第291話 勝てないなら、作ればいい
試練の塔・第一階層。
飛行型の魔物が、四方八方から次々と襲いかかってくる。急降下、急旋回、上下左右、死角からの攻撃、カイル達は必死に応戦するものの決定打を与えられずにいた。
カイルは頭上を旋回する魔物を見上げ、しばらく黙っていたかと思うと、突然笑い出した。「ははは!」
「カイル……?」キキが不安げに声をかける。
「無理だ、これは! 全員、撤退するぞ!」
「え?」全員が一斉に声を上げた。
「勝てない戦いをいつまでも続けるほど、俺は馬鹿じゃない!」カイルは声を張り上げる。「全員、飛行船まで退却!」
父のディスプレイに【了解】の文字が浮かぶ。
「逃げながら援護するわ!」と母。
「リーナ、ヒカリ、こっちよ!」キキが二人の手を引く。
「やっと、まともな判断をしたわね」ナルサが呆れ半分にそう呟いた。
一行は翼を広げ、試練の塔から一気に離脱する。飛行型の魔物たちは、塔の外までは追ってこなかった。
塔の入口では、天使族の長がその様子を呆然と見つめていた。
「……退却、したのか」
これまで試練に挑んだ者は、勝つか、倒れるか、そのどちらかしかなかった。戦略的に退くという選択をした者など、これまで一人もいなかったのだ。
リヒトが長の前に進み出て、古代語で丁寧に頭を下げる。
「申し訳ありません。カイルさんは、必ずまた来ます。次は、勝つための準備を整えて」
長はしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。
「……面白い地上人だ。待っていよう」
飛行船の工房。
カイルは机いっぱいに設計図を広げていた。隣にはミーナも腰を下ろす。
「地上での戦い方じゃ、あの空中戦には通用しない」カイルが呟く。
「同意します」ミーナが頷く。「飛行型魔物への対策が必要です」
「敵は三次元機動で動いてくる。なら、こっちも空中戦仕様に作り替えればいい」
「新装備の開発を提案します」ミーナの目の前に、次々と項目が表示されていく。
「空中機動強化、自動照準、追尾型魔法、飛行補助装置の改良」カイルの目が輝く。
「よし、研究開始だ!」
工房を覗き込んだキキが、小さく呟く。
「……始まったわね」
「試練に負けて落ち込むどころか、嬉しそうなんだけど」ナルサが半分呆れたように言う。
母が優しく笑った。
「カイルは、壁にぶつかった分だけ燃える子だから」
父のディスプレイには【いつものこと】の文字。
「今度は勝てるかな?」リーナが首をかしげると、ヒカリがすかさず答える。
「リーナのお兄ちゃんだから、きっと何か作るよ」
カイルは新しい設計図に向き直り、ペンを走らせ始める。天空都市で受けた試練は、彼にとって挫折であると同時に、新たな発明の始まりでもあった。
「次は、負けない」
その一言とともに、カイルとミーナの新たな開発が幕を開けるのだった。




