↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぶっ潰せ!  作者: looloohuu
14/17

十四話

 背後から、岩野真の怒声が響いた。と同時に、京香が霊力を纏わせると、その霊目掛けて拳を繰り出した。が、男の霊はすぐさま健也の父の体に入ってひまう。

 京香の拳は空振る。空振ったが、流れるように次の拳を男に繰り出した。


 「っっっ!!!」

 

 すると向かいから、信じられない速度で自転車が飛び出した。自転車は真っ直ぐに、京香の土手っ腹にぶち当たる。そのまま京香はぶっ飛んで、岩野真の探偵事務所の壁に、背中から勢いよく痛打した。


 「みぞれぇ!逃げとれ!!」


 京香が飛ばされて、思わず健也は背後を向くと、岩野真が血相を変えて、男目掛けて走っている。岩野真はそのまま、靄を纏った蹴りをお見舞いしようとした。

 

 ミシミシと、どこかが鳴った。

 音の先を見る間もなく、長い棒が岩野真の腹を直撃しようとする。


 「ぬぅ...?!」


 寸前で、腕で防いだのだろうか。だが、左手があり得ない方向に曲がっているのが眼で見えた。岩野真は吹っ飛ばされ、コンクリートに転がった。それと共に、コンクリートに血が塗れていく。


 それに呼応するように、周囲の喧騒も大きくなってゆく。「なんだなんだ?!」「ひぁ?!」「け、けけけ警察!」「おいおい...」「に、逃げろ!」ある者は立ち竦んで、ある者は逃げ惑い、ある者は携帯を掲げて、この事態を傍観している。


 「駄目じゃないか。京香」


 そんな周囲の反応も気にならないのか、はたまた余裕が無いのか、男は震えた声を京香に向ける。

  

 「さあ、帰るぞ」


 この期に及んでまだ言うかよ。


 「返せよ...!」


 健也は再度、拳を男に繰り出した。男は軽々退けて、健也を視る。


 「面倒だな...」


 面倒?どういうことだ?


 束の間に、右側から、誰かが拳を繰り出した。男もそれに気づいたのか、また、避ける。避ける。避ける。

 京香だ。口から血が出ている。それがなんだと言わんばかりに、拳を繰り出している。


 「まだ分からないのか」


 「なに、が...!」


 「良い子にしていないと、こうなるぞ」


 周りから、ブーーーーー、というけたたましい異音や、叫び声が溢れ出した。周囲を見れば、車が、人が、皆一様に浮かび上がり出した。車は皆、クラクションを鳴らしているのか、ブーーーー、という音がどこにもかしこも鳴り響いている。人々は、先の駐車場のあの男のように、服の胸部分が盛り上がっていて、宙吊りのような状態になっている。

 やばい、と思った。

 車も人も、この浮かび方には既視感がある。このままではあの時のような、最悪な事態になってしまうかもしれない。


 「...何をする気だよ!!」


 「もう遅い。京香、お前のせいで、こうなってしまうんだ」


 本当に悲しそうな表情で、声音で、男は京香にいう。


 車が、人が、急速に直下し始めた。直下して、すぐに地面に直撃するーーー


 「私は、あなたが大嫌い!!!」


 かと思うと、地面の直前で、周囲の車や人々が止まった。

 男は、声の方向に目を遣った。


 「やめろ」


 「ずっと、憎くて憎くて仕方なかった!!」


 「やめてくれ。保てなくなる。お願いだ、京香」


 いつの間にか、浮かんでいた車や人々は解放され、皆一様に、此処から逃げ出している。

 そんな周囲も気にせずに、いや、気にせないのか。男の声は震え出し、今にも消えてなくなりそうな様子に急変した。それでも京香は続けようとする。


 ふと、京香の背後から、自転車が一輪、勢いよく突っ込んでいるのが見えた。

 まさか、京香に当てる気なのか。


 ーーー狂っている。

 霊になってしまったからこうなってしまったのか。多分、そうなのだろう。京香の話を聞いた限り、生前の頃はこんな風ではなかった筈だ。優しい父親だった筈なのに、霊になればこんなにタガが外れてしまうというのは、とても恐ろしいことだ。そして、そんな父親を視てしまうというのは、どれほど苦痛なことなのだろうか。

 そこまで考えて、健也は首を振る。

 京香は、同情なんて求めていない。彼女が求めるのは、ただ一つ。


 今は、この状況をどうにかすることだけを考えるんだ。


 ーーーそうだ。この男は、何故か健也を攻撃しない。何故か。京香や岩野真や周囲の人々はポルターガイストで危害を加えていながら、健也には何物たりとも寄せ付けていない。

 先程の男の言葉を思い出す。

ーーー「面倒だな...」

 出来ないのか。殺そうと思えば、いつでも健也を殺せる筈だ。なのに、そうしないということは。

 何故かなんて考えなくて良い。今は、走れ。

 

 健也は直ぐ様に、京香に向けて走る。京香は気付いていないようだ。おそらく、集中しているのか。

 気にしなくて良い。走れ、走れ、走れ。

 漸く京香の背後に着くと、自転車が一輪、突っ込んでくる。

 

 「...!?」


 自転車が、健也の寸前で止まった。

 

 当たった、ということだ。何故なのかはよく分からないが、男は健也を殺せない。


 そして。


 「私の父さんなんかじゃ、ない...!!」


 その声は、ここいら一帯に刻然と響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。