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【第2章完結】定時上がりの複業文官~残業しろ? いや、そっちの仕事は副業なので~  作者: 晩夏ノ空
第3章

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95 耐性がないので。

2026年5月2日~6日は、毎日11時と13時に、1話ずつ更新してまいります。

よろしければお付き合いくださいませ。





 その後、今回納品分の魔鉱細工を差し出すと、アイリーンはコロッと機嫌を直した。


「今回はバングルに指輪、ペンダントトップにブローチね。すっかり安定したわねぇ」

「ようやくって感じだけどね」


 私は苦笑いで応じる。


 ちなみに、バングルにはアクアマリン、指輪にはブラックオパール、ペンダントトップにはルビー、ブローチには水晶が象嵌(ぞうがん)されている。宝石はいずれも、ルーカスの作だ。


「この感じならすぐ売れそうだわ。…ちなみに、再加工は受付けられる?」

「簡単な文字の刻印と、石の追加と…あと指輪のサイズ直しくらいなら。ただサイズ直しは限度があるし、どんな再加工でも、短納期のやつはお断りかな」

「分かったわ。いくらでも待つって言ってもらえる場合のみ受付け、ってことにしておくわね」


 アイリーンがさらさらと手帳にメモを取る。

 この店の顧客には貴族も多いし、無茶振りを受けることも多いだろうに、こちらの都合を優先してくれる姿勢には頭が上がらない。


「ギャレット伯爵家からの依頼は大丈夫なの?」

「今のところ、月に2件くらいの頻度だから大丈夫だよ。今まで頼んでた公都の工房にも仕事を振ってるみたい」


 ギャレット伯爵家は回復術師を多く輩出する家系で、このクレメンティ領では唯一、魔石に守りの魔法などを込めた『護符』を作ることができる家だ。私はそこの先代当主夫人のポーラから、護符を魔鉱細工のアクセサリーの形に加工する仕事を請け負っている。

 元々は魔鉱細工師たちの本拠地、公都の工房に依頼していたらしい。私はそれを横から掻っ(さら)った形だ。


 アイリーンが納得の表情を浮かべた。


「ああ…いきなり全部引き揚げると、反発も大きいものね」


 商取引上の付き合いとはいえ、なかなかに面倒である。私としてはこちらに矛先を向けてほしくないので、今後とも程々に付き合っていてもらいたい。


 そうして魔鉱細工の納品を終えると、次はルーカスの番だ。アイリーンから未加工の原石を受け取り、ルーカスからはカッティング済みの宝石を渡す。


「アレキサンドライト、ヘリオトロープ、ペリドットにスモーキークオーツ…どれも一級品ね」


 ルーペを置き、相変わらず見事だわ、と感嘆の溜息をつくアイリーンの前には、ベルベット張りの平箱の上、輝く宝石が並ぶ。

 アイリーンから受け取ったヒスイの原石を確認しつつ、ルーカスがぼそりと呟いた。


「原石の質が良いからな。どれほど技術があっても、素材が半端だったらどうしようもない」

「謙遜しなくていいわよ。最上級の原石を渡したって、カッティングで台無しにする職人は結構いるもの。間違いなく高品質のものが仕上がってくるって、貴重なんだから」


 別の金属と混ざらない限り失敗しても再利用できる魔鉱細工と違って、宝石の研磨はやり直しがきかない。

 割れたら終わり、削り過ぎても向きを間違っても終わり。しかも、求められる品質が非常に高い。シビアな世界だ。


 ルーカスの表情はそれほど変わらないが、どうやら照れているらしい。アイリーンがにやりと笑い、身を乗り出した。


「いっそ2人とも他の仕事を辞めて、魔鉱細工師と宝石職人に専念してもいいんじゃない? 現状でも生活できる程度には利益があるはずだし、そうなったら取引相手として優遇するわよ」

「え」


 思わぬ提案に固まる。専業の魔鉱細工師──昔は目標として掲げていたが、最近はむしろ選択肢から消えていた。何故なら、


「ええと…アイリーン、私、魔鉱細工の原料になる魔法金属のインゴット、狩人の仕事で調達してるんだけど…」

「ああ、それがあったわね。でも大丈夫よ。魔鉱細工用のミスリル銀のチップは、伝手を使えば結構簡単に手に入れられるから」

「…ミスリル銀の、チップ?」

「ええ」


 聞いたことのない単語が出てきた。アイリーンは紅茶を一口飲み、さらりと続ける。


「懇意にしてる公都の商会長と、魔鉱細工について話をする機会があったんだけど。あっちの工房では、インゴットじゃなくて、木くずみたいな感じの──ミスリル銀の破片から魔鉱細工を作ってるらしいわ。勿論、オリハルコンも同じね」


 工房内は関係者以外立ち入り禁止のため、その商会長も加工の現場を直接目にしたわけではないが、工房に納入するミスリル銀やオリハルコンは全て、インゴットではなくチップ状なのだという。インゴットは国の法規制に引っ掛かり、取り扱える商会が限られるから、別の形状で流通させているのだろう。


 それを買おうと思ったら吹っ掛けられそうだな──という思いは胸に仕舞っておく。多分アイリーンは、多忙な私たちを見かねて親切心から提案してくれているのだ。


「2人が専業になったら、もっとたくさん作ってくれそうだし」


 前言撤回。


「…アイリーン…」

「あらやだ、聞こえてた?」


 低い声で呻いたら、アイリーンはわざとらしく口を押えた。良くも悪くも商魂たくましいな、親友。


「──まあでも実際問題、狩人だっていつまでも続けられるわけじゃないでしょ? 2人とも折角手に職つけてるんだから、将来の選択肢の一つとして考えておくのもアリだと思うわよ」

「それはまあ…そうだね」

「結婚して子どもが生まれたら、兼業するどころじゃなくなるだろうし」

「!?」


 さらりと付け足された台詞に、私は音を立てて固まった。


 いや、その、ルーカスの実家にも挨拶に行ったし実際とっくの昔に婚約してるわけだから将来的には当然そうなるんだろうけど…!


「アイリーン!」


 私が真っ赤になって叫ぶと、アイリーンはけらけらと笑った。


「やーねえ初心(うぶ)なんだから! そこはさらっと流しておきなさいよ! ねえルー──」


 アイリーンの言葉が中途半端に途切れる。

 視線を転じると、ルーカスはヒスイの原石を手に持ったまま、無表情で固まっていた。その顔は多分私に負けず劣らず、真っ赤だった。


「……大丈夫?」

「……」


 アイリーンが声を掛けても、ルーカスは硬直したまま応えない。

 私は熱い顔を両手で覆い、何とか言葉を絞り出した。


「…お願いだからそっち方面のネタはやめて。ホント、耐性、ないから……」

「………ごめんなさい」


 珍しく真面目に、アイリーンが謝罪した。





 その後気を取り直し、「もうちょっと良さげな普段着というか、街歩き向けの服を揃えたい」と相談したら、アイリーンの目の色が変わり──

 私とルーカスはアイリーンに連れ回され、昨日の高級服飾品店をはじめとする複数の店をハシゴすることになった。


 解放されたのは、夕方になってから。私だけでなくルーカスも着せ替え人形となり、2人とも、両手にぎっしりと服の詰まった紙袋を持ち帰ることになった。


 なおその代金はルーカスが払ってくれた──というか、頑なに私には払わせてくれなかったのだが…実は支払いの時点で大幅値引きされていて、その差額はアイリーンのポケットマネーから出ていた、という事実を、私とルーカスは知る(よし)もなかった。








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