六話
「ごごごごごごご」と、壊れた機械のような声を出すと同時に、将真は胴体から煙みたいに無くなっていく。京香は更に、胴体を切るように右に持っていくと、文字通り、将真の胴体から右部分が切断した。
「将真...?」
そこから堰を切るように、将真は消えていなくなる。
「すまぬ、健也」
岩野真の謝罪の言葉を貰うと、将真が消えたことをようやく理解する。
理解すると同時に、健也は違うものを見ていた。
頭部が潰れた男の死体。
その死体から、何かが出て来る。
「....!」
岩野真は、気づいたや否や、右足に履いた下駄をとり、男の死体の上目掛けて投げた。
それは形を成す前に下駄に当たり、雲散霧消した。
「あの男は...」
岩野真は「いや」と首を振り、スマホを取り出し、操作をして、それを耳に当てる。
話を聞いていると、どうやら、消防署に電話をしているらしいと分かった。
健也はまた背後を振り返ると、そこには煙をあげて、慌ただしく燃え上がる車の光景があった。
◯
駐車場に、警察が密集している。あの後、警察、それと消防が来て、現場は大混乱の集中砲火を浴びた。
火災は無事消化されたが、今は岩野真が、警察から事情聴取を受けている。それまでの警官の対応は普通だったが、岩野真が何かのバッジを見せると、警官はギクっとしたように、当惑の顔を浮かべた。
「ああ...。そうですよね。こんな事、ありえないから...」
「霊でも、ありえないんじゃがの。まあ、当の霊は祓っておるから、大丈夫じゃ」
「え、えぇ...」
というのも、状況証拠からでも不穏な事件だが、目撃者がいたのだ。その目撃者は女性の一般の人で、スマホで動画を撮影していた。そのスマホには、途中からだが、がっつりと、痩せぎすの男が浮かび、頭からコンクリートに直撃する所を捉えていた。
警官もなにやら知っている風であったし、心霊事件、なんていうのも、周知の事実なのかも知れないと、なんとなく思った。とにかく、思ったよりあっさりと解放された。
それと、車は消防の人達が炎と一緒に洗ってくれた。
岩野真と京香は血で塗れていたので、着替えて、血を拭って、銭湯に行った。
健也はみぞれと2人きりになり、ソファに座った。みぞれも隣に座る。みぞれもてっきり一緒に入ると思っていたので、こうなるのはあまり予想していなかった。少し緊張する。
「.....」
「.....」
沈黙。気まずい。
健也は何かないかと、話題を探した。いや、そもそも自分は霊なんだし、話さない方が良いのではないかと思ったその時、みぞれが口を開いた。
「京香、はね」
あんな事があったというのに、みぞれは訥々と、床をみながら話し出す。周囲の人の目線は気にしていないようだ。集中しているのか。
「私のこと、友達って言ってくれてるんだ。...私、今まで、友達なんて、いなかった、から」
「...はい」
「私、こんなんだから、人と、話すの、苦手だし...でも京香とは、仲良くなれて、きっかけは、霊のこと、なんだけど...それでも、仲良くなって、凄い楽しくて、嬉しかった」
「.....」
「私、は..京香を助けたいんだ。そして、健也君も、助けたい。これは、本心.....です....」
何が言いたいのか、あまり判然としない。曖昧で、健也は少しカチンときた。つい投げやりで、刺々しい口調になってしまう。
「....よく、分かりませんよ。助けたいだなんて。ありがとうございますって、言えば良いんですかね」
「ご、ごめん、なさい...」
みぞれはシュン、と、小動物のように畏ってしまった。健也はふん、というように、顔を下に向ける。
そんな気まずい時間の中、京香が暖簾から顔を出した。着替えた服で、こちらを見ている。
二人の雰囲気を察したようで、こちらに歩み寄る。
「健也君」
「...何ですか」
「私は、貴方の友達を殺した」
「...はぁ?」
「幾らでも恨みなさい。あなたのお友達の、帷将真はもういない」
そんな言葉に、プツリと琴線が切れて、怒りが溢れ出す。
健也は立ち上がり、腕を上げ、京香の胸倉を掴もうとした。
「.....っ」
服を触っただけで、それ以上のことは出来なかった。霊というのは非力で、こんな服一つ持ち上げることすら出来ないのか。こんな所でも自分の無力を味わわせられるのか。
健也はソファに座り、脱力した。
もう、将真はいない。
「ふざけるなよ。意味が分からないんだよ。助けるとか霊とか。何言ってんだよ」
そんなことを言っても、京香は揺るがない。
「この後、病院に行く。あなたはもう、私達についていくしかない」
◯
能登田病院。能登田さんの病院。
くだらない言葉しか吐けない脳味噌になってしまった。いや、脳味噌はない。だって健也は霊なのだから。くだらない霊になってしまった。そこに着くまで、何も喋らず、そんなことを思うことしか出来ないくらいには、傷心していたのだろうか。
病院に着いて、でかい、と思った。車を出て、中に入る。自動ドアは健也には反応しないので、京香達の後ろに歩く。すり抜ければ良いことだが、気持ち的にも、ということだと思う。
やがて中がはっきりと見えると、エレベーターがあるので、やっぱりそれなりにでかい病院なのだろう。
岩野真が、健也に向かっていう。
「ここに、お主の身体がある」
「.....はい」
「行ってこい」と、岩野真の説明に従って、入院室へと向かう。
廊下が長くて、各ドアに名前が書いてある。歩いていくと、見つけた。節鳥健也様、と書いてある。すり抜けると、そこには、健也がいた。
背が伸びていて、顔も思ったより大人びている。が、間違いない。自分だ。
「本当に、僕なんだな」
健也は健也に話しかけた。もちろん健也は反応しない。何故なら、健也はここにいるのだから。
よく分からなくなって、少し面白くなる。面白くなった後には、ムカつく。面白くなったことにムカついた。
「ふぅ」
違う。今はそんなことを思っている時間ではない。
覚悟を決めて、健也は健也の身体に触れた。
「おぉっ....」
すると、引き込まれていくように、身体の中に入っていく。やがて健也の霊体は、そのまま全て取り込まれていった。




