第271話 ドワーフ工場と止まらない出費
もふもふダンジョンは相変わらずの大盛況だった。
商会の売り上げも順調。工場の受注も増え続けている。
月末になるたびに黒字の報告が届き、普通なら経営者が喜ぶ状況だった。
工房で帳簿を眺めていたカイルは満足そうに頷く。「よし」
その様子を見たナルサが首を傾げた「何がよしなの?」
「研究費が増えた」即答だった。
キキが呆れたようにため息をつく。「また全部使う気ね」
「当然だろ」まるで何を言われているのか分からないという顔だった。
数か月後。
カイル工場は以前とは比べ物にならないほど大きくなっていた。
鍛冶棟。研究棟。ゴーレム製造棟。飛行船開発棟。巨兵研究棟。
さらに新しい建物の建設まで始まっている。
工場というより小さな街だ。
増築中の建物を見上げながらナルサが呟く。「まだ広げるの?」
「どこまで大きくするつもりなのかしら……」キキも半ば呆れていた。
しかし、カイルは真顔で答える。
「全然足りない」
「いや、十分広いでしょ!」ナルサが思わず突っ込む。
カイルの頭の中には、既に次の研究施設の設計図が浮かんでいた。
工場の噂は各地へ広がっていた。特に職人達の間では有名である。
そして、ある日。大量のドワーフ達が工場へやって来た。
「本当に機械都市の技術があるんだろうな?」
「聞いた話じゃ信じられんぞ」
「見せてもらおうじゃないか」
有名な鍛冶師。職人。技術者。名だたるドワーフ達だった。工場見学が始まる。
そして、数時間後。全員が黙り込んでいた。
巨大な製造設備。自動化された工程。複雑な設計図。見たこともない技術の数々。
一人のドワーフが震える声で言う。
「なんじゃ……これは……」
「こんな技術、聞いたこともないぞ」
「頭がおかしい……」
カイルは満足そうに頷いた。「褒め言葉だな」
「絶対違うと思う」ナルサが即座に否定した。
そんなドワーフ達を見ながら、カイルはあることを思いついた。
ドワーフの好きなもの。酒。ならば前世の知識を使い蒸留器を製作した。
そして、完成したただのアルコール度数の高い酒をドワーフ達へカクテルにして振る舞う。
一口飲んだドワーフ達は最初こそ固まった。
だが次の瞬間、「うまい!!」歓声が上がる。
「なんだこの酒は!」
「身体が熱くなる!」
「最高じゃ!」
工場中が大騒ぎになった。
ナルサが困惑する。「そんなに?」
「魂が震えるぞ!」ドワーフが力説する。
さらに別のドワーフが叫ぶ。「これなら三日三晩働ける!」
「働くの!?」ナルサは思わず声を上げた。
その評判は職人達の間を駆け巡った。
数日後。
ある大物が工場を訪れる。名はガンド。
王国でも有名な鍛冶師だった。腕は超一流。
その代わり頑固者としても有名である。
ガンドは腕を組んで言った。
「ワシを雇いたいなら技術を見せろ」
「いいぞ」カイルはあっさり了承した。
そして、機械都市の設計図。飛行船の図面。巨兵の開発資料。研究記録。次々と見せていく。
数分後。
ガンドは完全に固まっていた。「なんじゃ……これ……」震える手で設計図をめくる。
そして、叫んだ。「なんじゃこれぇぇぇぇ!!」
その日の夕方には雇用契約書へサインしていた。
職人は増えた。工場も広がった。売り上げも伸びた。しかし、問題もある。
出費だった。
研究費。設備投資。材料費。高品質な魔石。飛行船開発。巨兵研究。どれも莫大な金がかかる。
帳簿を見ていたキキが頭を抱える。「稼いでるのに全然お金が残らないんだけど……」
ナルサも頷いた。「入ってきた分を全部使ってるもの」
「必要経費だ」カイルは悪びれもせず答えた。
その姿に二人は同時にため息をついた。
そこで新たな資金源を作ることになった。
研究室。
ミーナが資料を差し出す。「市場調査が終わりました」
「結果は?」
「玩具市場に需要があります」
カイルは頷いた。
そして、完成したのは小型ゴーレムだった。
手のひらより少し大きいサイズ。小さな足で歩く。愛嬌のある見た目。
リーナが目を輝かせる。「かわいい!」
ヒカリも頷いた。「売れそう」
さらに改良が加えられる。
「歩け」カイルが命令する。
小型ゴーレムがトコトコ歩いた。
「お辞儀」ペコリ。綺麗に頭を下げる。
ナルサが感心した。「すごい……」
キキも目を丸くする。「本当に言葉を理解してるのね」
ミーナが説明した。「簡易音声認識機能です」
カイルは満足そうに頷く。「玩具として売ろう」
発売当日。結果は予想以上だった。
「かわいい!」
「欲しい!」
貴族街の子供達が飛びつく。親達も次々購入した。話題は瞬く間に広がる。
予約が殺到し、生産が追いつかなくなるほどだった。
ナルサが驚く。「本当に飛ぶように売れてる……」
キキも苦笑した。「久しぶりにまともな商品を作ったと思ったらこれだもの」
数日後。
工房の中でカイルは最新の帳簿を確認していた。
かなりの黒字である。
満足そうに頷く。「よし」
その瞬間、ナルサが警戒した。「今度は何を買う気?」
キキも腕を組む。「絶対何か考えてるでしょ」
カイルは少し考えた。そして、自然な口調で答える。「飛行船を大型化しよう」
「やっぱり!」「だから貯金しなさい!」
二人の声が重なる。
カイルは聞いていなかった。既に頭の中では新型飛行船の設計が始まっている。
その様子を見ていた父のディスプレイに文字が表示された。【無理】
全員が静かに頷いた。
異論は誰もなかった。
こうしてカイル商会はさらに成長を続けていく。
優秀なドワーフ達を迎え入れ、新商品も大ヒット。
工場は王国屈指の規模へと発展していった。
ただ一つだけ変わらないことがある。
それはカイルが稼いだ金を研究費へ全力で注ぎ込むことだった。
そして残念ながら、それを止められる人間はまだ誰もいないのだった。




