第279話 古代遺跡の起動条件
巨大な階段を下り切ったカイルたちは、ついにピラミッド内部へと足を踏み入れた。
その瞬間、誰もが思わず足を止める。
「……すごい」リーナがぽつりと呟いた。
そこに広がっていたのは、想像を遥かに超える巨大空間だった。
天井は見上げても果てが見えないほど高く、無数の巨大な柱が規則正しく並んでいる。
静寂に包まれたその光景は、まるで神話の中に登場する神殿のようだった。
ヒカリも珍しく周囲を見回している。
「広い」
リヒトは興奮を隠しきれない様子だった。「これは予想以上ですね……」
ミーナも即座に調査を開始する。
「内部構造解析を開始します」
こうして、一行は慎重に探索を始めた。
カイルは壁や柱を調べる。ミーナは魔力反応を探知する。リヒトは古代文字の解読に集中していた。父は周囲を警戒し、母は皆の様子を見守る。
キキとナルサは罠や危険がないか確認しながら歩いた。
何もない。本当に何もない。広大な施設なのに、何一つ動いていない。
敵もいない。罠もない。仕掛けらしいものも見当たらない。
一時間後、成果なし。
二時間後、やはり成果なし。
三時間後、状況は変わらなかった。
ナルサはついに音を上げた。
「もう帰らない?」
キキも疲れたように肩を落とす。
「正直、私もちょっとそう思ってる」
母が微笑みながら提案した。
「少し休憩しましょうか」
父のディスプレイにも文字が浮かぶ。
【賛成】
全員一致だった。
一方で、カイルだけは納得していなかった。「おかしいな……」
腕を組みながら周囲を見回す。
「これだけ大きな施設なのに何もないなんて」
リヒトも頷く。
「建築規模と用途が一致しませんね」
「目的不明です」ミーナも同意した。
ヒカリは短く呟く。「空っぽ」
リーナは大きく伸びをする。
「疲れたー」
そして、休憩できそうな場所を探し始めた。
広間の中央付近、少し高くなっている場所があった。
その中心には大きな石造りの椅子のようなものが置かれている。
リーナは特に深く考えなかった。
「ここでいいや」そう言って腰を下ろす。
ぽすん。カチッ。
どこかで小さな音が響いた。リーナが首を傾げる。「ん?」
ヒカリも顔を上げた。
「今、何か鳴った」
リヒトが振り返る。ミーナの動きが止まる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!神殿全体が激しく揺れた。
「きゃあああっ!?」ナルサが悲鳴を上げる。
キキも思わず身構えた。「な、何!?」
「皆、離れないで!」母が子供たちを集める。
父も即座に武器を構えた。
カイルだけは驚きながらも目を輝かせる。「起動したのか!?」
リーナ本人が一番困惑していた。
「えっ?」
座っている石の椅子。いや、玉座そのものが青白く輝いている。
眩い光が溢れ出し、魔力が洪水のように施設全体へ流れていく。
壁が光る。柱が光る。天井が光る。まるで長い眠りから目覚めたかのように、遺跡全体が次々と動き始める。
低い振動音が空間を満たした。
ゴォォォォォ……
古代の装置が、何千年ぶりかに再起動しているようだった。
ミーナが目を見開く。
「膨大なエネルギー反応を確認」
リヒトも興奮している。
「施設全体が連動しています!」
カイルは完全に夢中だった。
「すごい……!」
ナルサは叫ぶ。
「全然すごくないから!」
さらに異変は続く。天井付近に光が集まり始めた。
無数の魔力が渦を巻き、巨大な魔法陣を形成していく。
その規模はこれまで見たどんな術式よりも大きかった。
地上でも異変が起きていた。ピラミッド全体が眩く発光する。周囲の森。停泊中の飛行船。空に浮かぶ雲さえも光に照らされる。
ピラミッドの頂上から巨大な光の柱が放たれた。
轟音と共に天へ向かって一直線に伸びていく。
雲を貫き。さらに上へ。遥か空の彼方へ。
まるで世界そのものを繋ぐ道のようだった。
飛行船内に残されていた観測装置も異常を検知していた。
各種計器が次々と警告を表示する。
ミーナの補助端末にも新たな文字が浮かび上がる。
【超大型転移装置起動】
【目的地設定中】
その表示を見た瞬間、カイルもミーナもリヒトも全員が固まった。
ゆっくりと一斉に視線を向ける。玉座の上に座ったままのリーナへ。
「え?」本人だけが状況を理解していない。
ナルサが思わず叫んだ。
「リーナちゃん何したの!?」
「知らないよ!?」リーナも必死だった。
ヒカリが冷静に呟く。「リーナらしい」
母は思わず笑ってしまう。
「偶然って怖いわね」
父のディスプレイにも文字が浮かんだ。
【主人公補正】
それを見たカイルが吹き出す。
「確かに」
笑っている場合ではなかった。光はさらに強くなっていく。
神殿の振動も止まらない。遺跡は完全に目覚めていた。
天へ伸びた光の柱の遥か先、雲海の向こう側で何か巨大な影がゆっくりと姿を現し始める。
誰もが息を呑んだ。
伝説。神話。冒険者たちの与太話。そんなものだと思われていた存在。
天空の都市。
その伝説が今、彼らの目の前で現実になろうとしていた。




