第226話 再開された研究
あの日からカイルは変わった。
工房に籠もる時間が増えた。いや、“住み着いた”と言った方が近い。
カタカタカタ……
古いパソコンの駆動音。魔石ディスプレイに映し出される大量のデータ。図面、設計、計算式。
キキが工房を覗き込む。「……また徹夜?」
カイルは答えない。目の下には薄い隈が浮かんでいる。
ナルサが呆れたように肩をすくめた。「ちゃんと寝てる?」
「寝てる」
即答だった。だが、全員わかっていた。
絶対に寝ていない。
母が食事を机に置く。「せめてご飯は食べてね」
カイルは画面から視線を外さないまま、小さく頷いた。
父のディスプレイに文字が浮かぶ。【心配】
数ヶ月。カイルは寝る間も惜しみ、研究を続けていた。それは、前世で途中のまま終わった研究。
AI。人工知能。
この世界の魔導技術。ゴーレム技術。そして前世の知識。そのすべてを融合させる。
カイルは静かに呟く。「ロボットじゃない」
「AIゴーレムだ」
魔力で動く肉体。自律思考。自己判断。
“命令待ち”ではない存在。
キキが設計図を覗き込み、顔を引きつらせる。「……意味わかんない」
ナルサも青ざめた。「文字量が狂ってる……」
工房には大量の失敗作が転がっていた。
動かない腕。暴走した頭部。爆発した魔石。
ボン!!
「きゃあっ!?」とナルサが悲鳴を上げる。
「また!?」とキキが煙を払った。
その中で、カイルだけは冷静だった。
「……出力ミスか」
父のディスプレイ【爆発確認】。
母は呆れ半分で治療を続ける。「本当に無茶するんだから……」
だが、カイルの目は死んでいなかった。
むしろ、生き生きとしていた。前世では完成しなかった研究。
夢。
それを、この異世界なら完成できる。そんな確信があった。季節が変わる。リーナとヒカリも最初は工房へ来ていた。
「まだやってるの?」
「研究継続確認です」
だが途中から、誰も止めなくなった。止まらないと、わかってしまったからだ。
深夜の工房。床一面に広がる魔導回路。
組み上げられた金属骨格。その中央に立つ、人型フレーム。まだ顔はない。だが、そこには確かな存在感があった。
カイルは静かに言う。
「……もう少しだ」
パソコン画面には、前世の自分が残したデータが映っている。
《Project:AI》
それが今、異世界で再起動していた。




