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毎日夜9時更新です。
話途中で、三人称視点からヒロイン視点に変わります。
シュネーベルク城に、ようやく穏やかな時間が流れ始めていた。
死の淵にいたロゼリッタの頬には、春の訪れを告げる花の彩りのように、柔らかな朱が差し始めている。
「ロゼリッタ、今日は少し顔色が良いな。だが無理は禁物だ、私が支えよう。さあ、このクッションを……」
「閣下! しつこいです! ロゼリッタ様が疲れてしまいます! お仕事が溜まっているってハンス様が泣いていましたよ。はい、シッシッ!」
事あるごとに周りを右往左往するヴィオレルを、新米の侍女のサラが容赦なく追い出そうとする。北の守護要も、ロゼリッタの体調管理を盾にされると、眉を下げて退散するしかない。
毎日のように続くこのやり取りを、ロゼリッタは微笑ましく見ていた。彼女がくすくすっと笑うと、サラが「ほら! 閣下、また笑われてますよ」とからかい、ヴィオレルは嬉しそうに彼女を見つめた。
「……お仕事、頑張ってくださいね」
そのロゼリッタの一言で、ヴィオレルはやる気を漲らせて部屋を出て行き、残されたサラは「はぁ、やんなっちゃう!」と溜息を吐いた。
ようやく一人になったロゼリッタは、机に向かう。そこには、王都の兄レナードからの手紙があった。
自分を心配する言葉。シュネーベルク家に対する隠しきれない不信感。リンドホルム家が再興し、レナードが騎士団に所属したこと。そして、近いうちに北の大地へ見舞いに行くという知らせ。
その日の晩餐。
少しずつ食事を摂れるようになったロゼリッタは、ヴィオレルと食卓を囲んでいた。
「……あの、兄から手紙が届いたのです。近いうちに、こちらへ見舞いに来たいと……」
「レナード殿が?」
ヴィオレルは一瞬、表情を硬くしたが、ロゼリッタが顔色を伺うような表情をしているのに気がつくと、渋々と首を縦に振った。
「君が望むなら……致し方あるまい。丁重にもてなそう」
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数日後、兄様がシュネーベルク城へやってきた。
馬から降りた兄様は、私を見るなり駆け寄り、私の肩を震える手で抱きしめた。
「ロゼリッタ……! 良かった、本当に……。元気そうだ……! 死の淵にいたと連絡があった時は、私も死ぬかと思ったよ」
兄様は私を見て心底安心したようだったけれど、その視線が背後に立つヴィオレル様へ向くと、氷のような冷たい眼差しに変わった。
「……そうか。卿がロゼリッタを殺しかけたのだな」
ヴィオレル様は青褪めた顔で、神妙に……こくん、と頷く。私は慌てて声を張り上げた。
「……兄様、ちがうわ! 私を助けてくださったのよ!」
ヴィオレル様はさも驚いた顔をして、溶けかけの氷河のような薄紫色の瞳で私を見つめる。本当のことを言っただけなのに……。そんな目で見ないで。
「生きたロゼリッタと再会できたので、今は……いいでしょう。……卿、この度は訪問を許してくださり感謝いたします」
兄様は騎士の礼をした。
私と兄様は、談話室で話すことになった。私の部屋でも良かったが、サラ曰く、ヴィオレル様が許さないと言う。
……談話室の扉は大きく開け放たれ、廊下にはサラが微動だにせず控えている。
「ロゼリッタ、本当のことを言ってくれ。酷いことはされていないか?」
兄様は声を潜めて私に問いかけた。
「……借金を返して、お前を取り戻せるなら、どんなことだってする。……だが」
兄様は悔しそうに拳を握りしめた。……分かっている。今の私たちの家には、そんな大金はない。
「大丈夫ですよ、兄様。ここの生活は、思っていたよりも悪くありませんわ」
「強がりを言うな。あんな不気味な男のそばで……」
「いいえ、本当です。食事も美味しくて、お部屋もとても豪華なんですよ。それに……サラというお友達もできました」
「友達……?」
「えぇ、友達! ふふっ……それに、あの方も兄様が言うような不気味な人ではありませんわ。とても優しく、大切にしていただいてますわ」
兄様は信じられないものを見るような目で私を見た。
窓の外では、まだ冷たくも春の風が吹いている。けれど、私の心にも少しずつ、本当の春が近づいているような気がしていた。
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