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ゴーレムはロボットです。  作者: 山田 ソラ


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第270話 リヒト、学院へ行く

 もふもふダンジョンは今日も大盛況だった。


 開園からしばらく経った今でも人気は衰えるどころか増している。


 王都を訪れた観光客が必ず立ち寄る場所となり、休日ともなれば朝から長い列ができていた。


 当然、収入も絶好調だ。


 工房で帳簿を眺めていたカイルは、何度目か分からない確認を終えて満足そうに頷いた。


「よし」


 その様子を見ていたナルサが苦笑する。

「最近のカイル、帳簿を見るたび機嫌が良くなるわね」


「商人みたいになってるわよ」キキも呆れたように言った。


 カイルは顔を上げる。「研究費だ」 即答だった。


 ナルサとキキは顔を見合わせる。「「まあ、それなら仕方ないか」」結局、二人とも納得してしまった。


 そんなある日のこと。


 カイルは居間で本を読んでいるリヒトを見つけた。


 机の上には何冊もの本が積まれている。


 題名を見る。『王国の常識』『貴族社会の基礎知識』『一般市民の生活入門』


 どれも学院入学前の子供が読むような本ではない。


 リヒトは真剣な表情でページをめくっていた。


「勉強熱心だな」カイルが感心して声を掛ける。


 リヒトは顔を上げた。「分からないことが多いので」


「例えば?」


「人間社会全般です」なるほどと思いながら、カイルは本を覗き込む。


 すると余白に大量の書き込みがあることに気付いた。


【人間は毎日寝る】

【食事は基本的に一日三回】

【勝手に魔物を増やしてはいけない】


 カイルは最後の一文で止まった。


「待て」


「はい?」


「最後なんだ?」


 リヒトは首を傾げる。「重要事項です」


「……まあ、そうかもしれない」否定できなかった。

 

 その日の夜。


 家族で夕食を囲んでいた時だった。カイルはふと思いついたように言う。


「リヒトも学院に行くか?」


「学院?」リヒトが顔を上げる。


 ヒカリが説明した。「勉強を学ぶ所です」


「友達ができる場所だよ!」リーナも楽しそうに言う。


 リヒトは少し考え込んだ。


 機械都市にいた頃は学ぶことのほとんどが記録や知識だった。


 だが人と関わる機会は少なかった。友達。同年代の子供達。学院生活。知らない世界ばかりだ。


「……興味があります」その一言で話は決まった。


 数日後。


 リヒトの学院入学が正式に決まった。


 そして、初日。教室には新しいクラスメイト達が集まっていた。


 教師が笑顔で言う。「では順番に自己紹介をしましょう」


 一人ずつ名前を名乗っていく。やがてリヒトの番になった。リヒトは立ち上がる。


「リヒトです」


 そこまでは普通だった。


「元ダンジョンコアです」


 教室が静まり返る。教師も固まった。生徒達も固まった。


 リヒトは気にせず続ける。「よろしくお願いします」そして、座った。


 数秒後。


 教師が我に返る。「ちょっと待ちなさい」


 その後の授業でも騒ぎは続いた。歴史の授業。


 教師が王国建国史について説明している。


 するとリヒトが手を挙げた。


「はい、リヒト君」


「第三王朝以前にも類似した王朝が存在しています」


 教師が瞬きをする。「どうして知っているのですか?」


「見ていました」


「誰から聞いたのですか?」


「誰?いえ、自分で見ていました」


「どこで??」


「ダンジョンコアだったので」


 教師は頭を抱えた。意味がわからない。反論もきない。


 算術の授業。


「ではこの問題を解いてみましょう」


 教師が黒板に問題を書く。


 リヒトは数秒考える。「答えはこれです」


 正解。教師が少し難しい問題を出す。また正解。さらに難易度を上げる。それでも正解。


 教師はついに聞いた。「難しくないのですか?」


 リヒトは本気で不思議そうな顔をした。

「簡単です」


 周囲の生徒達がざわつく。


 教師も思わず呟いた。「天才か……」

 

 魔法学ではさらに酷かった。教師が魔力循環について説明している途中で、リヒトが手を挙げる。


「補足してもよろしいですか?」


「補足?」


 リヒトは黒板へ向かった。図を描く。さらに理論を説明する。応用例まで話し始める。


 教師は途中で止めた。「待ってください」


「はい?」


「私より詳しいですね?」


「そうかもしれません」悪気は一切なかった。


 昼休みの食堂。


 リーナとヒカリがリヒトの向かいに座る。


「どうだった?」リーナが聞く。


 リヒトは少し考えてから答えた。「面白いです」


 その言葉に二人は笑う。


「よかった」


「困ったことは?」ヒカリの問いにリヒトは真面目な顔になる。


「常識が難しいです」


「例えば?」


「モンスターを学院に連れてはいけない」


 リーナが吹き出した。「当たり前だよ!」


「そうなのですか?」


「そうだよ!」


 ヒカリも頷く。「それは常識です」


 リヒトは真剣にメモを取った。


 ある日の授業。将来の夢を書く課題が出された。


 騎士。冒険者。商人。魔法使い。みんなが思い思いの夢を書いていく。リヒトも迷わずペンを動かした。


 教師が回収しながら内容を確認する。そして、手が止まった。


『快適なダンジョン運営』


 教師は思わず顔を上げる。「リヒト君」


「はい」


「将来は何になりたいんですか?」


「ダンジョンです」


 教師は数秒黙った。そして、静かに頷いた。「そうでしたね」


 放課後。


 三人は並んで学院を出る。夕日が石畳を照らしていた。


「学院、どうだった?」リーナが改めて聞く。


 リヒトは少し笑った。「楽しいです」


 その表情は本心だった。機械都市にいた頃は一人だった。ただ知識を集めるだけの日々。だが今は違う。


 家族がいる。友達がいる。一緒に笑う仲間がいる。


 そして、明日も学院へ行く。それが少し楽しみだった。


 一方その頃、学院の職員室。


 一人の教師が深いため息をついていた。

「天才なんですが……」


「問題でも?」同僚が尋ねる。


 教師は疲れた顔で答えた。「常識がないんです」


「ああ……」


「しかも、本人は真面目です」


「それは大変ですね」


 教師はさらに続ける。「ちなみに保護者はカイル君です」


 職員室が静かになった。そして、全員が納得したように頷く。


「なるほど」

「それなら仕方ありませんね」

「むしろ納得しました」


 教師達の理解は早かった。


 こうしてリヒトの学院生活は始まった。

 

 周囲を驚かせつつ、少しずつ常識を学び。そして、たくさんの友人を作り学院生活が続いていくのだった。




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