Menu 69 ~ ピザトースト ~
7時。
「…………」
「ん?どうした?クロエ。」
朝食の用意をしながら、カウンター席でメニューを見ていたクロエに声をかける。
「ねぇ、タクトさん。朝食の時間帯のメニューなんだけど、もっとパンの種類を増やせないかしら?」
「パンの種類を?」
「えぇ。それを、いつもお弁当を売っているあそこで売って、テラス席で食べてもらうの。」
「おぉ!何か良いな、それ…………良いのかな?いや、俺としては良いと思うんだけど、そんなことしたら、元々この町にあったパン屋さんから、営業妨害で訴えられたりしないか?」
「あぁ~……でも、ほら!タクトさんが売り出したら、他のパン屋さん達も頑張ると思うし……」
「えぇ。この町のパン屋さんは、黒パンと白パンしか置いてないし……大きさの種類はあるけど。」
以前から話は聞いていたけど、黒パンっていうのは、たぶんライ麦パンみたいな物かな?
んで、白パンっていうのが、食パンのことだと……
「え?パンの種類が豊富なんじゃなくて、パンの大きさの種類が豊富なのか?パン屋なのに?」
「えぇ。パン屋なのに。」
「うん。パン屋なのに。」
「ん~……以前から朝食の営業はしていたけど……今はあの受け渡し窓もあるし……よしっ!やってみようか。2人共、これから開店時間を30分早めるけど、大丈夫かな?」
「もちろん!大丈夫よ。」
「お客様のために、頑張ろうね!」
◇◇◇
8時30分
「さてと……」
「あら?タクトさん。何か作るの?」
「あぁ。ちょっと、朝飯を食べたりないって思ってな……」
俺は【 創造 】のスキルを発動し、材料を出現させる。
「玉ねぎ、ピーマンと腸詰……トマトソースとチーズ……タクトさん、これって、ピザの具材よね?ピザを作るの?」
「あぁ。このトースト用に厚く切った白パンにトマトソースを塗って、後はピザを作る時と同じことをして……オーブンで7分ほど焼く。」
「ねぇねぇ、タクトさん。ボク達の朝ごはんに出してくれるトーストもそうだけど、白パンを厚く切るのには、何か意味があるの?」
「普通に焼く分には薄く切っても、厚く切っても良いんだけどな。ただ、個人的な感覚なんだけど、今作ってるピザトーストみたいに上に何かを乗せたり、フレンチトーストみたいな調理をするなら白パンを厚く、サンドイッチみたいに何かを挟むような調理をするなら薄く切ったほうが、調理しやすいかな。」
「なるほど。」
「ピザの土台は、まだ上手く作れる自信が無いけれど……これなら……どの素材も、この世界で手に入る物だし、私達でも簡単に作れそうね。」
「あぁ。白パンにトマトソースを塗って、具材を乗せて焼くだけだからな。これは簡単にできると思うぞ。」
「ピザの……良い匂いがする……」
朝食を売るために開けていた窓の方から声がしたので、そちらに視線を向けると
シーナが顔を出していた。
「いらっしゃいませ!シーナさん。」
「おはよう、アル。今から、朝ご飯?」
「タクトさんがね。もう少し食べようかな……って。ピザトーストを作ってるんだよ。」
「ピザ……トースト?」
「実際に見てもらった方が早いな。ほら、シーナ。これがピザトーストだ。」
俺はたった今焼き上がったピザトーストを皿に置き、シーナに見せる。
「え?これ、凄い……トーストとピザが1つになってる……!」
「シーナさん。今朝からなんだけどね。朝の8時30分から11時まで、このピザトーストを含んだ、タクトさんのお店で売られているパンを使った料理や、卵料理を売り出すことになったんだ。お持ち帰りでも、そこのテラス席で食べてもらっても、どっちでも大丈夫だよ!」
「ちなみに、このピザトーストは銅貨6枚で売り出すつもりだ。」
「タクトさん。お金払うから、そのピザトースト……売ってください。あと、コーヒーも。」
「あいよ!」
「タクトさんがコーヒーを用意している間に……シーナさん。コーヒーは銅貨2枚だから、合計で銅貨8枚お願いします。」
「銅貨……銅貨……うん。はい、アル。」
シーナはアルに、銅貨を手渡した。
「……はい!確かに丁度、いただきます!」
「用意できたぜ、シーナ。そこのテラス席で食べていくんだよな?」
「うん。持ち帰って、クレスとセシルにバレたら……ちょっと厄介……」
「クレスさんとセシルさんは、まだ寝てるの?」
「先日受けたクエストが上手くいって……昨夜、宴会をして……今は酔い潰れてる。」
そういや、シーナはあんまりお酒を飲まないんだったな。
起きて、自炊するのが面倒で、此処に来た……って感じだろうか?
「そっか。とにかく……ほら、シーナ。ピザトーストとコーヒーだ。熱いから、気を付けてな。」
「うん。ありがとう、タクトさん。」
俺からピザトーストとコーヒーを受け取り、シーナがテラス席に腰を下ろす。
「ナイフとフォークが無い……から、ピザみたいに手掴み……だよね?いただきます。」
シーナはピザトーストを手に取り、そのままかぶり付いた。
「はふっ……熱っ……もぐ……んっ……美味しい!ピザの土台も良いけど、こっちのトーストも……食べ応えがあって……上の具材も、いつもと同じで凄く美味しい!ん~!チーズもよく伸びる……!」
「あら?シーナさん。何を食べてらっしゃるのですか?」
裏通りから歩いて来たテレサが、シーナに気付いて声をかけていた。
「んっ……おはようございます、テレサさん……これは、ピザトーストっていう料理です。タクトさんのお店で、朝の8時30分から11時まで、こういったパン料理と、卵料理を売ってくれるんだって……」
「まぁ!そうなのですね。では、私も……」
「おはようございます!テレサさん、シーナさん……あら?シーナさん……何を食べてらっしゃるのですか?」
大通りの方から……たぶん、警邏でこちらへ歩いて来たターニャが2人に声をかける。
「朝ごはんが進まない……2人共。お昼にお弁当を売ってるあそこに、アルが居るから……詳しい話は、アルから聞いて。」
「そうですね。アルさぁん。シーナさんから、朝ご飯を売ってくださると聞いたのですが。」
「私も!詰め所の食堂の朝食だけじゃ、少し物足りなくて……私にも売ってください!」
「はい!えっと……これがメニューです。」
アルはそう言いながら、朝食用に用意したメニューをテレサとターニャに見せた。
「まぁ!ホットドッグもあるのですね!アルさん、このホットドッグとコーヒーを頂けますか?」
「はい!」
「私は……どうしよう……どうしよう……クロエ先輩!何かオススメ、ありますか?」
「えっ!?私!?」
受付窓から呼ばれたクロエが、ビクッと身体を震わせる。
「えっと……そうね……タクトさん。私が初めて食べたパンを使った料理って、何か覚えてる?」
「待ってくれ、思い出す。えっと……確か……クレープは俺の中でおやつ扱いだから……フレンチトーストじゃなかったか?」
「あぁ!そう!そうよ!フレンチトースト!あの優しい甘さのトースト、凄く美味しかったわ!」
「ふむふむ……では、アルさん!私はフレンチトーストと、コーヒーをミルクと砂糖有りでお願いします!」
「わかりました!タクトさーん!」
「あいよー!」
「タクトさん。フレンチトーストの下準備は私が!」
「おぅ!ありがとう、クロエ。」
俺とクロエは、テレサとターニャが注文した料理とコーヒーを準備する。
「あははっ、なかなか食べられないね、タクトさん。」
「でもまぁ、やっぱり……俺の食事よりも、せっかく来てくれたお客さんを大事にしたいからなぁ……頑張るよ。」
「そっか。うん。タクトさんのそういうとこ、凄く好感が持てるよ。」
「ははっ、ありがとうな。」
「本日はホットドッグを注文させていただきましたが……シーナさんが食べてらっしゃる、ピザトーストも美味しそうですね。」
「料理ができるテレサなら……厚切りにした白パンに、トマトソースを塗って、玉ねぎとピーマン、ソーセージとかベーコンを乗せて、上からチーズをかけてからオーブンで7分ほど焼けば……あのピザトーストができるぞ。」
「まぁ!こちらの世界にある物で、あのピザトーストが作れるのですね!ですが……孤児院には、玉ねぎやピーマンが苦手な子が……神の御恵みなのですから、ちゃんと食べなさいと言っているのですが、あの玉ねぎの辛さや、ピーマンの苦みがどうしても……」
「なるほどな。」
「ピーマンは仕方ないのです。あれは食べられなくても、問題無いのです。」
「ターニャ……貴女……まぁ、あのオムライスだけでは克服できないと思っていたけど……」
「さてと……まずは、はい!テレサのホットドッグとコーヒーだ。」
俺はできあがった料理をアルに手渡す。
「お待たせしました、テレサさん。ホットドッグが銅貨6枚、コーヒーが銅貨2枚なので、合計8枚頂きます。」
「8枚ですね。」
「ム……?こんな朝早くから、タクト殿のお店に人が……もう、開店しているのか?」
大通りの方から歩いて来たゲボルグが、シーナ達の姿を見つけたのだろう。
足音を響かせてテラス席へと歩いて来た。
「シーナさん。相席よろしいですか?」
「もちろん。あ……おはよう、ゲボルグ。」
「おはようございます、ゲボルグさん。」
「あぁ。おはよう、シーナ殿、テレサ殿。ふむ……テレサ殿が持っている、それは……」
「ホットドッグというパンにキャベツと腸詰を挟んだ物です。美味しいですよ。」
「タクトさん達がね……今日から、午前8時30分から11時まで、朝ご飯として、パンを使った料理と、卵を使った料理を販売してくれるそうなの……」
「ほう!それはありがたいな。俺も久しぶりにインドサンドを注文させてもらおう!」
「私も……もう1枚、ピザトーストをお代わりさせてもらおうかな……」
その後、テラス席でシーナとテレサ、ターニャとゲボルグの4人が相席して
楽しそうに雑談をしながら、朝食を食べてくれていた。




