第277話 墜落と大地のピラミッド
ワイバーンの群れを撃退した後、カイルたちは飛行船への帰還を開始していた。
空は静かだった。
先ほどまで激しい戦闘が繰り広げられていたとは思えないほど穏やかで、四機の巨兵ゴーレムは編隊を組んで飛行している。
その時だった。
「異常発生」ミーナの落ち着いた声が通信に響く。
カイルが即座に反応した。「何だ?」
「ナルサ機の推進出力が低下しています」
巨兵が大きく傾く。次の瞬間、ナルサ機は空中でバランスを崩し、そのまま真っ逆さまに落下を始めた。
「きゃああああああっ!!」
凄まじい勢いで地面へ向かっていく。高度はどんどん失われて眼下には広大な森。岩山。蛇行する川。全てが恐ろしい速さで近づいてくる。
「死ぬ! 本当に死ぬぅぅぅぅ!!」ナルサの叫びは半泣きだった。
飛行船の甲板でも騒ぎになる。
「ナルサお姉ちゃん!」リーナが手すりに身を乗り出す。
キキも顔色を変えた。「ナルサ!」
カイルは迷わなかった。「ミーナ!」
「了解」
二機の巨兵が同時に加速する。推進器が唸りを上げた。爆発的な加速で落下地点へ向かう。風を切り裂きながら急降下。
地面はもう目前だった。
ナルサは操縦桿を握りしめながら涙目になる。
「お願いだから助けてぇぇぇぇ!!」
ガシッ!
強い衝撃、カイル機が片腕でナルサ機を掴み、反対側をミーナ機が支える。
落下が止まった。数秒遅れていたら地面へ激突していただろう。
ナルサはしばらく言葉も出なかった。
「……た、助かった……」
震える声で呟く。
カイルは苦笑した。「危なかったな」
「危なかったで済ますなぁぁぁぁ!!」空にナルサの怒鳴り声が響いた。
その声を聞いて、飛行船の皆もようやく安堵する。
リーナが胸を撫で下ろした。「よかったぁ……」
ヒカリも小さく頷く。「無事」
リヒトはほっと息を吐いていた。
その後、近くの平地へ降りることになった。安全を優先した判断だった。
巨兵を着陸させ、ナルサが外へ出る。地面へ足をつけた瞬間、ナルサはその場にへたり込んだ。「もう飛ばない……」魂が抜けたような顔だった。
キキが苦笑する。「前も同じこと言ってなかった?」
「今回は本気よ……」
「前回もそう言ってたわ」キキは少し笑った。
そんなやり取りをしていた時だった。カイルがふと遠くを見つめる。その表情が変わった。「……ん?」何かを見つけたらしい。
地平線の向こう。森が広がるその先、何か巨大なものが見える。
最初は山かと思ったが違う。形が整いすぎている。自然物には見えなかった。
カイルは目を細める。
「なんだ、あれ……」
全員が視線を向ける。そして、言葉を失った。
森の向こうに巨大な建造物がそびえていた。四角い土台。規則正しい傾斜。まるで大地から突き出るような巨大な四角錐。
誰が見ても分かる。人工物だった。
「ピラミッド……?」カイルが思わず呟く。
リヒトが目を見開く。「遺跡です」
ミーナも即座に分析を始める。
「大規模人工構造物を確認。推定高度、数百メートル以上」
キキは信じられないという顔をしていた。「こんな場所に?」
ナルサは疲れ切った顔のまま空を見上げる。「帰りたい……」誰も聞いていなかった。
カイルの目が完全に輝いていたからだ。宝物を見つけた子供のような顔。未知の遺跡を前にした探索者の顔。
その表情を見た瞬間、キキは悟った。
「ああ、もう駄目ね」
リヒトも苦笑する。「止まりませんね」
ヒカリは短く言った。「無理」
リーナだけは元気いっぱいだった。
「探検だー!」おおはしゃぎで飛び跳ねている。
ナルサは頭を抱えた。「誰か止めて!」
そんな声が届く相手ではない。カイルは満面の笑みを浮かべていた。
「行こう」
その一言だけだった。もう決定事項である。ミーナは当然のようについていく。リヒトも興味津々だ。リーナとヒカリも探検気分で盛り上がっている。キキは呆れながらも後を追う。
ナルサだけが肩を落とした。
「空の都市を探しに来たはずなのに……」
誰も反論しなかった。
全員、もうピラミッドに興味を奪われていたからだ。
こうしてカイルたちは、空の都市の手掛かりを追うはずが、思いもよらぬ巨大遺跡へ向かうことになった。
あのピラミッドが何なのか。古代文明の遺産なのか失われた王国の跡地なのかそれとも空の都市へ繋がる鍵なのかまだ、誰にも分からない。
ただ一つ分かるのはカイルが心の底から楽しそうだということだった。
「面白くなってきたな」




