第290話 試練の塔・第一の試練
数日後、飛行訓練を重ねたカイルたちは、簡易式の翼にもだいぶ慣れてきていた。
まだ天使族のように自在にとはいかないが、空中での移動や着地くらいなら問題なくこなせるようになっている。
「これなら挑戦できそうだな」とカイルが言うと、リーナが「空を飛ぶの楽しい!」と目を輝かせ、ヒカリも「もう怖くない」と小さく胸を張った。
父のディスプレイには【準備完了】の文字。母だけは心配そうに「無理だけはしないでね」と釘を刺した。
その日、天使族の長が姿を現した。
「約束通り、試練の塔へ案内しよう」
長の後についていくと、一行は天空都市の外れへと向かった。そこにあったのは、雲を突き抜けるほど高くそびえる純白の巨大な塔だ。塔の周囲には古代文字がびっしりと刻まれている。
「これが……試練の塔」とリヒトが呟けば、ミーナが「周囲から高密度の魔力を確認」と淡々と報告する。
長は塔の前で立ち止まると、重々しく口を開いた。
「この塔は、選ばれし天空都市を守る戦士を育てるための試練の場だった。命を落とす者も少なくなかった」
その言葉にカイルはにやりと笑う。
「望むところです」
「笑うところじゃないでしょう……」とナルサが呆れ、キキも「もう止めても無駄ね」と諦め顔だ。
ところが、いざ門の前に立つと、扉はびくとも動かない。長は笑いながら「選ばれし者ではなかったな」と言い放ったが、カイルたちはその言葉をまるっと無視して門の解析を始めていた。
「もしかして部品が足りないんじゃないか?」とカイルが言うと、リヒトとミーナが声を揃えて「「当たりです」」。カイルはさっそく魔石や部品をかき集め、勝手に門の修理にとりかかる。
長が何か言おうとした矢先、ギギギギ……重い扉がゆっくりと開いた。
「上手くいった」と満足げなカイルの横で、長はただ「……」と絶句するしかなかった。
塔の内部は、想像以上に開けた空間だった。床はほとんどなく、足場といえるのは空中に浮かぶ岩くらい。
「床がない!」とリーナが驚けば、ヒカリは「飛ぶ前提」と冷静に分析する。母も「なるほど……天空都市らしいわね」と苦笑した。
一行が足を踏み入れた瞬間、ゴォッ!と空中から影が飛び出した。翼を持つ魔物、鋭い爪と嘴を持つそれが数十体、一斉に襲いかかってくる。
「敵影確認、飛行型魔物です」とミーナ。
「迎え撃つ!」とカイルが応じる。今回は巨兵ゴーレムではなく、家族全員での迎撃だ。
カイルが魔法を放つも、魔物は急旋回してあっさり回避する。「速い!」
父が剣を振るうが、空中では踏ん張りが利かず、するりと避けられてしまう。ディスプレイには【難敵】の文字が浮かんだ。
キキは風魔法で数体を撃ち落とすが、油断した隙に別方向から魔物が急襲。「後ろ!」というナルサの声に、間一髪で回避する。
母は防御魔法を展開して家族を守り、リーナとヒカリも翼を使いながら魔法を放つ。だが地上とは勝手が違い、なかなか狙いが定まらない。
「当たらない!」とリーナが焦り、ヒカリも「速い……」と苦戦を口にする。リヒトが「上下から来ます!」と叫ぶ中、ミーナだけは冷静に状況を分析していた。「敵は三次元機動を利用しています。地上と同じ戦い方では不利です」
「やっぱりそうか」とカイルは呟く。空を飛ぶ敵に対し、地上で鍛えた技術だけでは通用しない。天空都市ならではの戦いが、カイルたちの前に立ちはだかっていた。
それでもカイルは笑う。「面白い。また一から覚えようじゃないか」
天使族の長は、そんなカイルたちを静かに見つめ、小さく頷いた。「門を開けることができたが、試練は始まったばかりだ」
第一の試練、空を制する者だけが塔の先へ進む資格を得る。




