↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴーレムはロボットです。  作者: 山田 ソラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

278/333

閑話 もふもふダンジョンの日常

 王都郊外にあるもふもふダンジョンは、今日も朝から賑わっていた。


 開園前だというのに入口には長い列ができている。


 子供連れの家族。休日を利用して訪れた商人。噂を聞きつけた貴族たち。さらには冒険者まで。


 今や王都でも指折りの人気施設だった。


 そして、現在その運営を任されているのは、カイル達がいない場合、現場の職員たちである。


「……俺は何をやってるんだろうな」受付前で列の整理をしながら、バルドはぽつりと呟いた。


 元Bランク冒険者、かつては危険な魔物と戦いながら各地を旅していた男である。


 そんな彼の今の仕事は「お客様はこちらへどうぞー」入場案内だった。


 隣で受付を担当しているマリアが苦笑する。「お仕事ですよ」


「昔はドラゴン討伐依頼なんかも受けてたんだぞ」


「今は子供達の案内係ですね」


「そうなるな……」バルドは遠い目をした。人生とは分からないものである。

 

「おじちゃーん!」元気な声が飛んできた。


 振り向くと、小さな男の子が駆け寄ってくる。


「どうした?」


「ラビットちゃんがお昼寝してる!」


「そうか」バルドはしゃがみ込んだ。「じゃあ静かにしてやらないとな」


 少年は真剣な顔で頷く。「うん!」


 そして今度は忍び足で走り去っていった。


 器用なのか不器用なのか分からない。


 その背中を見送りながら、バルドは思わず笑った。「平和だな」


「平和ですねぇ」マリアも同意する。


 以前なら考えられなかった日常だった。


 一方、ダンジョン内部ではドワーフ達が清掃作業を行っていた。


「まさか鍛冶師だったワシらが掃除をするとはのう」


「文句は言うな」


「給料が良いからな」


「それはそう」


 全員が納得した。カイル商会は待遇が良い。


 危険手当こそ無いが、その分仕事が安全だった。


 何より命の心配をしなくていい。


 元冒険者や職人達からすれば、それだけでも十分魅力的だった。


 魔物達の世話をしている元冒険者のレナは、子狐を抱きながら幸せそうな顔をしていた。


「かわいい……」


「レナさん」


「ん?」


「仕事中ですよ」同僚が呆れた声を出す。


 レナは腕の中の子狐を見せた。「世話してる」


「まあ、してますね」


 子狐が嬉しそうに鳴く。「キュウ」


 職員は反論を諦めた。実際、毛並みの手入れも健康確認も終わっている。本人が癒やされているだけだった。

 

 昼過ぎ。


 休憩所では職員達が一息ついていた。温かいお茶を飲みながら、バルドが口を開く。


「しかし、今でも不思議なんだよな」


「何がです?」マリアが尋ねる。


「ダンジョンって普通は命懸けの場所だろ?」


 周囲の元冒険者達も頷いた。誰もが同じ認識だった。ダンジョンとは危険な場所。


 魔物と戦い、命を賭けて攻略する場所。それが常識だった。


 だがここは違う。


 ラビットは来園者に撫でられながら昼寝をしている。


 子狐は子供達と遊んでいる。スライムはぽよぽよ跳ね回っている。どう見ても危険とは程遠かった。


「なんでこんなのが成功したんだ?」バルドの疑問に、近くで聞いていたドワーフが大笑いした。


「簡単じゃろ」


「ん?」


「可愛いからじゃ」


 一瞬の沈黙、そして、全員が納得した。


「……確かに」


 それ以上の理由が見当たらなかった。


「それにしても、カイル様って本当に変わってますよね」


 マリアがそう言うと、皆が苦笑した。


「変わってるな」バルドが即答する。


「普通の人なら思いつかないわ」レナも頷く。


 ドワーフも肩をすくめた。「普通の人間はダンジョンを動物園にせんからのう」


「それは間違いない」満場一致だった。

 


 そこへ新しい来園者がやって来た。貴族一家らしい。


 子供達は入口をくぐった瞬間から目を輝かせている。


「もふもふだ!」

「子狐いる!」

「早く行こう!」


 保護者を置いて走り出していった。


 その様子を見て職員達は自然と笑みを浮かべる。


 毎日のように見ている光景なのに、なぜか飽きなかった。


 夕方、閉園時間。


 今日も大きな問題は何一つなかった。怪我人なし。喧嘩なし。迷子も無事保護済み。


 実に平和な一日である。


 後片付けをしながら、バルドはふと空を見上げた。「冒険者を引退した時は不安だったんだがな」


「今は?」マリアが尋ねる。


 バルドは少し考えてから笑った。「案外悪くない」


 レナも子狐を抱えたまま頷く。「私、今の仕事好きですよ」


「ワシもじゃな」ドワーフ達も同意した。


 危険な冒険も悪くない。こういう穏やかな日常も悪くない。


 そんな空気がそこにはあった。ふと誰かが遠くの空を見た。カイル達がいる方角だった。


「そういえば、今頃何してるんだろうな」


 バルドの呟きに、ドワーフが即答する。


「ろくなことではないじゃろ」


「それは間違いないですね」マリアも苦笑する。


「多分また何か作ってますよ。」レナまで頷いた。


 異論は誰からも出なかった。


 こうして今日も、もふもふダンジョンは平和に営業を続ける。


 なお、その創設者だけは相変わらず平和とは縁のない場所で、新しい騒動の種を探しているのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。