第225話 前世の痕跡
深夜。工房。
魔石ディスプレイの淡い光だけが部屋を照らしていた。
ブゥゥン……
古い箱型パソコン。その画面をカイルは静かに見つめている。キキ、ナルサ、母、父。全員が後ろから覗き込んでいた。
「文字、読めるの?」ナルサが小声で言う。
「……少しな」カイルは頷いた。
画面には古代文字。しかし、カイルにとっては"日本語"だった。
「なんて書いてあるの?」キキが首を傾げる。
カイルは答えない。静かにキーボードへ触れた。
カタ……カタカタ……
懐かしい音。画面が切り替わる。フォルダ、ファイル、画像。
そして、カイルの手が止まった。画面に表示された文字。
『ユーザー名:kazma』
沈黙。
「……カイル?」ナルサが不思議そうに言う。
「何があったの?」キキも眉をひそめた。
しかし、カイルは動かない。じっと画面を見つめている。その指が、微かに震えていた。
「……カイル?」母が気づく。
ぽたり。
雫が落ちた。
「え……?」キキが目を見開く。
カイルの頬を、涙が流れていた。
「うそ……」ナルサが完全に固まる。
「ど、どうしたの!?壊れてた!?」キキが慌てて近づく。
「……違う」カイルは首を振った。
ゆっくり、本当にゆっくりと画面へ触れる。そして。
「これは……」息を呑む。「俺のパソコンだ」
全員。「……は?」
空気が止まった。
「あなたの……?」キキが理解できず聞き返す。
「前世で使ってた」カイルは頷く。
「そんなこと……」ナルサが息を呑んだ。
母も驚きを隠せない。
父のディスプレイ【困惑】。
カイルは画面を見つめ続けた。そこには、昔自分が作ったフォルダ、保存したデータ、前世の"日常"。失ったはずのもの、もう二度と触れられないと思っていたもの。
それが、目の前にある。
「……なんでここにあるんだよ」カイルは小さく笑う。しかしその笑顔は少し崩れていた。嬉しい。懐かしい。そして、苦しい。
キキは静かに隣へ座った。「……大事な物だったの?」
カイルはしばらく黙り、小さく頷く。
「ああ。俺が、生きてた証拠だ」
工房が静まり返る。誰も軽口を言えない。画面の光だけが、過去と現在を繋いでいた。
カイルは再びキーボードへ手を置いた。
「……中を確認する」その声は、少しだけ震えていた。




