第283話 天空都市の住人
飛行船は、浮遊するピラミッドを追い続けた。
そして、雲海を抜けた先に全員が息を呑んだ。そこには、巨大な浮遊大陸が広がっていた。白い建物が立ち並び、無数の塔が空へと伸びている。島全体がほのかに輝き、まるで神話の世界そのものだった。
「きれい……」リーナが呟く。
「すごい」ヒカリも声を漏らす。
「こんな場所が、本当に……」母が言葉を失う。
「伝説じゃなかったのね」キキが静かに言った。
「信じられない……」ナルサはただ景色に見入っていた。
その時だった。
「高速飛行体接近」ミーナの声とともに、警報が鳴り響く。
ブォォォォォ!!空の彼方から白い影が十、二十、三十と一気に飛来してくる。
近付くにつれ、その姿がはっきりと見えてきた。人に似た姿。背中には純白の翼。身にまとうのは白銀の鎧。手には槍や剣を携えている。
「羽がある!」リーナが目を丸くする。
「鳥じゃない」ヒカリも身を乗り出した。
先頭の一人が槍を構え、意味の分からない言葉で何かを叫んだ。次の瞬間、光の矢が放たれる。
ドン!!飛行船の結界に命中し、船体が大きく揺れた。
「攻撃された!」ナルサが叫ぶ。
「敵よ!」キキも身構える。
カイルは即座に命令を飛ばした。
「巨兵ゴーレム射出準備!」
「了解」ミーナが応じ、格納庫が開いていく。
カイルが前へ出ようとした、その時、袖を引かれた。リーナだった。
「お兄ちゃん」
「リーナ?」
リーナは首を横に振る。
「駄目。いきなり戦っちゃ駄目。お話ししてみよう?」
カイルは少し考え、握っていた拳をゆっくりと下ろした。
「……そうだな。まだ敵と決まったわけじゃない」
「珍しく冷静ね」キキが目を丸くする。
「リーナちゃんのおかげね」ナルサも小さく笑った。
その時、リヒトが一歩前へ出た。深呼吸をひとつ。そして、古代語で大きく叫んだ。
誰も聞いたことのない言葉。美しく、澄んだ響きが天空へと広がっていく。
翼を持つ者達が、一斉に動きを止めた。驚いた表情で互いに顔を見合わせる。先頭の人物は目を見開き、何かを確かめるようにリヒトへと視線を向けた。
数秒後、先頭の人物がゆっくりと槍を下ろす。続いて、他の者達も武器を収めていった。攻撃は止まり、飛行船に静寂が戻る。
「止まった……」母がほっと息をつく。
「リヒトちゃんのおかげね」キキが微笑んだ。
「助かったぁ……」ナルサも肩の力を抜いた。
カイルは翼を持つ者達をじっと見つめ、ひとりで頷いていた。
「なるほど。翼があって、天空の都市に住んでる」
少し考えて、勝手に結論を出す。
「よし。今日から天使族だ」
「また勝手に名前を付けた」ヒカリが呆れる。
「でも分かりやすい!」リーナは素直に納得していた。
「仮称『天使族』で記録します」ミーナが淡々と告げる。
「本人達に確認しなさいよ!」ナルサが思わず突っ込んだ。
すると、翼を持つ者達の代表が、ゆっくりと飛行船へ近付いてきた。その表情から、もう敵意は消えていた。
「どうやら……」リヒトが小さく息をつく。「話し合いができそうです」
こうしてカイル達は、初めて天空都市の住人との接触に成功するのだった。




