十一話
「...節鳥、警」
「そうよ、あなたのお父さん」
そう言って京香は、スマホをこちらに見せてきた。
中学の入学式に撮ったのだろうか。当時中学生であろう京香が笑顔で、男と立っている。その男を見た時、鳥肌が立った。霊であるのに寒くなって、凍りついた。
「お父さんだ」
「そう。でも、魂は私の父の霊に乗っ奪られている」
「...」
「私は、父さんの霊を叩き潰す。その前に、あなたを生き返らせたかった。全て終わらせてから、目的に臨みたかったのよ。でも、それはやめておいた方が良かったのでしょうね」
「...僕も行きます」
「あなたが行く必要はない。私が隙を突いて祓えば良いだけのことだから」
「それでも!...監視としてでもなんでも、ついて行かせてください」
京香は、はぁ、とため息を溢す。そのため息は、健也に対してではなく、自分に対してのものだったのだろう。
「...分かった。もうこれ以上のことは言わないわ」
「ありがとうございます!」
「と、まだ時間がある。その間に霊のことについて、諸々知っておいた方が良いじゃろう」
と、岩野真が空気を変える為にか、のほほんとした声でいった。
「霊というのは、実は色々な事件に関わっとる。実際に霊が事件の犯人だったり、霊が犯人を教えてくれたりの。そこで活躍するのが、儂等心霊探偵じゃ。昔から霊は利でも害でもあったから、心霊探偵は重宝された。そこで人々は、霊を視ることが出来る人間同士を掛け合わせた。そうして出来た家系が、この世界にはいくつもある。諸鷲家、岩野真家、そして帷家。他にもあるが、まあ、大きいのはここいらじゃな」
「岩野真って...」
「そう。儂は岩野真家の人間じゃ。今は京都で探偵事務所をやっておる」
そう言って岩野真はケラケラと笑った。
と、いうことはと、健也はみぞれを凝視してしまった。みぞれは忘れていたという顔で、話し出した。
「あ。私の苗字、言って、なかったね。...えっと、私は、岩野真、みぞれ、っていうんだ」
「儂等の家系は、血筋を巡っていく毎に、新たな力を得た。それは、霊力を操ることじゃ」
「ほら、これよ。視える?」
京香は、右手を見せた。その右手には、何ともいえない、禍々しいオーラを纏わせていた。
先の駐車場での事件でも、こんな風なのを見たことがあった。
「これで、霊に触ることが出来るようになる。成仏出来そうにない霊は、こうよ」
京香はみぞれの肩を小突いた。いてっと、みぞれが肩をさすっている。
「だが、そうも出来ない奴がいる。ポルターガイスト。物を自在に操る霊。今まで、ポルターガイストと呼ばれるものは、使える霊はいれど、規模も小さかった。だが、京香の父親の霊、そして、帷将真。車を上げるなんて芸当、儂は初めて見たがな。帷将真の一件で、それは現実なのだと、初めて思い知ったのじゃが」
そうだ。将真だ。心霊探偵、そして名家の血が流れている岩野真でさえ見た事がないと言われる程のポルターガイストを使う霊が、今回の事件に二人いることに、健也は危険性を感じた。
「無敵、じゃないですか。例えば、あの、駐車場の時みたいに、服を...」
「そうでもない。儂等なら手立てはある。霊力を服に纏わせれば良いだけだろう。そうすると、相手は手出し出来なくなる。これは通常のポルターガイスト現象で判っていることだ。まあ、当の事件の場合は、死の危険は付き物じゃが」
「危険じゃないですか。さっきの、名家に依頼をすれば、もっと簡単に祓えるんじゃないんですか?」
「だから、私がやるの。お爺ちゃんは、その手助けをしてくれてる」
京香は拳を突き合わせ、気合十分というように言ってみせた。隣のみぞれが窮屈そうにしている。
「でも、どうやって祓うんですか?だって、乗っ奪られてるんだから、中にいるんじゃ...」
「それは大丈夫。衝撃を与えれば、霊体が出てくるわ。そこを叩くのよ」
曖昧だが、京香の覚悟は健也にも充分に理解出来た。霊といえど、実の父を消してしまう、ということだ。並大抵の思いではない。
そして、将真の事。
今までの話で、概ね理解出来た。京香の従兄弟が、将真ということだろう。
帷奨真。だとすれば何故、健也と一緒にいたのであろうか。
「それに、最大の弱点があるから」
健也が考えに考えを募らせているところ、京香は思い出したようにいった。
「父さんは、私を愛しているということよ」




