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毎日夜9時更新です。

話途中で、三人称視点からヒロイン視点に変わります。

 侍女のサラは、鏡の前で身支度を整える主人の姿を仰ぎ見、思わず手元のブラシを止めた。

 かつての痛々しいほど削げていた頬は、白磁のようになめらかに薄ら桃色を帯びている。蜂蜜色の髪は揺れるたびに輝きを湛え、琥珀と翠玉を溶け合わせたようは瞳は美しくも儚かった。朝露に濡れた紅薔薇を思わせる唇は、いつも朗らかに微笑みかけている。

 痩せこけていた身体もしなやかな曲線を描き始め、その佇まいは誰もが目を奪われる艶やかな女性へと変貌を遂げていた。


 だが、サラには一つ不満がある。

「せっかく淹れたお茶を飲む時間もない…」

 サラは、ロゼリッタの話し相手であるということを誇りに思っていた。なのに、目の前のロゼリッタは、ハンスから女主人の執務を教わり、合間には結婚式の準備までこなしながら、朝から晩まで城中を飛び回っている。わずかに残った時間も、ヴィオレルが奪い去っていく。  

 仲睦まじい二人の姿を見ると、サラは愛くるしい主人の変化への喜びとともに、どこか妹が巣立つような寂しさを感じていた。


 そんな活気ある城内に、にわかに緊張が走った。

 隠居生活を送っていた先代辺境伯と、ヴィオレルの母が予告なく帰還したのだ。



 〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜



 ロビーに響く、気品に満ちた足音。

 お迎えの挨拶をするために一人で待つ私の前に現れたのは、ヴィオレル様と同じ薄紫の瞳を持つ、荘厳な美しさを湛えた貴婦人だった。


「……あなたが、例の没落寸前だった伯爵令嬢ね」


 投げかけられた言葉は、北の地の吹雪のように冷たい。

 貧乏な家柄であることも、困窮していたことも事実だ。言い返す言葉もなく、私はその視線を受け止めるしかなかった。


「ただの小娘じゃない!教養もあったものじゃないわ!よくもまあ、私の息子を誑し込んだわね」


 厳しい刃が、私の胸を抉る。一生懸命に女主人の仕事を学んでいるつもりだったけれど、私はただの不釣り合いな小娘に過ぎないのだと思い知らされる。

「ミレーネ、そう攻めるな。私が選んだ娘だぞ」

 先代辺境伯様が助け舟を出してくださるが、お義母様の怒りは収まらない。

「貴方は昔から拾い癖があるのよ! よりによって、こんな……!」

 ぷりぷりと怒りながら私を値踏みするように睨みつけるお母様に、私はただ俯くことしかできなかった。



「母上! ロゼリッタに何をした!」

 そこへ、知らせを聞いたヴィオレル様が血相を変えて駆けつけてきた。

「……ヴィオレル、親に向かってその言い草は何? この小娘を守るために、私と喧嘩をするつもり?」

「当然だ。私の妻を侮辱することは、私自身を侮辱することと同じだ!」

「妻?まぁ、まだまだ結婚式は先なのに、もう夫を気取っているの?」

 目の前で始まる、親子というよりは「狼同士」のような激しい言い争い。

 ヴィオレル様は必死に私を庇ってくれる。けれど、その姿を見れば見るほど、私の心は重く沈んでいった。


(私のせいで、ヴィオレル様とお母様が……)


 自分の不甲斐なさと、立ちはだかる「辺境伯夫人」という壁の高さ。

 私は、自分がまだこの家に相応しい人間になれていないことを突きつけられ、ただただ唇を噛み締めながら、現実から目を逸らした。



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