第278話 ピラミッド調査開始
巨大なピラミッドは、森の中央に悠然とそびえ立っていた。
近くまで来てみると、その大きさは空から見た時の比ではない。
まるで山そのものだった。
風雨にさらされ続けてきたはずなのに、外壁にはほとんど崩れた跡が見当たらない。
何百年、あるいは何千年もの時を経ているはずなのに、まるで昨日建てられたかのような姿を保っていた。
「大きい……」リーナが思わず呟く。
ヒカリも珍しく感心したように見上げていた。「すごい」
リヒトは興味深そうに壁面を観察している。「古代文明の遺跡に近い特徴がありますね。でも、ここまで保存状態が良いものは見たことがありません」
ミーナも周囲を測定しながら報告する。
「推定建造年代、不明。既存データとの一致なし」
キキも思わず息を呑んだ。「私も長く生きてるけど、こんな建物は初めて見るわね」
誰もが圧倒されていた。
まずは飛行船を安全に着陸させる必要があった。
上空から観察すると、ピラミッドの頂上付近に広い平坦な場所がある。
カイルはそれを見て頷いた。
「あそこなら降りられそうだな」
「着陸可能と判断します」ミーナが即座に答える。
巨大飛行船はゆっくりと高度を下げていく。
やがて着陸脚が地面に触れた。
重い振動が船体を伝わる。
土埃が舞い上がり、周囲の草木を揺らした。
無事着陸成功である。
飛行船の扉が開き、全員が外へ降り立った。
「探検だー!」真っ先に飛び出したのはリーナだった。
ヒカリも後に続く。「探検」表情は変わらないが、少し楽しそうだ。
リヒトも周囲を見回しながら歩き始める。
「こういう遺跡は初めてです。わくわくしますね」
母は苦笑した。
「皆、あまり離れすぎちゃ駄目よ?」
その横でナルサは早くも不安そうな顔をしている。
「嫌な予感しかしないんだけど……」
「奇遇ね」キキも肩を竦めた。「私もよ」
父のディスプレイには短く文字が浮かぶ。【いつもの事】
誰も否定できなかった。
まずは外壁の調査から始める。カイルは壁に手を当てた。ひんやりと冷たい。そして、異常なほど硬い。
「普通の石じゃないな」
ミーナも調査を続ける。「未知素材を確認。組成不明」
その言葉を聞いた瞬間、カイルの目が輝いた。「面白いな」
ナルサが即座に反応する。
「その言葉、本当に怖いからやめて」
キキも苦笑する。
「カイルがそう言う時って、大体面倒なことになるのよね」
「その通りです」ナルサが真顔で頷いた。
さらに調査を進めると、壁面に無数の文字が刻まれていることに気付いた。
見たことのない古代文字だった。リヒトが興味深そうに近づく。
しばらく無言で眺めた後、驚くべきことを口にした。
「読めるかもしれません」
「え?」全員が振り向く。
「読めるの!?」リーナが目を丸くした。
リヒトは少し照れたように笑う。
「昔、ダンジョンコアだった頃に似た文字を見たことがあるんです」
流石というべきだった。
しばらく解読を続けた後、断片的な単語を読み上げる。
「天空、選ばれし者、門、試練、到達」
不穏な単語ばかりだった。
キキが眉をひそめる。
「なんだか嫌な予感しかしないわね」
「俺もそう思う」カイルが頷く。
ナルサは呆れた。「今さら?」
調査を続けていると、ピラミッド頂上の中央付近に奇妙な構造物を発見した。
巨大な円形の石板だった。表面には複雑な紋様が刻まれている。まるで巨大な魔法陣のようだった。
ミーナがすぐに反応する。
「魔力反応を確認」
カイルはしゃがみ込み、慎重に観察した。「これ、動くな」目を輝かせた。
キキが即座に止めに入る。
「やめなさい」
ナルサも続く。「絶対やめなさい」
母も優しく釘を刺した。
「カイル、変なものは触っちゃ駄目よ?」
すでに本人は既に石板に手を置いていた。
「聞いてないわね」母が呟く。
「ああ……」ナルサが頭を抱えた。
「始まったわ」キキも諦めたようにため息を吐く。
カイルは魔力を流し込んだ。
次の瞬間、ゴゴゴゴゴゴ……地面全体が震え始めた。
「動いた!」リーナが歓声を上げる。
ヒカリも珍しく少し驚いていた。
「本当に動いた」
石板がゆっくりと横へ移動していく。その下から現れたのは巨大な階段だった。
暗闇の奥深くへ続いている。全員が言葉を失う。
母が呆然と呟いた。
「本当に開いたわ……」
ナルサは頭を抱える。
「ほらやっぱり! 絶対ダンジョンじゃない!」
リヒトは興奮気味だった。
「遺跡型施設ですね!」
ミーナも冷静に報告する。
「内部空間を確認。探索可能です」
キキはもう諦めていた。
カイルは満面の笑みを浮かべる。まるで宝探しに出発する子供のような顔だった。
「行こう」
「行こう!」リーナが元気よく手を挙げる。
「行く」ヒカリも賛成。
「ぜひ調査したいです」リヒトも目を輝かせていた。
母も微笑む。
「皆で一緒なら大丈夫かしら」
「反対!」ナルサだけが必死に訴える。
キキが肩を叩いた。「却下されるわよ」
父のディスプレイが光る。【多数決】
「カイルのお母さんまで乗り気なんですけど!?」ナルサの悲鳴が響いた。
こうして一行は探索の準備を整える。
カイル。父。母。キキ。ナルサ。リーナ。ヒカリ。リヒト。ミーナ。
全員で未知の遺跡へ挑むことになった。
地下へ続く巨大な階段。壁に刻まれた古代文字。そして何度も現れた言葉【天空】。
カイルには確信にも似た予感があった。この遺跡は、ただのピラミッドではない。
空の都市へ続く何かが、必ずここにある。
そんな予感を胸に、一行は松明の明かりを手に階段を下り始めた。
暗闇の奥から吹き上がる冷たい風が、まるで彼らを待っていたかのように静かに流れていた。




