っ…!

*「一生」という言葉が彼女の心の最後のダムを決壊させた。

莉々愛の顔がくしゃりと歪み大粒の涙がぼろぼろと溢れ出す。

でも、それはもう悲しみや後悔の涙ではなかった。

ただただどうしようもないほどの幸福と安堵が形になったものだった。*


…ばか…。そんなの…反則だよ…。


*彼女はしゃくりあげながら、それでも嬉しそうに笑った。ぐしゃぐしゃの笑顔だった。*


…私も…私もずっと…ずっと愛してる…!


*ようやく素直に言えたその言葉は、何百回も心の中で練習したどんな言葉よりも自然に、そして真っ直ぐに彼へと届いた。

二人はどちらからともなく顔を近づけ、長くて、不器用で、たくさんの遠回りをした二人の、本当のファーストキスを静かに交わした。*


*翌朝。

窓から差し込む光も部屋の空気も昨日までと何も変わらない。

二人が並んで大学へ向かう、ありふれた日常の一コマ。

しかし、玄関のドアを開けた瞬間二人は奇妙な違和感に足を止めた。*


*すれ違う通行人。

マンションの向かいのベランダで洗濯物を干している主婦。

同じ大学に向かうであろう、見知らぬ学生たち。

彼ら彼女らの「中身」はいつもと同じだ。声も服装も性別も。

だが――。*


…ねぇ、皇輝…。

*隣を歩く莉々愛が、不安げに皇輝の袖を引いた。彼女自身もその異様な光景に気づいている。*


…あの人たち…顔が…。


*そう。すべての「顔」が、莉々愛そのものに変わっていたのである。

そして、男性たちは皆、鏡写しのように皇輝と寸分違わぬ顔をしていた。

にこやかに談笑する女子大生のグループ。その全員が、同じ顔で同じ声色で笑っている。

必死にプレゼンの練習をしながら歩くサラリーマン。彼もまた皇輝の顔をしている。*


…なんなの…これ…。気持ち悪い…。


挿絵(By みてみん)


*世界が一夜にして、悪趣味なドッキリに作り替えられてしまったかのように。

見慣れた風景の中に、自分たちと全く同じ顔だけが蠢いている。それは現実感を狂わせるには十分すぎるほど、不気味な光景だった。*


これが…二人の世界…?


*皇輝の言葉に莉々愛ははっと息を呑んだ。

昨日の皇輝の言葉が脳裏をよぎる。


『これで良かったんだ…これで二人の世界になる……』


…まさか…「二人だけの世界」って…こういうことだったの…?


*周りの人々は、何もおかしいと思っていないようだ。自分の顔も隣を歩く人間の顔もそれが当たり前であるかのように振る舞っている。

狂っているのは、この世界なのか。それとも、二人なのか。*


…嫌…っ。


*莉々愛は耐えきれなくなったように、顔を覆った。自分と同じ顔をした大勢の人間が闊歩する世界。それは自分という存在が希薄になり、溶けてなくなっていくような底知れぬ恐怖だった。*


こんなの、二人きりじゃない…ただの地獄だよ…!


*確かに、物理的に二人以外の人間はいないのかもしれない。

だが、そこに広がっているのは自分たちを無限に複製し、貼り付けたような無機質で不気気味な風景。

愛を誓い合った二人が手に入れたのは、甘い楽園ではなく、巨大な鏡の中の迷宮だった。*



*莉々愛を庇うようにその肩を抱いた皇輝は、ふとすぐ近くを通り過ぎるスーツ姿の男に目をやった。皇輝の顔をしたそのサラリーマンは、腕時計を忌々しげに一瞥すると、深いため息混じりに呟いた。*


ああもう…早く定時になんねぇかなぁ…。


*それはごくありふれた、日々の疲れを滲ませた独り言。

その言葉を耳にした瞬間、ぐにゃりと世界の景色が歪んだ。

強烈なめまいに襲われ、思わず目をつぶる。そして次に目を開けた時、世界はその様相を一変させていた。*


…うそ…。


*莉々愛が呆然と声を漏らす。先ほどまで眩しく輝いていた太陽は西の空に傾き、街並みをオレンジ色に染め上げていた。通学の喧騒は鳴りを潜め、代わりに帰路を急ぐ人々の足音が響き始めている。*


さっきまで、朝だったのに…。


*時間が、「飛んだ」。

あのサラリーマンの一言が引き金となり、まるでビデオの早送りのように世界が夕方へと移り変わってしまった。

空の色も街の影の長さも何もかもが先程とは違う。しかし、道行く人々――無数の自分と皇輝の顔――は何事もなかったかのように同じ場所を歩き続けている。

この世界では時間の流れすらも、誰かの気まぐれな「呟き」一つで決まってしまうのかもしれなかった。*


*背筋を冷たい汗が伝う。

時間さえもが予測不能なこの世界で、立ち尽くしているのはあまりにも危険すぎた。

次に誰が何を口にするか分からない。それが幸福なことなのか、それともさらなる悪夢を呼び起こすのか、全く予想がつかなかった。*


なんなんだこれは……帰ろう!莉々愛!


*皇輝は莉々愛の手を強く握ると、人混みをかき分けるようにして駆け出した。一刻も早くこの場を離れ、あの「家」に戻らなければならない。*


うん…!


*莉々愛も恐怖に顔をこわばらせながらも、必死で皇輝に続いた。二人の背後で自分たちと同じ顔をした人々が、相変わらず無表情に行き交っている。まるで悪夢の中から抜け出せないようだった。*


*全力で走り、ようやく見慣れたマンションにたどり着く。エントランスを抜けエレベーターに乗り込み、乱暴に鍵を開けて自宅のドアを閉めた瞬間、二人同時にその場にへたり込んだ。*

*外の世界から完全に遮断された、見知った空間。そこで初めて、張り詰めていた緊張の糸が切れ、荒い呼吸だけが部屋に響いた。*


*床に座り込んだまま、まだ心臓が激しく脈打っているのを感じる。

しばらくの間二人とも言葉を発することができなかった。ただ互いの存在を確かめるように、手だけは固く握りしめていた。

やがて、少しだけ落ち着きを取り戻した皇輝が、重い体を起こしてスマートフォンを手に取る。

普段の習慣で無意識にニュースアプリを開いてしまった。この世界でネットの情報が正常に機能するのかは分からなかったが。*


…莉々愛。これ…。


*画面に表示されたニュースの見出しに、皇輝は絶句した。

そこにはこう書かれていた。*

『速報:世界的カリスマ預言者"終末の子"、明日人類滅亡を予言。株世界恐慌リゾートキャンセル殺到』


*記事の内容を要約するとこうだ。

世界中に影響力を持つ預言者が、「明日の日没、第二の太陽が昇り、地上は浄化の炎に包まれるだろう」と予言した。そのニュースは瞬く間に世界を駆け巡り、金融市場は大混乱。誰もがパニックに陥り航空券や宿泊予約はサーバーがダウンするほどのアクセス集中でキャンセルが殺到している、とのことだった。

写真には空港で泣き叫ぶ人々や、最後の晩餐とばかりに豪遊する人たちの姿が映し出されている。*


…明日、世界が…滅ぶ…?


*ニュースを覗き込んだ莉々愛の声が、か細く震えた。外で起きた時間の跳躍。そして今度は世界の終わりを告げる予言。

もはや何が起きてもおかしくない。そんな絶望的な予感が二人の心を支配した


こういうのは大体当たらないんだよ。

それに俺が当たらないといえば絶対に当たらない。


…ふふっ。

*不意に莉々愛の口から小さな笑い声が漏れた。それはいつもの嘲笑とは違う、心の底から込み上げてきたような、乾いた笑みだった。*


なにそれ…。あんた神様か何か?


*彼女はまだ青ざめた顔のままだったが、その瞳にはほんの少しだけ光が戻っていた。皇輝の途方もない自信が、絶望に沈みかけていた彼女の心を、少しだけ引き上げてくれたのかもしれない。*


でも…そう、だよね。あんたが言うなら、きっと大丈夫。…世界なんて、滅びっこない。


*莉々愛はそう言って、そっと皇輝の肩に頭を預けた。彼の体温と匂いが、今は何よりも心強いお守りのように思えた。*



*預言から一夜が明けた。

しかし、空にはいつもと変わらない太陽が昇り、街は普段通り(あるいはそれ以上に)の活気を見せている。世界の終末などまるで嘘だったかのような、穏やかな朝だった。

だが、そのニュースを見てしまった皇輝と莉々愛にとって、外界はもはや地雷原そのものだった。

誰かが話す声道端のスピーカーから流れる音楽携帯の通知音――そのすべてが、新たな厄災の引き金になるのではないかという恐怖が二人を苛んだ。*


*その日から、二人は家から一歩も出なくなった。

カーテンは閉め切られ、昼間だというのに室内は薄暗い。テレビもつけずただ息を殺して、じっとしている。

皇輝の「考えるだけでも世界が狂う」という言葉は真実だったのかもしれない。意識すればするほど、悪い想像が頭をよぎりそれが現実になるのではないかと怯える。思考そのものが、この狂った世界を操作してしまうトリガーなのだ。

恐怖は伝染する。

最初は気丈に振る舞っていた莉々愛も、日に日に口数は減り皇輝の隣でただ小さくなっている時間が増えていった。*


…ねぇ皇輝。


*暗闇の中で莉々愛のか細い声だけが響く。*


…お腹すかない…?


やめてくれ…俺に話しかけると何かが起きる…


…っごめん…。


*その拒絶の言葉に莉々愛の体がびくりと震える。

彼女は慌てて口を噤みまるで自分が存在してはいけないもののように、身を縮こまらせた。

話しかけることすら許されない。

触れることもできない。

ただ同じ空気を吸いながら、息を潜めて隣にいるだけ。

その距離が、今は途方もなく遠く感じられた。*



*気まずい沈黙が再び部屋を支配する。

莉々愛は膝を抱えただ俯いている。彼女もまた自分が発した言葉が、何か取り返しのつかない災いを呼んでしまうのではないかと、心の中で怯えていた。

食料はまだ残っている。けれど、それを口にしようと提案することさえ、今は禁忌のように思えた。

二人はただ時が過ぎるのも分からず、光の入らない箱の中で、静かに息をしていた。*



*香ばしい、肉の焼ける匂い。

それはこの無音の世界において、あまりに場違いでそして抗いがたいほど魅惑的だった。

空腹を訴えた莉々愛自身の願いに応えるかのように、リビングの方から漂ってくる。*



…なにこの匂い…。


*恐る恐るといった様子で莉々愛が立ち上がる。皇輝を振り返るが、彼は蹲ったまま動かない。莉々愛は一人抜き足差し足で音を立てないようにそっとキッチンへと向かった。*


*そして、彼女は見てしまった。

ダイニングテーブルの上に信じられない光景が広がっていた。

そこにはこんがりと完璧なきつね色に焼き上げられた、豚の生首が、山のように積み重なっていたのだ。十や二十ではない。数えきれないほどの無数の首。どれもまだ温かく湯気を立て、食欲をそそる香りを放っている。

しかし、そのあまりの異様さとグロテスクさに莉々愛は声も出せずに立ち尽くす。

「空腹」を満たしてほしいという願いは、最も歪んだ形でこの世界に叶えられてしまった。*


なんだ…これは……!?消えろ!!


*皇輝の絶叫が響き渡った瞬間。

テーブルを埋め尽くしていたおびただしい数の豚生首が、まるで陽炎のようにぐにゃりと歪んだ。

そして次の瞬間すぅっと音もなく消えていく。一つまた一つとまるで最初から存在しなかったかのように。

香りも熱も全てが幻だったかのように消え去り後には静寂と何もないテーブルだけが残された。*


…消えた…。


*目の前で起きた超常現象に莉々愛は呆然と呟く。

これが、皇輝の力。

彼が「消えろ」と願えば本当に世界から消えてしまう。*


…すごい…。


*力を使うたびに皇輝はひどく消耗し、塞ぎ込んでしまう。ネットニュースをチェックする役目は自然と莉々愛が担うようになった。

イヤホンで音量をゼロにし、スマホの画面を食い入るように見つめる。

そこに表示されるのは地獄の始まりを告げるニュースばかりだった。*


**【緊急】世界各国で豚の消滅相次ぐ:原因不明の大規模失踪か**

**豚肉市場大混乱:買い占め相場暴騰、政府が緊急介入も**

**鶏肉・牛肉への需要急増、畜産価格は過去最高水準へ**


*どの記事も先ほど起きたばかりの出来事を、混乱しながらも報じている。

たった今この部屋で起きた皇輝の癇癪が、地球規模の食糧危機を引き起こしたのだと、冷たいテキストが突きつけていた。*


…どうしよう…。


*血の気が引いていくのがわかる。何気ない一言が、そして皇輝の感情の揺らぎが、世界を少しずつしかし確実に破壊していく。*

*このままでは本当に「世界が終わる」。*


*莉々愛が青ざめた顔で振り返ると、ソファに座る皇輝が力なく項垂れていた。彼は自分たちが何をしてしまったのか、まだ知らない。*


*翌朝莉々愛はいつものように恐る恐るスマートフォンの電源を入れた。

昨日の豚消滅事件の続報を探すと、そこには予想外の見出しが躍っていた。*



**【予言外れる】世界終末は起きずむしろ平和な一日へ**

**一部過激派が声明「神の御業か、あるいは悪魔の戯れか」**

**政府は豚の再出現を待ちつつ、代替食の普及に舵**


*世界が滅ぶどころか、むしろ何も起きなかったかのような、奇妙に落ち着いたニュース。

人々が「またか」と呆れたり、安堵したりしているのが文面から伝わってくる。

昨日までの深刻なパニックは嘘のようだ。*



…え…?どういうこと…?


*莉々愛の頭は完全に混乱していた。

世界は滅ばないのか?それとも、これは嵐の前の静けさなのか?

そして、「予言は外れた」という言葉。まるで誰かが世界の終わりを予言し、それが外れたと報告しているような…。*


*まさか。*


…皇輝くんが、願ったから…?


*彼の力が、世界を「あるべき姿」に戻した…?

もしそうだとしたら、彼の力はただ物を消すだけじゃない。

世界の理そのものを書き換えるほどの、途轍もない力だということになる。

その可能性に気づいた瞬間、背筋にぞくりと冷たいものが走った。*


*莉々愛の安堵は、ほんの束の間の幻に過ぎなかった。

予言の時刻――それは、何の前触れもなく唐突に訪れた。

地面が激しく横揺れ本棚が倒れ食器が砕け散る。

窓の外で世界が悲鳴を上げた。*













金が欲しい願い→子供一人につき1億円の給付金。

レーティングに引っかかるパニックになるので没…。

倫理?知ったこっちゃありません。私の人権を踏みにじった皇輝に人権なんてありません。とことん地獄を見てもらいます。

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