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Menu 67 ~ 焼肉弁当 ~

8時30分


「アルが従業員として増えてくれたので、店を少し増設したいと思います。」


そう言いながら俺は【 創造 】のスキルを使い、普通の2階建てだった店の両端に売り場を増設し

上から見たら『 (ぼこ) 』だったり、カタカナの『 コ 』の字の形になるようにした。


増設に伴い、元々あった店と新しく追加された売り場とを隔てる壁が自動的に消えたので

便利なスキルには感謝してもしきれない。


「あら?店の形が少し変わったわね。タクトさん、追加で増えたこの2つの売り場では、何をするつもりなの?」

「えっと、厨房側に増えたこっちの売り場では、弁当を売り出そうと思ってるんだ。」

「お弁当?サンドイッチを売るの?」

「それも有りだな。米を知らない人達には、パンを使ったサンドイッチの方が売れるだろうし……でも、メインで売ろうとしているのは、米とおかずが一緒になった物だよ。この売り場には、クロエとアルが交代で入って欲しいんだけど……お願いできるかな?」

「えぇ!もちろん!任せて、タクトさん。」

「うん!ボクも頑張るよ!」

「ありがとう、2人共。で、もう1つの方には、お土産用のお菓子なんかを置こうと思ってる。」

「あぁ。グウェルさんやヨハンさんがお持ち帰りを注文される、どら焼きを置くのね!」

「そうそう。でも、今のところ、どら焼きだけだからな……あっちはもう少し、売れそうな物が増えたら、内装を整えるとして、今は新しい試みである弁当の方に集中しようか。」

「「はいっ!」」


◇◇◇


11時30分


「うぅ……緊張してきた……」

「ははっ、さっき朝食を食べに来てくれたグウェルさんを除けば、ウェイトレス姿、初のお披露目だもんな。」

「うふふ。グウェルさんにも褒めていただけたんですもの。自信を持って頑張って、アル。」

「う、うん!」


「あれ!?タクトの店、何か形変わってね!?」


弁当売り場の窓は常に開けてあるので、外から常連の聞き慣れた声が、ハッキリと聞こえてくる。


「あっ!いらっしゃいませ!クレスさん。セシルさんに、シーナさんも。」

「アル!?そっか。アルもタクトの店で働くことになったんだな。」

「ふふっ、可愛いじゃないか。アル。」

「うん。似合ってる。可愛い。」

「えっ……えへへ……ありがとう。でも、ごめんね。狩人を引退しちゃったから、一緒にクエストを受けられなくなって……」

「ははっ!良いって、気にしなくても!どうやって生きるかは、アルの自由なんだからさ!」

「あぁ。それに、此処に来れば、タクトやクロエに加えてアルにも会えることが判ったからな。」

「このお店に来る楽しみが増えた。」

「うん!皆、本当にありがとう。」


「相変わらず、良い奴等だな。」

「えぇ。本当に。」


「それで?アル。この増えた売り場では、何を売ってるんだ?」

「あっ!ここでは、お弁当を売っているんだ。普通にお食事したい場合は、いつも通り、扉から入ってね。」

「弁当?というと、おにぎりやサンドイッチか?」

「それもあるよ。でも、タクトさんは新しく、3種類のお弁当を用意してくれたんだ。下のガラスケースに模型が入ってるよ。」

「本当……!見たことが無いお料理がある。」


クレス達の視線が、売り場の下のガラスケースに注がれる。


「おぉっ!この焼肉弁当っての、肉とご飯が1つの箱になってるのか!」

「なるほど。薄い木の板で箱の中を区切ってあって、そこにご飯とおかずが入っているんだな……あっ!ハンバーグもあるのか!しかも、パスタとポテトサラダまで入ってる!」

「唐揚げというのも、美味しそう……揚げ物とご飯と、こっちにもポテトサラダが入ってる。」


「よぅ、3人共。相変わらず賑やかだな。」

「おぅ!タクト!おもしれぇ試みを始めたな。」

「あぁ。午後からの仕事とかで、ゆっくり店で食事できないお客さん達のために、持ち帰り用でな。購入してくれたら、そこのテラス席で食べてもらっても良いし、クレス達の拠点に持ち帰ったり、好きにしてくれて良いぜ。」

「そうか。それは、助かる。シーナも最近【 収納 】のスキルを会得してくれたし……これで、あのハンバーガーや、この弁当の形を崩さず、品質を維持したままクエストに持って行けるな。」

「おぉ!そっか!おめでとう、シーナ。」

「うん。頑張った。」

「ちなみに、シーナ。その唐揚げは、鶏の腿肉を味付けして揚げた物だぜ。」

「鶏腿肉……!」

「決めた!今日はこの弁当を食いたい!タクト、アル!焼肉弁当を1つ頼む!」

「私にはこのハンバーグ弁当を。」

「唐揚げ弁当、お願い……!」

「あいよ!アル。俺はスキルで弁当を出すから、お金の受け取りを頼む。」

「うん!えっと、ハンバーグ弁当と唐揚げ弁当は銅貨7枚、焼肉弁当は銅貨8枚だよ。」

「相変わらず良心的だな。タクト、もう少し値上げしたって、誰も文句言わねえぞ?」

「そうかもしれないけど、ウチは別に高級料理店ってわけでもねぇからな。今までだって、それくらいの値段でやってきたし、今更変えるつもりは無いよ。」

「ふふっ。タクトなら、そう言うだろうと思っていた。ほら、アル。銅貨7枚だ。」

「私のも、受け取って。アル。」

「俺のは銅貨8枚だったな………ほら、アル。」

「……はい!確かに確認しました!」

「はいよ。これが商品だ。蓋を開けてもらったら解るけど、一応……上から焼肉、ハンバーグ、唐揚げな。」


俺は弁当をクレスに手渡す。


「ありがとう、タクト!そこのテラス席、使わせてもらうぜ。」

「おう!好きに使ってくれ。あっ、空になった弁当箱はアルに返却してくれるか?木箱は洗って、乾かして再利用するから。次までには、返却用の箱を用意しておくよ。」

「おぅ!わかった!」


弁当を受け取ったクレス達がテラス席へと移動する。


「あら?あれは……」


店の扉が開き、ソニアが来店した。


「いらっしゃいませ!あら、ソニアじゃない。ロイドさんと一緒じゃないみたいだけど……」

「はい。ロイドさんは今、受注した商品の製作に真剣になっておられまして、私だけ先にお昼休みを頂いたのです。」

「そう。ロイドさんも頑張ってるのね。」

「ところで、クロエ。アルさんが此処で働いているのは、新聞を読んで概ねの事情を把握しているので解りますが、クレスさん達が購入されていたアレは……?」

「え?あぁ!タクトさんの新しい試みでね。アルが居るあそこで、お持ち帰りができるお弁当を販売することにしたの。」

「まぁ!そうなのですね。ふむ……帰ったらロイドさんに教えてあげましょう。ロイドさんを初め、親方さん達他の職人さんも、毎日忙しそうにされていますし……お昼に食堂に行けなくても、お弁当なら……」

「そうね。私も衛兵をしていた時、お昼休憩を禄に取れないこともあったし……そういうとき、タクトさんが今回用意したお弁当みたいな食事があると、ありがたいわね。」

「ん?そうか……もっと早く気づけてたら、屋台営業の時にも用意してやれたのに……ごめんな。」

「そんな!謝らないで、タクトさん!あの時はあの時で、本当に助かったんだから!」

「そうですね。いつも美味しいお食事をありがとうございます、タクトさん。」


「うっめぇぇぇぇぇ!この肉と玉ねぎ、ピーマンに絡めてあるソース、少し前に食べたバーベキューと同じ味だな!ご飯が凄く進むぜ!」

「こんなに豪華な昼食を取っても良いのだろうか?ふふっ、やはりタクトの店のハンバーグは美味しいな。」

「タクトさんのお店の鶏肉は特別……!この唐揚げ、外はサクッとしているのに、噛んだら柔らかい鶏肉から肉汁が溢れてきて……ご飯を食べる手が止まらない。」

「あっ!クレスさん。タクトさんが、その焼肉のお肉、牛肉だって言ってたよ。」

「マジで!?これ、牛肉なのかよ!?確か、セシルが食べてるハンバーグにも、牛肉が使われてるんだったよな?」

「あぁ。タクトが言うには、ハンバーグやミートソースに使っている挽肉は、牛肉と豚肉の合い挽きだそうだが。ふむ……クレス。すまないが、そのお肉を1枚貰っても?」

「おう!食ってみろ。」


セシルがフォークを使ってクレスの弁当から焼肉を1枚取ると、そのまま口へ運んだ。


「……っ!バーベキューの時にも牛肉を食べて思ったが、タクトの店の牛肉は、お肉そのものが挽肉のような加工をしていないのに、凄く柔らかいんだよな。」

「あぁ!普通なら、こんな柔らかい牛肉を他の店で食おうと思ったら、もっと金を出さないといけねえのに……マジでタクトのスキルと調理方法、良心的な経営には感謝しねぇとな!」

「ふふっ、そうだな。私もタクトには随分と世話になっている。本当に……感謝しかないよ。」


外で弁当を食べている3人の様子が聞こえて来るに、概ね好評のようだ。


「タクトさん。クレスさん達、凄く美味しそうに食べてくれてるよ。」

「あぁ。聞こえてるよ。喜んでもらえて良かった。」

「あの、タクトさん。先程、クロエとも話していたのですが、もしかしたら、明日以降、お弁当のお持ち帰りをお願いすることになると思います。用意していただけますか?」

「え?そりゃ、もちろん用意してあげるけど……鍛冶屋さんって、何人居るんだ?大勢居るようなら、俺が【 収納 】スキルを持ってるし、配達しようか?」

「あっ、それなら、ロイドさんも確か【 収納 】のスキルを持っていたはずなので、お願いして一緒に来てもらいます。」

「そっか。それなら問題無いな。」


「ごちそう様、アル。すっげぇ美味かったって、タクトに伝えてくれるか?」


クレス達がアルに、空になった弁当箱を返却する。


「大丈夫。ちゃんと聞こえてたと思うよ。」

「あっ、クレス。帰る前に、ちょっと頼まれごとをしても良いか?」

「ん?何だ?」

「アル。」

「あっ、うん。」

「いやな、アルの御両親に、アルが書いた手紙を届けてもらいたいんだ。例の件は新聞で知ってるかもしれねぇけど、ちゃんと助かったことと、ウチで働くことになった内容を伝えておいた方が良いって話になって。」

「そりゃそうだな。おぅ!任せろ!ちゃんと責任を持って、ベゼットまで持っていくぜ!」

「あぁ。私達に任せてくれ。」

「そうだ。お弁当、追加で買っていく。それぞれ2つずつ。ベゼットまでの道中、今日食べた物と違うのを、順番に食べる。」

「それ良いな!さっき、シーナが食ってた唐揚げも気になってたんだよ。タクト!追加で弁当の持ち帰りを6個、頼むよ!」

「あいよ!それじゃあ……銀貨4枚と銅貨4枚になるけど、構わないか?」

「「「大丈夫!」」」


俺は弁当を提供して代金を受け取り、アルが持ってきた手紙も、シーナが目の前で【 収納 】した。


数日後……

クレス達がアルの御両親から預かってきた俺宛の手紙を読んでみると

『 娘をよろしくお願いします 』というメッセージと、ベゼットの食事情が安泰になってきているという近況報告の後に

追伸で『 孫の顔を見るのが楽しみです 』と書かれていた。


どうやら、いつか……そこまで責任を取らないといけないみたいだ。


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