第272話 小型ゴーレム大戦争
カイル工場の製造棟では、今日も大量の小型ゴーレムが作られていた。
組み立てられたばかりのゴーレム達が列を作り、トコトコと歩いていく。
その光景はどこか微笑ましい。だが数が多すぎるせいで、少し不気味でもあった。
「増えたわね……」ナルサが思わず呟く。
「前よりずっと多いわ」キキも製造ラインを見渡しながら感心していた。
ミーナが淡々と報告する。「量産体制が安定しました」
カイルは満足そうに頷いた。「よし」
その一言だけだったが、本人はかなり上機嫌だった。
そして、数日後。
量産型小型ゴーレムが正式に発売された。
価格は手頃。性能も十分。しかも、見た目は可愛らしく、簡単な音声認識機能まで搭載されている。
売れない理由がなかった。
「歩け!」
子供が命令すると、小型ゴーレムが元気よく歩き出す。
「回れ!」くるりと回転。
「ジャンプ!」ぴょこんと飛び跳ねる。
それだけで子供達は大喜びだった。さらに親達にも好評だった。
「外で騒ぎ回るより安心ね」
「家の中で遊んでくれるし」
そんな理由で追加購入する家庭まで現れた。
王都では瞬く間に人気商品となっていく。
そんなある日。
カイルは王都を歩いていた。すると広場の方から大きな歓声が聞こえてくる。
「いけー!」
「押せ押せー!」
「負けるなー!」
やけに盛り上がっている。祭りでもあるのかと思いながら近づく。
そして、立ち止まった。
「……何してるんだ?」
広場の中央では、小型ゴーレム同士がぶつかり合っていた。
押し合う。転ぶ。立ち上がる。押し返す。
子供達は真剣そのものだ。
「俺の勝ちだ!」
「次は負けない!」
「もっと強くするんだ!」
完全に競技になっていた。
ナルサも呆れた顔になる。「何やってるの?」
一人の少年が胸を張る。「ゴーレムバトル!」
別の少年も負けじと言う。「こっちの方が強いんだ!」
カイルは無言でその様子を見つめた。
数分後。
ナルサが尋ねる。「何考えてるの?」
カイルは真顔だった。「大会」
ナルサは額を押さえた。「やっぱりそうなるのね」予想通りだった。
数日後。
工場の会議室。緊急会議が開かれていた。
カイルが堂々と宣言する。「小型ゴーレム大会を開催する」
キキがため息をついた。「始まったわね」
「絶対言うと思った」ナルサも苦笑する。
だがミーナは冷静だった。「市場調査では高い需要が確認されています」
資料が机に並ぶ。予想参加者数もかなり多い。
カイルは満足そうに頷いた。「よし」
しかし、問題もあった。量産型ゴーレムは基本性能がほぼ同じだ。
このままでは勝負が単調になる。
そこでカイルは少し考えた後、不敵に笑った。「改造パーツを作ろう」
キキが即座に反応する。「その顔やめなさい。完全に商売を思いついた顔よ」
新商品は次々と開発された。強化腕。強化脚。追加装甲。大型シールド。高速移動ユニット。ジャンプ補助機構。回転パンチユニット。その他多数。
しかも、子供でも買える価格に設定されている。
ナルサは完成品を見ながら笑った。「これは絶対売れるわ」
予想は当たった。発売翌日。全商品完売。
カイルは報告書を見て目を瞬かせる。
「もう無いのか?」
「完売しました」ミーナが答える。
追加生産。完売。さらに追加生産。また完売。
完全に供給が追いついていなかった。
「見ろよ!」
子供達は自慢の改造ゴーレムを見せ合う。
「速くなった!」
「防御力重視だ!」
「これが俺の最強機体!」
目を輝かせながら語り合っていた。
やがて王都全体が熱狂に包まれる。
貴族の子供。商人の子供。職人の子供。冒険者の子供。誰もがゴーレム改造に夢中になった。
さらに問題だったのは大人達まで参加し始めたことである。
「ワシの作品が最強じゃ!」ガンドが自信満々に叫ぶ。
「負けるか!」
「技術ならこっちだ!」
他の職人達も本気になっていた。
もはや子供の遊びではない。
職人達の意地と誇りをかけた戦いになっていた。
そんな頃、工場の事務室ではキキが帳簿を見て黙り込んでいた。
隣のナルサも同じ反応だった。「……凄いわね」
「凄いどころじゃないわ」キキが少し興奮しながら喋る。
売上は過去最高を更新していた。
小型ゴーレム本体。改造パーツ。関連商品。全部が売れている。
キキは苦笑した。「また大儲けね」
「笑いが止まらないんじゃない?」ナルサが横を見る。
そこには実際に笑っているカイルがいた。「研究費だ」満面の笑みだった。
キキが半目になる。「どうせ全部使うんでしょ」
「もちろん」迷いのない返事だった。
「知ってた」ナルサは諦めたように肩を落とした。
その夜。
工房の机に向かい、カイルは真剣な表情で書類を書いていた。
小型ゴーレム大会企画書。優勝賞品。限定改造パーツ。特別仕様ゴーレム。豪華景品。
次々と案が書き込まれていく。
「これは盛り上がるな」カイルが満足そうに呟く。
ミーナも頷いた。「経済効果も期待できます」
父の胸のディスプレイに文字が表示された。【商売上手】
その評価は間違っていなかった。
こうして小型ゴーレムは、ただの玩具から王国中を巻き込む一大ブームへと成長していく。
そして、その熱狂の中心にはいつも通りカイルがいた。




