Menu 72 ~ 炒飯 ~
11時
「あっ、なぁ、クロエ。」
「何?タクトさん。」
「秋の大市でも店を出すのなら、出店届をまた出さないといけないよな?」
「え?あぁ。あれは露店やタクトさんが使っていたような屋台みたいに、店舗を構えていない人達に提出してもらっている物なの。タクトさんは商人ギルドでこの土地を購入して、このお店を出したでしょ?だから、あのスクロールはもう提出しなくても大丈夫よ。」
「そっか。店を構えておいて正解だったな。」
「……あっ!タクトさん。ゲンシュウさんが来たよ。」
アルがそう言ったと同時に店の扉が開き、ゲンシュウが入ってきた。
「いらっしゃい、ゲンシュウ。」
「「いらっしゃいませ、ゲンシュウさん。」」
「うむ。皆、また世話になるぞ。」
ゲンシュウがそう言いながら、カウンター席に座る。
「どうぞ、ゲンシュウさん。お水とおしぼりです。」
「かたじけない、アル殿。ところで、タクト殿。」
「ん?何だ?」
「この町の大通りに大勢の人が集まっていたのだが……何かあるのか?」
「え?あっ、そうか。ゲンシュウは大市初体験なのか。」
「大市?」
「ゲンシュウさん。このアリアータでは春と秋の2回、前夜祭と本番の大市という2日間のお祭りが開催されるのです。」
クロエがゲンシュウに大市について説明する。
「ほう!祭りの日が近いのか。」
「大市っていうくらいだからな。祭りが始まる何週間も前から商人達が、大陸内外から逸品を集めまくってるんだってさ。」
「その商品を買いに、沢山の人が来るからね。そういった人達をお出迎えする宿屋やレストランの人達も、新しいメニュー作りを頑張ってるんだって!」
「ふむ……1度くらいは、他店で食事してみるのも有りか……だが!今はタクト殿が提供してくれる美味い飯が食いたい。何か出してくれぬか?」
「あいよ!どうする?何か食べたい物は?」
「そうだな……」
「タクトさん、クロエさん、こんにちはー!」
店の扉が開き、アンネリーが入ってきた。
「あら、アンネリー。いらっしゃい。」
「ん?おっ!久しぶりだな、アンネリー。」
「いらっしゃいませ!アンネリーさん。」
「あら?アルさんもタクトさんのお店で働いているのですか?それに、初めての方も居られますね!」
「あぁ。彼はゲンシュウ。海の向こうのショウカ大陸から来た武士……えっと、戦士の方だよ。ゲンシュウ、彼女はアンネリー。行商人だ。」
「ほぅ。行商人……ということは、此度の大市にも?」
「もちろんです!そのために、戦力を増やしてきたのですから!」
「そういえば、お料理ができる子を探してたのよね?戻ってきたということは、良い子が見つかったの?」
「はい!……って、あれ?一緒に来たのですが……ちょっと失礼しますね。」
そう言ってアンネリーが退店して、外から声が聞こえてくる。
「どうしたんですか?せっかく皆さんに紹介しようと思ったのに。」
「あっ、ごめんなさい。この飾り物が……よくできてるなぁって。」
「あぁ、確かに。では、この料理を作ってくれる店主さんに、挨拶に行きますよ。」
「はぁい。」
そして再び店の扉が開き、アンネリーが女の子を連れて入ってきた。
アンネリーと同じ、町娘風の服を着た純白の長髪の女の子で、頭の上に兎の耳が生えている。
「お待たせしました!皆さん、紹介します。料理も馭者もできるウチの期待の新人、『 マーレ 』です。」
「初めまして。マーレです!よろしくお願いしますね。」
「おう、よろしくな。」
「どうぞ、アンネリー、マーレ。」
クロエに促され、アンネリーがゲンシュウの隣の席に、その隣にマーレが腰掛ける。
「おお~……綺麗な厨房ですね!」
「それで、ゲンシュウさん!タクトさんに何を注文されたのですか?」
「いや、それがまだ頼んでおらんのだ。御品書きに描かれている料理はどれも美味そうで……だが、やはり、米を使った物かのぅ。」
「おコメ?」
「いいですね!私も久しぶりに食べたいです!タクトさん!おコメを使った物をお願いします!」
「タクト殿、拙者にも頼む!」
「わっ、私も!お願いします!」
「あいよっ!」
俺は【 創造 】のスキルを発動させ、必要な材料を人数分出現させる。
「あら?ねぇ、タクトさん。このおコメ、既に完成された物よね?どんぶりの下に敷いてある……」
「あぁ。今回は生のお米じゃなくて、炊いた物を使うんだ。けど、その前に……チャーシュー……煮豚とネギを、可能な限り米の粒と同じ大きさになるように切る。」
その場に居る皆の視線が注がれる中、俺はチャーシューとネギを切っていく。
「次に油を敷いて熱した中華鍋に溶いた卵を入れて、小さな粒を作る感じで炒めて……卵が固まりきる前にご飯を投入して、オタマや木ベラなんかを使って切るように炒める。」
「ほぅ……拙者も、米は炊いて食すものだとばかり思っていたが、このような調理法もあるのだな。」
「面倒なら、最初に卵とご飯を混ぜてから投入して炒める方法もあるんだ。んで、ここにチャーシューとネギを入れて、塩、胡椒、醤油で味付けをして…………このコンロならできるか。ほっ!」
俺は全員が見ている前で、中華料理の専門店で見るような鍋返しを披露する。
「わっ!わっ!凄い、凄い!おコメが宙を舞ってるよ!」
「タクトさん。その行動にも意味があるの?」
「あぁ。この炎が噴き出すような感じのコンロでしかできないんだけどな。鍋から放り上げられたご飯が空中で炎の上を通り抜ける。これで、ご飯が炎に直に炙られるんだ。」
「それじゃあ、このコンロでないと、作れないのね。」
「普段使っている鉄の板を熱して使うタイプのコンロでも作れるのは、作れるけど、ここまでの火力はでないからな。あっちのコンロで同じような事をすると、逆に鍋の温度が下がって食材がくっついてしまうんだよ。だから、あっちのコンロで作る時は鍋をあんまり浮かさないで、前後に揺するように混ぜるだけで良いよ。」
「なるほど。最初に練習をするのなら、あちらのコンロというわけね。」
「マーレ、マーレ。タクトさんと同じこと、できますか?」
「無茶な事言わないでくださいよ、アンネリー。できませんよ、あんなこと……」
「…………よしっ!お待たせ。炒飯、できたぞ!」
俺は炒飯をオタマで皿に盛りつけ、カウンター席に座る3人に提供する。
「ほぅ!では、有難く……いただきます。」
「「いただきます!」」
3人は皿に添えておいたレンゲを手に取り、炒飯を掬って口の中へと運んだ。
「はふっ……もぐ……もぐ……おっ、美味しいです!おコメという物を初めて食べましたが、こんなに美味しいのですね!」
「本当に!私もカレーライスや柿の葉寿司のときに頂いたのですが、これも美味しいですね!」
「うむ!それにしても……拙者もそれなりに、米を食ってきたが……このようにパラパラと崩れるような米は初めてだな。タクト殿、これも調理法によるものなのか?」
「あぁ。さっき、鍋を振った時に米が宙に舞って、炎に直に炙られていただろ?あれで余分な油が飛んで、ご飯が香ばしくなるんだよ。」
「あの行為か。なるほど……うむ。美味い!美味い!微かな醤油の香りが更に食欲を促進させるな!食べる手が止まらんぞ、これは!」
「ははっ、気に入ってもらえたみたいで良かったよ。クロエ、アル。今日の賄いは炒飯で良いか?」
「うん!皆が食べてるのを見てたら、ボクも食べたくなっちゃったよ。」
「えぇ。ん~……作り方も特に難しくはないから、私でも作れそうだけど……今日はまだ、見て覚えることに専念するわ。だから、お願い。タクトさん。」
「おぅ!すぐ作るよ。」
2人の賄いを作る前で、3人は炒飯を完食した。
「ふぅ……此度も馳走になった。ご馳走様。クロエ殿、勘定を頼む。」
「はい。えっと……チャーハン1皿で銅貨8枚です。」
「え?え?こんなに美味しい料理が……銅貨8枚!?私は夢でも見ているのかしら?アンネリー。」
「大丈夫、現実ですよ~。むしろ、タクトさんのお店で銀貨を超えるお料理の方が珍しいですよ。」
「そ、そうなのですね……」
「では、クロエ殿。これで頼む。」
「えぇ。わかったわ。」
「むむっ……!ゲンシュウさん!あの!絶対に盗んだりしないので、貴方のお財布の中を見せてくれませんか!?」
「ん?あぁ。こちらの方々には拙者の国の銭が珍しいのだったな。もちろん、構わぬよ。」
ゲンシュウが財布の中から硬貨を取り出し、アンネリーに見せる。
「ほうほう。これがショウカ大陸で使用されているお金なのですね。」
「私達、まだ海の外の人達と関わりを持っていませんでしたからね。今日、このお店でゲンシュウさんと出会ったのが、初めてです。」
「ですが、いずれ他の大陸……ショウカの方々とも交易することを考えれば……ゲンシュウさん!私達にこのお金の価値と、ショウカ大陸のことを教えてくれませんか!?」
「うむ、もちろん。タクト殿。すまぬが、奥の席を使わせてもらって構わぬか?店の営業の邪魔はせぬから。」
「ん?あぁ、もちろん。」
「ありがとうございます!あっ……アルさん。チャーハンの代金、マーレの分と合わせて銀貨と銅貨です。」
「えっと……はい!銀貨1枚と銅貨6枚、丁度いただきますね。」
「では、早速……ゲンシュウさん、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
「はっはっは。そう畏まらずとも良い。もっと楽にしてくれ。」
本日、ウチの店で新たな繋がりができた。
こういう繋がりが今後もできるように、場を提供していければ良いな。




