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毎日夜9時更新です。
話途中で、三人称視点からヒロイン視点に変わります。
翌朝。朝食の用意が整い、女主人に大食堂に来るように伝えようと、カミラは廊下でロゼリッタの目覚めを待っていた。時間が経っても、部屋からは物音一つしない。
「朝起きられないなんて、子供と一緒ね」
痺れを切らした彼女が部屋に入ると、目にしたのは、昨夜の豪華なドレスを纏ったまま、冷え切ったベッドの上で浅い呼吸を繰り返すロゼリッタの姿だった。
「……様! ロゼリッタ様!」
悲鳴に近い呼びかけが廊下に響き渡る。報告を受けたバルトが表情を険しくして主人の執務室へ走り、家令のハンスは狼狽しながら、侍医を呼びに走った。
駆けつけたヴィオレルは、ベッドの横で立ち尽くし、ただ茫然と彼女の名を呼ぶことしかできなかった。
北の守護要と称される英雄が、一人の少女の蒼白な顔を前にして、地獄を見たかのように指先を震わせている。
やがて到着した医者が、手際よく診察を終え、苦渋に満ちた表情で告げた。
「……極度の過労と、深刻な栄養失調です。そこに長旅の疲労と、この地の冷気が追い打ちをかけたのでしょう。低体温による衰弱と脱水症状……非常に危険な状態です」
ヴィオレルの顔から、さっと血の気が引いた。呆然とその場に立ち竦むヴィオレルを、バルトが力尽くで部屋から退かせる。アイリスとカミラが震える手で彼女のドレスを脱がせ、汗を拭い、清潔な寝衣へと着替えさせた。
再び入室を許されたヴィオレルは、吸い寄せられるようにベッド脇へ跪き、彼女の細く、冷たい手を両手で包み込んだ。
廊下ではハンスの怒号が飛ぶ。
「貴様ら、昨夜は何をしていた! なぜ女主人が、このような凍える部屋で独り、着替えもせず倒れていたのだ!」
詰め寄られたアイリスとカミラは、顔を真っ青にして弁解する。
「……ですが、入浴のお手伝いをしようとしたら、ロゼリッタ様が『お風呂くらい、一人で入れる』と頑なに仰ったのです!」
「黙れ! それと暖炉の火が消えていることに、何の因果関係がある! 閣下は、あれほど部屋を暖かくしろと命じてたではないか!」
「……っ、でも……『お化粧も、髪を結うのも、自分でやる』と……、『外で待ってて』と『ゆっくりしてて』と……部屋から追い出されたのです!」
「抜かせ! それで一晩中、暖炉の火も焚べず……言葉通り『外でゆっくり』してた訳か。貴様ら、女主人を殺す気か!」
その喧騒は、開いたままの扉を通じて、ヴィオレルの耳に届いていた。
彼はロゼリッタの手を握ったまま、背後のバルトに低く、地を這うような声で命じた。
「……奴らを黙らせろ」
それは、単なる静止の命令ではない。「主人の命に従わなかった者、そして今、彼女の眠りを妨げる者に死を」という、処刑の宣告だった。
バルトは微動だにせず、ただ「御意」と短く応じ、腰の剣に手をかけた。
〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜
身体が酷く重い。それに……何か騒がしいわ。
誰かが怒鳴っている声が聞こえる。
それに、ぽかぽか暖かい……暖炉に火が焚べられたのかしら。でも、そうじゃない。誰かが私の手を握ってくれてるわ。母様? ……それとも……。
重い瞼を押し上げると、目の前にひどく顔色の悪いヴィオレル様の顔があった。その後ろには、抜き身の剣を手にしたバルトが……。
「……あの……何かあったのですか?」
掠れた声で、ヴィオレル様の袖を弱々しく引く。彼は、弾かれたように私を見た。その瞳は、見たこともないほど揺れていて、私を心配そうに見守っている。
「ロゼリッタ! 気づいたのか……良かった!」
「……えぇ……何か騒がしいようですが……」
ヴィオレル様は、私の無事を確認して心底嬉しそうに口角を上げたが、廊下から怒鳴る声が聞こえる度に、その眼差しには氷のような冷徹さが混じる。
「すぐにあの愚か者どもを斬り捨ててやる」
「愚か者……?」
「アイリスとカミラが、君をこんな目に……」
「……ち、ちがいます。……お願い、やめて」
ヴィオレル様は苦しげに顔を歪め、天を仰ぐようにして頭を抱えた。けれど、私の必死の眼差しに負けたのか、後ろにいるバルトへ向けて「……剣を下ろせ」と指示を出した。
彼は強張る手つきで水差しを取り、私の頭を優しく抱き上げると、慎重に水を飲ませてくれた。苦いお薬も、彼に促されるままに飲み込む。
「……ごめんなさい。……せっかく、迎えていただいたのに」
お礼を言わなきゃいけないのに、出てくるのは謝罪の言葉ばかりだ。
ヴィオレル様が何かを必死に訴えかけているけれど、お薬が効いてきたのか、また意識がふわふわとしてくる。
握られた手の温もりだけを感じて、私は再び、深い眠りの淵へと沈んでいった。
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