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【第2章完結】定時上がりの複業文官~残業しろ? いや、そっちの仕事は副業なので~  作者: 晩夏ノ空
第3章

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98 セラフィナの評判

前回に引き続き、アナスタシア視点です。





「それにしても、見たかったわ…ドレスアップしたセラフィナ」


 同僚の一人が夢見るように呟く。


「ものすっっっごい美人だったらしいじゃない? 一昨日(おととい)


 ここは領主館。文官は原則立ち入り禁止だが、領主一族であるクレメンティ侯爵家の居住区画は同じ建物の中、地続きだ。

 身内がクレメンティ侯爵家の使用人として働いているという者も多いので、文官にも結構情報は流れてくる。…あまりよろしくないような気はするが、恐らく領主様も承知の上で放置しているのだろう。


 昨日、つまりセラフィナがルーカス様の婚約者としてクレメンティ侯爵家に挨拶に行った翌日。文官たちはその話題で持ちきりだった。


 とうとう高嶺の花だったルーカス様が墜とされたとか、とうとうセラフィナが正式に手の届かないところに行ってしまったとか──少々、いやかなり、見当外れというか遅きに失した発言をしている者もいたが──大勢を占めていたのは、きちんとした服を着てルーカス様の隣に立つセラフィナが、別人のように美人だった、という話題だった。


 曰く、ルーカス様に全く見劣りしていない。むしろルーカス様の隣に居るのが自然。

 明らかにお互いを意識したと分かる服装で揃え、ルーカス様も普段の素っ気ない態度は全く見せず、使用人たちが勢揃いする前でセラフィナに迫っていたらしい。

 セラフィナは「からかうな」と怒っていたが、ルーカス様は明らかに本気でキスする気満々だったそうだ。今まで見たことのない笑顔とあまりの色気に、メイドが何人か、気絶しかけたらしい。


「ルーカス様の笑顔も見てみたかったわよねー。どういう表情でセラフィナを見てるのかしら」

「というかあの2人が並んでるところを見たいわ。できれば正装で」

「それね」

「それだわ」


 女性陣が真剣な顔で頷き合う。


 ルーカス様は貴族の社交の場にほとんど姿を見せず、現れたとしても無表情か眉間にシワを寄せているかの二択、という印象が強い。

 私も数回、お姿を拝見したことがあるが、遠目でも目立つ容姿に対して纏う空気は大層冷たく、とても近付ける雰囲気ではなかった。果敢に話しかけに行く他家のご令嬢がたの勇気と度胸に感服したくらいだ。


 そのルーカス様が、夏にセラフィナが方々から求婚を受けるや否や行動を起こし、セラフィナと婚約した。

 お付き合いでも仮婚約でもなく、婚約である。各方面に激震が走り──だが同時に、納得する声も上がった。ルーカス様がどんなご令嬢にもなびかなかったのは、ずっとセラフィナのことを見ていたからなのだろう、と。


 どこから出た話なのかは分からないが、そう考えると辻褄は合う。唯一人と思い定めた相手以外からのアプローチなど、邪魔なだけだ。

 そうしてルーカス様の印象は、「誰にも手の届かない孤高の美男子」から「たった一人を想い続けた一途な男」に塗り替わった。今回の実家への挨拶の一件は、その印象を裏付けるものでしかない。


 …そんなお二人が並んでいるところを見たいかと問われれば、当然、ものすごく、見てみたいですけれど。

 セラフィナのことだから、正装なんて恥ずかしがって見せてくれそうにありませんわよね…。


「あー…本っ当に、早いとこ動くんだったよなあ…!!」


 同僚の一人が頭を抱えた。彼は以前から、「セラフィナは絶対にちゃんと化粧をしたら化けるタイプだ」と主張していた一人である。

 文官として働き始めた当初からセラフィナは化粧をしていたし、大層失礼な物言いではあるが──


「何だよあれ! ちょっと髪型と服と化粧が変わっただけで全然印象違うし! あれじゃ他の連中も絶対気付くだろ、セラフィナは美人だって!!」

「まあ…そうだなぁ」

「髪型と服と化粧が変わったらそりゃ印象も変わるでしょ」

「ほぼ総取っ換えじゃないの」

「っていうかあれでようやく気付くとか遅過ぎよ」


 男性の同僚たちはその叫びに同調しているが、女性陣の目は冷たい。今更何を言うか、という感情がその視線に含まれている。


 ──実は、セラフィナに好意を抱いていた…有り体に言えば異性として意識していた男性文官は、相当数、いる。

 平民出身でありながら文官採用試験を正面から突破し、その仕事ぶりは誰もが認めざるを得ない水準。そして、言動を見る限りでは決まった相手もいない。孤児院出身であるがゆえに、下手なしがらみも、少なくとも表面上はなさそうに見える。一見地味だが、容貌自体は整っている。


 高魔力持ちだと発覚する以前から、彼女は男爵令息や子爵令息に人気があったのだ。今頭を抱えている彼を含めて。


 だが──セラフィナ自身が驚くほど鈍感かつ色恋沙汰に無関心だったため、どんなアプローチも意味がなかった。

 同じ課の同僚という立場ゆえ他の者より優位に立っていたはずの彼は、夏の一件の直後、「結婚を強要されたら街を出て行く」というセラフィナの発言により告白前に失恋していた。哀れだ。


「残念だけど、早く動いたってあんたじゃ無理よ」


 別の同僚が、彼に容赦なく言い放つ。


「だって、ライバルがルーカス様よ? 容姿、家柄、財力、魔力、本人の地位、どう考えたって敵うわけないじゃない」

「うぐ」

「セラフィナからは「ちょっと親しい同僚」くらいにしか思われてないしねぇ」

「ぐ」

「大体、文官で狩人で魔鉱細工師! なんて多忙なセラフィナを、あんたじゃ支え切れるとも思えないし」

「……」


 追撃を受けて、同僚がグフッ…と呻いて沈黙した。別の男性文官が眉を寄せて呟く。


「…分かりきってることを改めて指摘してくれるなよ…」

「……お前それ、むしろトドメだぞ…」

「あっ」








区切りの都合上、ちょっと短いですが、ここまでで。



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