第273話 第一回小型ゴーレムバトル大会
大会当日の朝。
王都中央広場は、まだ開会前だというのに人で埋め尽くされていた。
家族連れ、冒険者、商人、貴族。年齢も身分も関係なく、多くの人が会場へ足を運んでいる。
その光景を見たナルサは思わず呟いた。
「ちょっと多すぎない?」
隣のキキも苦笑する。「ここまで集まるとは思わなかったわ……」
広場の中央には特設会場が作られていた。
大きな看板には堂々と文字が書かれている。
『第一回 小型ゴーレムバトル大会』
主催はもちろんカイル商会。そして、その看板を見上げながら満足そうに頷いているのも当然カイルだった。「よし」
完全に成功を確信している顔だった。
予想を超える応募が集まったため、大会は四部門に分けられていた。
貴族大人部門。貴族子供部門。一般大人部門。一般子供部門。
公平性を考えた結果である。
さらに冒険者ギルドや商人ギルドも協力しており、王都全体がお祭りのような雰囲気になっていた。
露店も並び、観客席も満員だ。やがて開会式の時間になる。
カイルが壇上へ上がった。大勢の視線が集まる。カイルは会場を見渡し、大きく声を張った。「第一回小型ゴーレムバトル大会を開催する!」
その瞬間、広場全体から歓声が上がった。
「うおおおお!」
「待ってました!」
「優勝してやるぞ!」
熱気が一気に高まる。
ナルサがその様子を見て苦笑した。「本当に流行ったわね」
「最初は子供の遊びだったのにね」キキも感慨深そうに言う。
最初に始まったのは一般子供部門だった。
「いけー!」
「押せ押せ!」
子供達が必死に応援する。リングの上では小型ゴーレム同士がぶつかり合っていた。
押し合い。転倒。立ち上がり。再び押し返す。
単純な競技だ。
観客達は大盛り上がりだった。勝敗が決まるたびに歓声が上がる。
少し離れて見ると妙な光景でもあった。大人も子供も身を乗り出して叫んでいる。
「左から回り込め!」
「パンチだ!」
「押し出せ!」
しかし、実際に戦っているのは手のひらより少し大きいサイズの小型ゴーレム達。
トコトコ歩いてガツンとぶつかり、よろめいている。
ナルサが思わず呟く。「なんだろう……」
「何?」キキが聞き返す。
「すごく真剣なのに、絵面が妙に可愛い」
キキは吹き出した。「確かに」二人とも笑いを堪えきれなかった。
貴族子供部門も負けていなかった。
「我が家のゴーレムは負けない!」
令息が胸を張る。
「こちらこそですわ!」
令嬢も対抗する。
リングの上ではゴーレム達が激しく押し合っている。
本人達は真剣そのものだった。周囲の護衛や使用人達まで熱くなっている。観客席からも歓声が飛んだ。
さらに一般大人部門。ここから雰囲気が変わった。
職人。商人。冒険者。そして、ドワーフ達。全員が本気だった。
「いけぇぇぇ!」ガンドが叫ぶ。「押し潰せぇぇぇ!」
もはや子供より熱くなっている。
キキが呆れた顔をした。「大人げないわね」
「でも一番楽しそうよ?」ナルサの言葉にキキは否定できなかった。
そして、貴族大人部門。これが予想以上だった。
伯爵。子爵。男爵。
本来なら格式や威厳を重んじる立場の人々が、リングの前で真剣な顔をしている。
「前進だ!」
「右から押せ!」
「そこで勝負を決めろ!」
周囲の観客は大笑いしていた。しかし、本人達は至って真面目だった。
観客席ではリーナ達も応援していた。「がんばれー!」リーナが手を振る。
ヒカリは冷静に分析していた。「白いゴーレムが有利ですね」
リヒトはメモを取りながら観察している。「戦闘データ収集中です」
さらにミーナまで頷いた。「次期改良案に反映可能です」
いつの間にか研究対象になっていた。
そして、決勝戦。会場の熱気は最高潮に達していた。
観客全員が立ち上がって見守る。
最後の一撃。
最後の押し合い。
そして、勝敗が決まった。
「おおおおおお!!」
大歓声が広場を包み込む。優勝者は思わず拳を突き上げた。周囲から惜しみない拍手が送られる。
表彰式。
優勝者達には限定改造パーツと特別製ゴーレムが贈られた。
賞状を受け取る参加者達の顔は誇らしげだった。
負けた者達も悔しそうではあるが、どこか楽しそうである。
「次は負けないぞ」
「来年こそ優勝だ」
そんな声があちこちから聞こえてきた。
夕暮れ。大会が終わり、会場の片付けが始まる。
カイルは広場を見渡した。楽しそうに話す子供達。戦いを振り返る参加者達。次回への作戦を語る大人達。誰もが笑顔だった。
その光景を見てカイルは静かに呟く。「成功だな」
ナルサも頷いた。「そうね」
キキは少し肩の力を抜く。「久しぶりに平和なイベントだった気がするわ」
確かにそうだった。誰も傷付かない。誰も悲しまない。ただ皆が楽しむためだけの催しだった。
父の胸のディスプレイに文字が表示される。【大成功】
ミーナも報告した。「既に来年の開催要望が多数届いています」
それを聞いたカイルの口元が少し上がる。「じゃあ第二回もやるか」
ナルサは額に手を当てた。「絶対そう言うと思った」
キキも苦笑する。「また忙しくなるわね」
こうして第一回小型ゴーレムバトル大会は大成功のうちに幕を閉じた。
そして、この日を境に小型ゴーレムバトルは王国中に広まっていく。
ただの玩具だった小型ゴーレムは、いつしか誰もが熱中する新しい競技へと成長していくのだった。




