Menu 74 ~ チキン南蛮 ~
11時30分
「お待たせしました!ロイドさん。焼肉弁当2個、ハンバーグ弁当が3個、唐揚げ弁当が4個です!」
「ありがとう、アルさん。はい。これ、御代金。」
「……はい!銀貨6枚と銅貨5枚、ちょうど頂きますね!」
「よぅ、ロイドさん。いつも、唐揚げ弁当を5個注文してくれるのに……どうしたんだ?職人さんが1人、辞めたのか?」
「あぁ、違うんだ。実は……」
◇◇◇
アリアータ・鍛冶屋
「っっっかぁぁぁぁ!うめぇ!うめぇなぁ!この唐揚げって料理!まさか、俺が知らん間に、こんなに美味い鶏肉を使った料理を提供してくれる店ができていたとは……おぅ!ロイド!」
「何ですか?親方。」
「今まで黙っていたことは不問にしてやるからよぉ、俺もこの唐揚げを売ってくれている店に連れて行ってくれよぉ。」
「良いですよ。それじゃあ、今晩にでも……」
「あら?『 ガイエン 』さん。本日はこの後、隣町の商業ギルドで行われる会合に出席するため、出発するのでは?あちらで晩餐もあると聞いていますが……帰りも明日の夜になると……」
「あぁ~……ソニアちゃん、代わりに出てくれねえかな?元・水軍都督だったんだし、大丈夫!大丈夫!」
「だ~め~で~す!会合にはギルドマスターが出るという規則なのですから!タクトさんのお店は、いつでも行けるんですから!」
「そもそも!この町にも商業ギルドがあるのに、何でわざわざ隣町にまで行かねえといけないんだって話だよなぁ?ロイド。」
「仕方ありませんよ。今回はそういう決まりなのですから。戻ってきたら、ちゃんと案内しますんで、行ってきてください、親方。」
「約束だぞ!?絶対だからな!しゃあねえ……んじゃ、ムサい連中の面を拝みに行くとすっか……」
◇◇◇
「ということが、昨日の昼食の時にあって……」
「ははっ、ソニアの奴も大変だな。」
「そういうわけで、今晩、親方と一緒にお邪魔することになると思うから、その時は頼むよ。」
「おぅ!親方さんの期待に応えられるよう、頑張るよ。」
***
20時
店の扉が開き、ロイドが初見の男性と共に来店した。
漫画で見るような、絵に描いたような筋骨隆々の巨躯な男性で、髪の色と同じ黒い顎髭を生やし、
右目には眼帯を付けている。
「「いらっしゃいませ!ようこそ、レストラン・タクトへ!」」
「おぅ!久しぶりだな、クロエちゃん。そうか……衛兵を辞めた話は聞いていたが、この店に居たんだな!」
「御無沙汰してます、ガイエンさん。あら?今日はソニアは?」
「何か、ソニアのお母さんが重い物を持って腰をやったっていう報せが、今日の午後ウチで働いている彼女の処に届いてね。様子見のために戻っているんだよ。」
「そうだったの。大事じゃなければいいけど……」
「あの、クロエさん。親方はこの店を利用するのは初めてだから、タクトさんに紹介したいんだけど……カウンター席を使わせてもらって、いいかな?」
「もちろんです。どうぞ、こちらへ。」
クロエの案内で、ロイドとガイエンと呼ばれていた男性がカウンター席に腰を下ろす。
「タクトさん。こちらが昼間話した、僕達アリアータの鍛冶ギルドのギルドマスターであるガイエンです。親方、彼がこの店の料理人のタクトさんです。」
「はじめまして。」
「ほぅ……君が……がっはっは!まだ若いのに、大したもんだ!」
「ロイドさん、ガイエンさん、どうぞ!お水とおしぼり、それとメニューです!」
「ありがとう、アルさん。」
「え?あ~……アルさん、だったか?俺達、水の注文なんてしていないんだが……」
「え?あっ!このお水とおしぼりはサービスなんです!お代わりも無料なので、いつでも言ってくださいね!」
「何だと……?確かに、このアリアータは水が豊富ではあるが……飲み水を無料提供してくれたのは、この店が初めてだ。」
「さてと……親方。どの料理にします?いろいろありますよ。」
「うぉおお!?何だこりゃ!?どれも見たことが無いぞ!いやぁ、迷うなぁ……」
「ガイエンさん。何か食べたい物があるのでしたら、タクトさんに言っていただければ、作っていただけますよ。」
「ほぅ、そうか。じゃあな、タクトくん。君が作る唐揚げは美味い。実に美味い!俺はアレがとても気に入った!あの鶏は良いな。卵を採るためじゃなく、食肉用に育てられた鶏なのだろうな。」
「ははっ、ありがとうございます。」
「で……だ。ここで唐揚げを頼むのも良いが、それだと普段の昼飯と変わらねえ。そこで、タクトくん!あの鶏の唐揚げをもう1段階美味くした物があれば、そいつを頼みたい。お願いできるか?」
「唐揚げをもう1段階……はいよっ!」
「え?タクトさん、大丈夫?唐揚げって、あれで完成形じゃないの?」
「あぁ。それじゃあ、料理を作る前に……ガイエンさん。試食ってことで……この3つを試してみてくれますか?」」
俺は【 創造 】のスキルを発動し、3種類の唐揚げを出現させる。
「ロイドさんも、クロエもアルも、是非試してくれ。」
「えぇ。わかったわ。」
「それで、タクトさん。これ……何がどう違うの?ボクにはどれも同じに見えるんだけど……」
「それじゃあ、まずはこの皿の唐揚げを食べてみてくれ。」
俺が差し出した皿に乗っている唐揚げに4人がフォークを刺して、1個ずつ口へと運ぶ。
「はふっ……んっ!これはいつも、タクトさんが出している唐揚げね。安定して美味しいわ。」
「うん!美味しいー!」
「これはいつもロイドに頼んで買って来てもらっている唐揚げだな。うん、美味い!美味い!」
「タクトさん。真ん中のこれは?食べてみてもいいかい?」
「おう、もちろん。」
4人は続いて、真ん中の皿に乗せていた料理にフォークを刺し、口へと運んだ。
「んっ……!これ、凄いね!いつもの唐揚げより、衣がザックザクだよ!」
「えぇ。お肉そのものの味付けは、さっき食べた唐揚げと一緒だけど、アルの言う通り、衣が随分違うわね。タクトさん、これは?」
「竜田揚げっていってな、ジャガイモとかに含まれるデンプンって成分を乾かして粉にした片栗粉って粉を付けて揚げた物だよ。」
「ほぅ!衣が変わるだけで、こんなにも食感が変わるのか!がっはっは!これも美味いな!」
「それで最後のお皿の……ねぇ、タクトさん。他の物よりずっと大きいんだけど……唐揚げ……なのよね?」
「あぁ。最後のこれは、俺が住んでいた国の北方の地で作られる、ザンギっていって……まぁ、唐揚げなんだけどな。他の唐揚げよりも大きく切って、濃い味付けをした鶏肉を揚げた物だよ。」
「はふっ!んっ……もぐ……本当だ!他の唐揚げより、ずっと味が濃いね!」
「これは……うん!ニンニクが効いていて、美味しいね!」
「……なぁ、タクトくん。君の言い値で構わん!明日から、俺の弁当……このザンギにしてもらうことはできるか?この濃い味付け、気に入った!」
「え?えぇ、いいですよ。お代は……そうだな……銅貨8枚でどうです?」
「もちろん!それで構わんよ!」
「さて……今日、ガイエンさんに提供するのは、その唐揚げじゃなくて……この鶏腿肉1枚を、溶き卵と片栗粉に付けて……油で揚げる。」
「あら?唐揚げのように、鶏肉自体に味を付けないのね。」
「あぁ。味付けは今、この鍋で温めている甘酢で付けるからな。あっ、アル。冷蔵庫の中にタルタルソースが入ってるから、出しておいてくれるか?」
「うん!わかった!」
「…………で、揚がった鶏肉を……もう一度、さっきより高温の油でさっと揚げる。」
「ん?タクトくん、どうした?揚げ足りなかったのか?」
「え?あぁ、いや、これは二度揚げって調理法なんです。豚や鶏のを揚げ物を作る時は、こうすることで美味しくなるんですよ。」
「ほぅ!そういう技法があるのか。」
「そんで、二度揚げしたコイツを食べやすい大きさに切って、皿に盛りつけてから甘酢とタルタルソースをかけて……千切りにした唐辛子を乗せたら、チキン南蛮、おまちどぉ!」
俺はできあがったチキン南蛮をガイエンの前に差し出す。
「おぉ!こいつぁ美味そうだ!」
「ふむ……タクトさん。僕も親方と同じ、チキン南蛮を貰えるかな?」
「了解!」
「それじゃあ……早速いただくとするか。」
そう言いながらガイエンはフォークでチキン南蛮を1切れ刺し、口へと運ぶ。
「はふっ、ざく……もぐ……もぐ……んっ!おおっ!こいつぁ凄い!鶏肉の旨味と甘酢の甘酸っぱさ、タルタルソースっていうヤツの卵のまろやかさ、んで、唐辛子のピリッとした辛さが合わさって……すげぇ美味いな!このチキン南蛮っていう料理!」
「ガイエンさん。付け合わせはパンとご飯、どっちにします?」
「そうだな……パンも合うだろうが、この鶏肉料理にはご飯だろうな!タクトくん、ご飯をくれ!大盛りでな!」
「あいよっ!」
俺は皿にライスを盛り付け、ガイエンに提供する。
「でも、作り方は簡単だよね。ボクでも作れそうだよ。」
「鶏肉に衣を付けて揚げるだけだからな。油に気を付けて、揚げるタイミングを間違わなければ、問題無く作れると思うぞ。」
「ふぅむ……世間では未だに廃鶏しか出回っておらんからな。鍛冶屋の親父を引退したら、次は養鶏に手を出すのも、有りかもしれねえなぁ。」
「畑違いの職ですが、良いと思いますよ、親方。」
「がっはっは!まぁ……まだまだ現役だから、鍛冶屋を辞めるつもりは無えし、養鶏を始めるなら始めるで、勉強もしないといけないけどな。いずれ、そん時がきたら……ロイド。店を頼むぜ。」
「もちろんです。店の看板に泥を塗るような真似はしませんよ。」
「こんばんは~。」
店の扉が開き、ユリアが入ってきた。
「いらっしゃいませ!ユリアさん。」
「こんばんは、アルさん。あら?タクトさんのお店でガイエンさんを見るのは、初めてですね。何を食べてるんですか?」
アルに案内され、ユリアがガイエンの隣の席に座る。
「ん?あぁ、ユリアちゃんか。こいつぁチキン南蛮っていう、凄く美味い料理だ。」
「チキン……って、確か、鶏肉の事でしたよね?え……?美味しいんですか?鶏肉が?」
「どうやら、ユリアちゃんは不味い廃鶏した食ったことがねえみたいだな……ほれ。騙されたと思って、一切れ食ってみな。」
「え?えぇ……では……」
ユリアはチキン南蛮の端の小さな一切れをフォークに刺し、口へと運んだ。
「はむ……もぐ……んっ!?んんっ!何ですか、このお肉!噛んだら、溢れんばかりの肉汁が滲み出てきて……これが、鶏肉なんですか!?」
「タクトさんがスキルで出す鶏肉は、食用に育てられた鶏だそうだから。私達が食べていた鶏とは、まったくの別物よ。」
「そうなのですね……タクトさん!私にも、ガイエンさんとロイドさんが食べている物と、同じ物をください!」
「了解!」
「ふぅ……食った!食った!ごちそう様だ、タクトくん!さてと……ロイドが食い終わる前に、会計を済ませておくかな。幾らだい?」
「チキン南蛮1皿で、銅貨9枚頂きますが……問題無いですか?」
「おうよ!あの美味さで銀貨1枚にいかないってのは、随分と良心的だなぁ。うっし!次に来るときは、腹を空かせておいて、2皿食うぞ!」
「すっかり、気に入ったみたいですね。親方。」
「あぁ!初めて唐揚げ弁当を食った時から、気になってはいたんだけどな。もっと早く、お前にタクトくんのこの店の場所を聞いておけば良かったぜ!」
「ははっ、ありがとうございます。あっ、そうだ。ロイドさん。」
「ん?何だい?」
「秋の大市が終わった後も、常連さんが集まって打ち上げをするからさ。ソニアにも伝えておいてくれ。」
「あぁ、うん。わかった。ちゃんと伝えるよ。」
「ガイエンさんも、ユリアも是非とも参加してくれ。」
「ん?俺も良いのかい?今日、この店を利用したばかりなんだぜ?」
「春の大市の後、ソニア先輩の姿が見えなかったと思えば、そのようなことをされていたのですね。私も、参加しても良いんですか?」
「おう!他にもいろんな人が来る……予定だから、交流の場にして欲しい。」
「そう言う事なら!有難く、御呼ばれになるよ!期待しているからな、タクトくん!」
「ありがとうございます!必ず、参加させていただきますね。」
今……ウチの店を利用してくれて、俺が常連と認識しているのは何人だろう?
何にせよ、秋の大市の後の打ち上げは、かなり盛り上がりそうだ。




