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毎日夜9時更新です。
本話はヴィオレル視点になります。
胸元に、柔らかな重みを感じた。
ロゼリッタが俺の胸に顔を埋め、その細い腕を俺の背に回したのだ。薄いシャツ越しに、彼女の指先が縋るように俺の背中を掴んでいる。
(……抱きしめられているのか?)
思考が止まった。
あからさまに子犬を贈ったことで、昨日の尾行が露見したのではないかと生きた心地がしなかったが、今の彼女は怯えるどころか俺に身を委ねている。
(っ…何故…?)
ロゼリッタの熱を感じて、歓喜に震える俺の身体。全身の血が沸騰し、顔が焼き切れるほど熱い。ドクドクと心臓が脈打つ音があまりにも大きくて、ロゼリッタに聞かれるのが怖いくらいだ。
抱きしめ返したい。だが、この手折れるほどに華奢な身体を、戦いしか知らぬ俺の腕が締め付けて良いものか。迷う俺の胸元から、鈴を転がすような吐息が漏れた。
「……っ……ヴィオレル、様……」
幻聴だと思った。
一度として名を呼んだことのない彼女が、今、確かに俺の名を紡いだ。
「ロゼリッタ……ど、どうした? 子犬に驚いたか?」
問いかけると、彼女は俺の胸から顔を上げ、潤んだ瞳でこちらを見つめる。その上目遣いの視線だけで天に昇る心地だというのに、形の良い唇が、もう一度甘く俺の名をなぞった。
「……ヴィオレル様」
幻聴ではない。理性が消し飛び、俺は彼女を勢いよく、強く抱きしめ返していた。
「…ロゼリッタ……君が望むなら、私は何でも叶えよう」
「何故……? 私には何もありません。貴方に愛される資格など……」
その瞬間…俺は、ロゼリッタがその後に続けようとした言葉を唇で塞いでいた。
自然に落ちる二人の瞼。
触れたかどうかも分からないほど、優しく切ない口付け。
「…ロゼリッタ、私は君を愛している。心の底からだ」
淡い金と緑が混ざり合う、その美しい瞳から堪えていた雫が零れ落ちる。俺は、思わず…その雪解けの水のように透き通った涙に、そっと口付けた。
そして俺は語り始める。
秘めていた十年の月日を。
北の地で意気投合した、先代の辺境伯とリンドホルム伯爵。二人が交わした「両家の絆を永遠にする」という約束。
十二歳の俺に下された婚約の報せは、最初、ただの義務でしかなかった。だが、ロゼリッタが学園に入学する日。父に連れられて見に行った俺は、数多の令嬢の中で、なぜか君だけが目に留まったのだ。それが自分の婚約者だと知った時の高揚を、今でも鮮明に覚えている。
それから、父が王都に行く時は必ず同行した。君を一目見るために…。そして、王立学園へ足を運び、成長する君の姿に心を躍らせた。
「…君は、いつも春の陽だまりのようだった。雪の大地で、味方か敵か…それだけで人を判断するような孤独な白狼だった俺には、ただただ君が眩しかった」
成人してからも、君を目で追うためだけに、俺は一人王都へと通い詰めた。
「もしかして……お祖父様が昔話してくださった、『雪の大地で銀色に輝く、気高くも勇ましい白狼』というのは、貴方のことだったのですか?私…てっきり、何かの物語かと…」
「……そうだ。それは、私だ」
幼い彼女の記憶の片隅に、俺がいた。十年間の想いが報われた気がして、俺はさらに強く、愛しいロゼリッタを腕の中に閉じ込めた。
「…もっと早く迎えに行けば良かった。君の困窮に気づけなかった自分を、心から後悔している」
俺の独白を聞き終えると、ロゼリッタはゆるゆると首を横に振り、涙に濡れる睫毛を伏せながら、また俺の胸へと顔を埋めた。
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