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ゴーレムはロボットです。  作者: 山田 ソラ


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第275話 夏休みと空の都市伝説



 飛行船の改良計画は無事終了した。


 巨兵ゴーレムの性能向上も完了。もふもふダンジョンは相変わらず大盛況。


 小型ゴーレム事業も絶好調。カイル商会は過去最高と言っていいほど順調だった。


 そして、学院は2年目の夏休みに入った。


 ある日の朝。


 屋敷の食堂には珍しく家族全員が集まっていた。


 リーナは朝から上機嫌である。「夏休みだー!」


 両手を上げて喜ぶ姿に、ヒカリも小さく頷いた。「自由」


 リヒトは紅茶を飲みながら微笑む。「学院生活も楽しかったですね」


 キキも優しい表情を浮かべた。「みんな頑張ったものね」


 そんな和やかな空気の中、ナルサだけは腕を組んでいた。「で?」


 全員の視線が一斉にカイルへ向く。


 ナルサがじっと睨んだ。「どうせ何か企んでるんでしょ?」


 カイルは心外だと言わんばかりの顔をする。「失礼な」


 だが返ってきたのは家族全員の即答だった。「考えてる」満場一致だった。


 カイルは小さく咳払いをする。「せっかくの夏休みだ」


 そして、少し考えてから続けた。「どこか出かけるか?」


 その言葉にリーナの目が輝いた。「旅行!?」


 ヒカリも珍しく乗り気だった。「賛成です」


 リヒトも興味深そうに言う。「外の世界をもっと見てみたいです」


 キキも頷いた。「たまには研究や仕事を忘れるのも良いわね」


 ナルサもそこまでは賛成だった。「ダンジョン探索じゃなければね」


 するとカイルが微妙に目を逸らした。


 ナルサは額を押さえる。「……ダンジョン絡みね」


 その時だった。


「あっ!」リーナが突然声を上げる。


 何かを思い出したらしい。


「前に冒険者さん達が話してたんだよ!」


 カイルが顔を上げる。「何をだ?」


「空の上に都市があるんだって!」


 食堂が一瞬静かになった。


 ヒカリが呟く。「伝説だそうです」


 リヒトも頷いた。「私も文献で見たことがあります」


 キキは首を傾げる。「空の都市?」


 ナルサは苦笑した。「おとぎ話みたいな話ね」


 しかしリーナは構わず続ける。「それでね!その空の都市の中にダンジョンがあるんだって!」


 その瞬間だった、カイルの眉がぴくりと動く。


 ナルサが見逃さなかった。「反応した」


 キキも即座に同意する。「今、反応したわね」


 リヒトは冷静に分析した。「目が輝いています」


 ヒカリは短く言う。「危険信号が発生」


 カイルは真剣な表情になった。「詳しく教えてくれ」


 リーナは元気よく答える。「知らない!」


 食堂に沈黙が落ちる。


 カイルは肩を落とした。「そこが一番大事なんだが……」

 

 その日の午後、カイルは冒険者ギルドへ向かっていた。


 目的はもちろん情報収集である。


「空の都市?」ベテラン冒険者が首を傾げる。「聞いたことはあるな」


 別の冒険者も頷いた。「古い伝説だろ」


 さらに年配の冒険者が懐かしそうに笑う。「若い頃によく聞いた話だ」


 集まる情報はどれも曖昧だった。雲の上にあるという話。天空に浮かぶ古代都市という話。神々の住まう場所という話。


 どれも伝承の域を出ない。


 数日後。


 工房の机には地図や資料が山積みになっていた。


 ミーナがまとめた報告書を差し出す。「情報整理が完了しました」


 カイルは資料に目を通しながら頷く。

「おおよその候補地は見えてきたな」


 ナルサが目を丸くする。「待って、本当に見つけたの?」


「たぶん」


「たぶんなの!?」キキも思わず突っ込んだ。


 実際のところ確かな証拠はほとんど無かった。


 公式記録もない。信頼できる目撃例もない。あるのは断片的な伝承だけだ。つまり伝説である。


 カイルは腕を組みながら考え込む。「別に本気で信じてるわけじゃない」


「ならやめればいいじゃない」ナルサが即答する。


 カイルは少し笑った。「でも家族旅行にはちょうどいいだろ」


 ナルサは理解できない顔をした。「何が?」


「どこが?」キキも同意する。


 誰も納得していなかった。それでも準備は着々と進んだ。


 数日後。飛行船の格納庫では出発準備が完了していた。


 大量の食料。十分な飲料水。予備の魔石。整備部品。護衛用ゴーレム。そして、巨兵ゴーレム。完全に長期遠征の装備だった。


 ナルサは荷物を見て呆れる。「これ、本当に旅行?」


 カイルは真顔で答えた。「旅行だ」


 キキがため息をつく。「旅行の概念がおかしいのよ」


 母が「いつもの事よ」と笑う。


 出発当日。


 巨大飛行船の前で家族達はそれぞれ準備を整えていた。


 リーナは興奮を隠せない。「空の都市だー!」


 ヒカリも少し楽しそうだった。「楽しみ」


 リヒトは空を見上げる。「本当に存在するのでしょうか」


 ミーナが淡々と答える。「発見確率は二十三パーセントです」


 ナルサが叫んだ。「低い!」


 カイルは笑う。「見つからなければ観光だ」


 キキが呆れた顔をした。「空を観光する人なんて初めて見たわ」


 やがて飛行船がゆっくりと浮かび上がる。


 大型魔導炉の低い駆動音が響く。船体は青空へ向かって上昇した。眼下には王都。


 その先には広がる雲海。未知の世界が待っている。


 リーナは窓際で大きく手を振った「出発ー!」


 ヒカリも小さく呟く。「夏休み開始です」


 リヒトは穏やかに笑った。「冒険ですね」


 ナルサは窓の外を見ながら嫌な予感を覚えていた。「絶対何か起きるわ……」


 キキも苦笑する。「私もそんな気がする」


 父の胸のディスプレイには短い文字が浮かんだ。【いつもの事】


 母は「楽しみね」とのほほんとしていた。


 こうしてカイル達の夏休み旅行が始まる。


 空の都市など、本当に存在するかどうかも分からないがカイルの胸はときめいていた。




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