Menu 73 ~ プリン ア・ラ・モード ~
15時
「こんにちは、タクトくん。」
店の扉が開き、グウェルとヨハン、コレットとセレスが入ってきた。
「おっ!いらっしゃい、お揃いで。」
「「いらっしゃいませ!」」
クロエとアルが、4人をカウンター席へと案内する。
「タクトくん。もうすぐ秋の大市の日なのですが……また、お願いをしても良いですか?」
「打ち上げですね?もちろんです!また、料理を用意しておきますよ。」
「「打ち上げ?」」
俺とグウェルの会話を聞き返すように、ヨハンとアルが首を傾げる。
「そっか。アルは春の大市の後で知り合ったんだったな。」
「うん。大市には買い物ついでに見に来ていたんだけど、その時はそれっきりで、タクトさんのお店に来たのは別の時だったもんね。」
「アル。あのね、大市の後……」
グウェルがヨハン達に説明をする隣で、クロエが俺に代わってアルに大市の後の打ち上げの説明をする。
「へぇ!そんなことしていたんだね。」
「悪いな、アル。初参加が手伝い側になっちまって。」
「そんな!全然気にしてないよ!料理を提供する側でも食べる側でも、いつもの皆と会えることに変わりないからね。」
「良い子ね、アル。」
アルの頭を優しく撫でるクロエのこと横目に、俺はグウェルに話しかける。
「春から今にかけて、アルやヨハンさん達みたいに新しいお客さんも増えましたし、今回も賑やかになりそうですね。」
「はっはっは!そうですね。」
「こんにちは~」
店の扉が開き、テレサと孤児院の子ども達、教員の先生達が来店した。
「いらっしゃいませ!お待ちしておりました。」
「うふふ。またお世話になりますね、クロエさん。」
「おや?あれは……」
「タクトくん。あの子達は一体……?」
「そっか。グウェルさん達は初めて一緒になるんでしたっけ。ウチの店では時々、孤児院の子ども達におやつや料理を提供しているんです。あの女の人達は孤児院の職員……って言えば良いのかな?引率の方々です。」
「ほぅ!話には聞いていましたが、あの子達が……」
「コレットと歳の近い子達も居るな……どうしてそうなったかは知らんが、気の毒にな。」
「おじい様。あの子達とお話しても?」
「もちろんだとも!迷惑にならないようにな。」
「はい!」
「よしっ!それじゃあ、早速始めようか。」
「タクトさん。本日は何を提供してくれるのですか?」
「今日提供するのは、プリンです。」
「まぁ!プリン!作り方は以前、簡単に聞いていたけれど、いよいよ作るところが見られるのね!」
俺の記憶が正しければ、この中で唯一、プリンを食べたことがあるクロエのテンションが上がった。
「とはいえ、難しいことは何も無いんだけどな。まずは卵と温めた牛乳、砂糖を混ぜ合わせて卵液を作る。ちなみにこれで、ミルクセーキという飲み物になる。」
セレスとテレサ、引率の先生達に説明しながら実際に作っていく。
「まぁ!とっても簡単なのですね!」
「量が必要ですが、砂糖の量を控えめにしたら、朝食の時間に子ども達に出してあげられますね。」
「そうですね。お嬢様のおやつの時間にも……」
「それで、この卵液を熱を加えても壊れない金属の容器に注いでいく。」
「あれ?ねぇ、タクトさん。この容器の底に何か茶色いのが入っているけど……これ、何?」
「あぁ。これはカラメルっていって、砂糖水をわざと焦がした物だよ。まぁ、これがどうなるかはすぐに判るから。あっ!卵液を注いだ時、フォークでも何でも良いから、この注いだ時に出た泡を徹底的に潰すこと。」
「タクトくんがそう言う時は、ちゃんと意味があるのですよね。」
「はい。この泡を潰しておかないと、この後する過程を終えたとき、完成した物が穴だらけであんまり良い物にならないんです。」
「なるほど。私はまだ、プリンという物を見たことが無いのですが、食べ物を出す店のタクトくんがそう言うのなら、それは失敗になるのですね。」
俺とグウェルの何気ない会話の内容も、セレスと引率の先生達が手帳にメモしていく。
「容器に注いだ後、蒸し器に入れて……そうだな、だいたい20分から30分蒸して……」
「「「「「蒸す?」」」」」
今まで蒸し料理を見学したことのないクロエとグウェル以外が声を揃えて聞き返す。
「あっ、えっと……湯を沸かした時に発生する蒸気で食べ物に熱を加える調理法です。今日、皆が帰る時にセレスと孤児院に1個ずつ、この蒸し器を差し上げますよ。」
「「ありがとうございます!」」
「で、蒸し上がった物を冷やし固めればプリンの完成なんだけど……今から30分以上も時間をかけていると、子ども達が退屈してしまうので……事前にテレサや孤児院の皆さんの分は作ってあります。グウェルさん達の分はスキルで出現しますね。」
俺は冷蔵庫で冷やし固めておいたプリンを取り出し、【 創造 】のスキルでプリンを4個出現させる。
「ほう!これがプリンという菓子か。なるほど、容器から出した際に、焦がした砂糖水が上にくるのだな。」
「うふふ。プルプルと揺れ動いて、少し可愛いですね。」
「さて!ここからは、子ども達に頑張ってもらおうか。」
俺は再び【 創造 】のスキルを発動させ、カットした様々な果物、蜜柑のシロップ漬け、長方形の焼き菓子、生クリームが入った絞り袋を出現させる。
「今出した果物や生クリームで好きなようにプリンの周りを盛り付けて……はい!プリン ア・ラ・モードの完成だ。皆も喧嘩しないで、自分だけのプリン ア・ラ・モードを作って食べてくれ。」
「「「は~い!」」」
「ほら、コレットちゃんも。好きなように盛り付けると良い。順番を守ってな。」
「はい!」
「タクトくん。プリンはあのお菓子のことだというのは解りましたが、『 アラモード 』というのは、どういう意味なのですか?」
「少しややこしくなるんですが、俺が以前居た世界で、俺が住んでいた国とは違う……異国の言葉で『 流行の 』とか『 最新の 』って意味なんだそうです。おそらく、俺が産まれるよりも以前にこのお菓子が母国で広まった時、この形が最先端な物だったんでしょう。」
「なるほど。確かに、見た目も華やかで、時代を先取りしている感じはしますね。」
グウェルと話している間に、盛り付けを終えた子ども達が食べ始めたのだろう。
「甘い!」「美味しい!」といった好評の言葉が聞こえてきた。
「さぁ、次は大人の皆さんの番です。必要であれば追加で果物やクリームを出しますので、好きなように飾って食べてください。」
「はっはっは!では、厨房にお邪魔させてもらいましょうか。ヨハン。」
「うむ!失礼するぞ、タクトくん!」
「グウェルさん、ヨハンさん!こっちから厨房に入れるよ。」
「ありがとうございます、アルさん。」
アルに案内されて、グウェルとヨハンが厨房に入って来て、テレサやセレス、引率の先生達と一緒に
プリンを盛り付け始める。
「むぅ!やはり、本職のセレスのように、綺麗にクリームは絞り出せんが……はっはっは!良い!これもまた一興だ!」
「こういうのは慣れでございます、大旦那様。よろしければ、今度一緒にお菓子を作りませんか?僭越ながら、教えて差し上げますので。」
「ふむ!そうだな。息子夫婦には驚かれるかもしれんが……それも面白いかもしれんな!」
「テレサさんも、皆さんも、お上手ですね。とっても美味しそうです。」
「ありがとうございます。グウェルさんのアラモードも、美味しそうですよ。」
「はっはっは!私のは、皆さんのを見様見真似しただけですよ。」
「皆、楽しんでもらえているみたいね。」
「あぁ。安心した。2人の分はさっき作って、今冷やし固めているのを、夕食のデザートに……ってことで。」
「やったぁ!」
「えぇ。楽しみにしておくわ。」
クロエとアルと話をしていると、大人陣も盛り付けを終えたのか、プリン ア・ラ・モードを食べ始めたようだ。
「ほぅ……とっても、上品で優しい甘さですね。」
「卵と牛の乳の優しい甘さ……タクトさんが出してくださるお菓子は、本当にどれも美味しいですね!」
「そうだな。実を言うと、儂は菓子という物はどれも砂糖をこれでもか!と、ふんだんに使い、くどい甘さの物ばかりだと思い、苦手だった……のだが!タクトくんのお店で出してもらった物のおかげで、その考えは払拭できそうだ!このプリンも、優しい甘さで実に美味いな!どら焼きと同じくらい気に入った!」
「今はまだ、卵と牛の乳の値段を考慮して頻繁にという訳にはいきませんが……それでも、定期的にお嬢様に作って差し上げたいですね。」
「そうですね。あの子達も喜んでいますし、私達もセレスさんと同じ考えです。」
その後も各々談笑しながらも、全員プリン ア・ラ・モードを完食した。
「ふぅ……ご馳走様でした。それで、あの、タクトさん。お代の方なのですが……」
「ん?あぁ。テレサの都合がつく時で構わないよ。催促したりしないからさ。」
「ありがとうございます。」
「クロエさん。私達の分の支払いをお願いできますか?」
「はい!えっと、プリン ア・ラ・モード1皿が銅貨8枚なので、4皿で銀貨3枚と銅貨2枚です。」
「悪いな。見た目や手間のことを考えて、他のお菓子よりも少し値段が張ってるんだ。」
「いえいえ、そんな!それでも1皿の値段が銀貨に到達していないのですから。ヨハン、ここは私が。」
「すまんな。いずれ何か、別の形で返そう。」
「……はい!確かに丁度、いただきました。」
「あっ、そうだ。テレサ。」
「はい。何ですか?タクトさん。」
「今回の大市の後も打ち上げをするんだけどさ、もし良かったら、あの子達も連れて来てやってくれないかな?」
「えっ!?よろしいのですか?」
「構わないよな?グウェルさん。」
「もちろんです。大勢の方が賑やかになりますからね。」
「儂の孫娘のコレットも、すっかりあの子達と仲良くなっておるからのぅ。儂からも、是非とも頼む。」
「むしろ、前回は知り合えなかったばっかりに、参加させてあげられなくて申し訳無いって思ってるくらいだ。」
「皆さん……ありがとうございます!はい!必ず、全員で参加させていただきますね。」
「さて、皆。タクトさん達にお礼を言って帰りますよ。」
「「「「「ありがとうございました!ごちそう様でした!」」」」」
「おう!またな。」
「えぇ。また遊びに来てね。」
「待ってるねー!」
テレサ達の退店を見送った後、しばし休息モードになる。
「はっはっは!やはり、子どもというのは可愛いな。」
「そうですね。タクトくん、あの子達のためにも、そして……あまり考えたくはありませんが、今後何かしらの原因で孤児院に増えてしまった子ども達のためにも、この子ども食堂、頑張って続けてくださいね。」
「はい。俺が年老いて、フライパンや包丁が持てなくなるその時まで、頑張って続けますよ。」
せっかく子ども達にできた楽しみを奪う真似なんてしたくないからな。
この店を続けているうちは、いつでも受け入れてあげられるようにしておこう。




