第289話 初めての飛行訓練
翌日、カイルは朝から工房に籠もっていた。
リーナのために作った簡易式の翼が、思っていた以上に良い性能を発揮していたのだ。
「せっかくだし」カイルは呟く。「みんなの分も作ってみるか」
「嫌な予感しかしないわ」キキが半眼で見る。
「今回は私も飛ぶの?」ナルサが少し身を乗り出す。
「もちろん」カイルはあっさり頷いた。
数時間後、工房の床には人数分の簡易式の翼が並んでいた。軽量フレーム、小型魔石、浮遊魔法陣、飛行補助機構、一つ一つ丁寧に組み上げられている。
「全機、完成しました」ミーナが報告する。
「よし、飛行訓練開始だ!」
まずはカイル自身が試す。翼を装着し、ゆっくりと魔力を流し込むと、ふわっと体が浮き上がった。
「よし、安定してるな」
そのまま空を一周し、無事に着地する。
次は父の番だった。骸骨の体に翼を取り付ける。
「父さん、その体で飛べるの?」カイルが少し心配そうに聞く。
父のディスプレイに【問題なし】の文字。翼を広げると、バサッ、ふわりと空中へ舞い上がる。予想外に綺麗な飛行だった。しかも、空中で一回転まで決めてみせる。
「お父さんすごーい!」リーナが目を輝かせる。
「かっこいい」ヒカリも小さく拍手する。
父のディスプレイには【当然】の文字。
「ちょっと悔しいな……」カイルは苦笑いした。
続いて母、「こうかしら?」ふわりと、優雅に空を舞う。まるで風に身を任せているような自然な飛び方だった。
「カイルのお母さんまで上手なのね……」キキが呆れ半分で呟く。
「意外と気持ちいいものね」母は楽しそうに笑った。
キキも挑戦してみる。「きゃっ!」
少しふらついたものの、なんとか着地に成功した。
「次は私!」ナルサが勢いよく飛び立つ。
しかし、くるくると回転が止まらない。
「きゃあああ!」
そのまま芝生へと着地した。
「あはは!」リーナが大笑いする。
「回ってた」ヒカリも冷静に指摘する。
「笑わないでぇ……」ナルサは顔を赤くして呟いた。
リヒトも翼を広げる。「こう、ですね」
スーッと、綺麗に旋回してみせる。その飛び方には、天使族の者たちも思わず感心するほどだった。
リーナは昨日すでに一度飛んだ経験もあってか、天使族の子供達と一緒に楽しそうに空を飛び回っている。
「お兄ちゃーん! 見てー!」
「昨日より、だいぶ上手くなってるな」カイルはその様子を見て目を細めた。
ヒカリは静かに飛び立つと、無駄のない一直線の飛行を見せた。
「非常に安定しています」ミーナが評価する。
「ありがとう」ヒカリは静かに頷いた。
最後はミーナだった。翼を装着し、飛行を開始する。
ピタッと空中で停止したかと思うと、急上昇、急旋回、急降下、そのすべてが寸分の狂いもなく正確だった。
「さすがだな、ミーナ」カイルが感心して言う。
「飛行データを収集しています」ミーナはいつも通り淡々と答えた。
その後も、家族全員で飛行訓練を繰り返した。父は空中で宙返りを披露し、母は相変わらず優雅に飛び、キキとナルサも少しずつコツを掴んでいく。
リーナとヒカリは天使族の子供達と一緒に遊び、リヒトは天使族から飛び方のコツを教わり、ミーナはその間もずっと全員の飛行データを記録し続けていた。
夕暮れ時、カイルは空を見上げながら呟く。「家族みんなで、空を飛ぶ日が来るとはな」
父のディスプレイに【最高】の文字。
「また一つ、素敵な思い出が増えたわね」母が微笑む。
家族全員の顔に、自然と笑みがこぼれた。その様子を見ていた天使族の人々も、どこか穏やかな笑みを浮かべている。
こうしてカイル達は、天空都市での新しい生活に、少しずつ馴染んでいくのだった。




