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毎日夜9時更新です。
話途中で、三人称視点からヒロイン視点に変わります。
祭りの余韻に浸る間もなく、ロゼリッタは晩餐のための支度を始めていた。
衣装部屋で彼女が選ぼうとしたのは、意外にも、以前着せられたような大人びた真紅のドレスだった。
「……ロゼリッタ様、それは少し重すぎませんか?」
「でも……あの方は、こういうのがお好きかと思って。うろ覚えだけど、最初の晩餐の時、この色が似合っていると言ってくださったから……」
その言葉に、サラは脳裏を真っ白な閃光が貫いたかのような衝撃を受けた。
(……嘘でしょう? あの野蛮で、的外れも甚だしい閣下を、この天使のような方が意識してらっしゃるの!?)
それは臣下一同にとって、天地がひっくり返るほどの嬉しい誤算だった。主君が嫌われることはあっても、まさか好かれるとは微塵も思っていなかったのだ。
サラはあえて、淡い桃色のドレスを取り出した。白く軽やかなチュールが幾重にも重なる、サラ一押しの逸品だ。
「閣下なら、ロゼリッタ様がお召しになれば何でも『美しい』と仰いますわ。今日はこちらにしましょう」
ロゼリッタは少し照れながらも、「お化粧は、少しだけ大人っぽくしてほしい」と控えめにねだった。背伸びをしたい彼女のいじらしさに、サラの顔は終始緩みっぱなしだった。
晩餐の席に着くや否や、ヴィオレルは熱に浮かされたように呟いた。
「……とても、美しい。君は春の女神だ。何故、そんなに可愛いのだ」
真っ直ぐな称賛に、ロゼリッタは耳の付け根まで赤く染まった。
意外にも、兄のレナードもその言葉には頷いた。
「卿、その点については同意いたします。我が妹は世界一ですから」
ロゼリッタを愛でるという一点において、二人の男は奇妙な連帯感を見せていた。何本もワインが開けられ、兄は妹の幼い頃の自慢話を披露し、ヴィオレルは一言も漏らすまいとそれに聞き入っている。
二人の熱量に耐えきれなくなったロゼリッタは、手元にあったワインを勢い余って自ら一口煽ってしまった。
〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜⭐︎〜
……気がつくと、私は柔らかなベッドの上にいた。朝の日差しが窓から爽やかに差し込む。
ワインを一口飲んだところまでは覚えている。けれど、そこから先の記憶が、霧に包まれたようにすっぽりと抜け落ちていた。
きちんと夜着に着替えさせられ、お化粧も落とされているけれど、一体どうやって部屋まで戻ったのかしら。
ぼんやりと天井を見上げていると。
「ワン!!!」
――えっ?
今、聞き覚えのある声が聞こえたような……。
私は慌てて夜着の上にローブを羽織り、恐る恐る寝室の扉を開けた。その瞬間、足元に白くて小さな「もふもふ」が飛び込んできた。
「きゃっ……!」
勢いに負けて尻餅をつくと、目の前には昨日お別れしたはずの、あの子犬がいた。子犬は私の顔をペロペロと舐め、私はくすぐったさに声を上げて笑ってしまう。
「ああ、ロゼリッタ様! 申し訳ありません、すぐ捕まえますから!」
慌てて駆け寄ってきたサラが子犬を抱き上げ、その背後からヴィオレル様が姿を現した。
はだけた私の夜着に、ヴィオレル様は一瞬で顔を真っ赤にした。
「す、すまない! つい……」
彼は狼狽えながらも、床に座り込む私の手を取り、抱き起こしてくれた。
「違うんだ……っ、君が子犬を欲しがっていたと聞き齧ったものだから……」
(もしかして、ヴィオレル様があの子を連れてきてくれたの?)
私は、胸の奥がいっぱいになる。
繋がれた手のひらから伝わる彼の体温。私は立ち上がるなり、ヴィオレル様の広い胸に顔を埋め、力いっぱい彼を抱きしめた。
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