Menu 66 ~ スクランブルエッグ ~
7時30分
この世界にも新聞があるようで、コーヒーを飲みながら配達してもらった新聞を見ると
昨日のアルの一件が一面を飾っていた。
「ふむ……アルを放置した冒険者達に、冒険者ギルドから3年間の活動停止処分……か。」
写真なんて物は無いので、法廷画家のように3人の冒険者を取り押さえる衛兵達の姿を描いた絵が載っていた。
「当然の結果だ。逮捕されなかっただけでも、ありがたいと思えってんだ。」
「おはよう、タクトさん。」
2階から着替えを終えたクロエが下りてきた。
「おぅ!おはよう、クロエ。……あれ?アルは?」
「あら?一緒に着替えてたんだけど……アル~?」
1度厨房まで下りてきたクロエが、アルを呼びに再び2階へと上っていき……しばらくして
階段から2人分の足音が聞こえてきた。
「ぉ……おはよう、タクトさん。」
挨拶と同時に、従業員用の出入り口からメイドカチューシャを付けたアルの頭だけが
ヒョコッと現れる。
「おはよう、アル…………何で出入り口の陰に隠れてるんだ?」
「アル?どうしたの?」
「えっと……あのね、ボク、こういう可愛い服……着慣れてないから……その……恥ずかしくって……」
「それなら、早く慣れないといけないわね。これから、この服を着て接客するのだから。」
クロエに背中を押されて、アルが俺の前に姿を見せた。
クロエと同じ半そでの白ブラウスと黒のベスト。
丈をギリギリまで詰めた黒色のフレアスカートの上から、白いエプロンを着用。
頭にはメイドカチューシャを装着し、足元は黒いソックスに黒い靴を履いている。
「おぉ!可愛いじゃねぇか、アル。うん。似合ってる、似合ってる。」
「そ……そうかな?えへへ……ありがとう、タクトさん。」
「ちなみにさ……クロエ。アルの服の下って……」
「昨夜一緒に考えて、タクトさんが【 創造 】のスキルで出してくれたじゃない。万が一見えてしまった時の事を考えて、私と同じレオタードよ。色が黒の。」
「あぁ、そっか。そうだったな。クロエとお揃いで、あの、かなりハイレグの……こほん!まっ、まぁ!見えないのが1番だよな!うん!」
「えぇ、そうね。あっ、新聞、私も見て良いかしら?」
「あぁ。それじゃ、俺は朝食の準備をしてくるよ。」
「タクトさん。何か手伝おうか?」
「いや、そんなに難しいことはしないからな。アルも座って待っててくれ。」
「うん。ありがとう。」
俺は【 創造 】のスキルで、必要な材料を出現させる。
「トースターにパンをセットして、サラダも用意して……2人共。今から卵を焼くんだけど、オムレツとスクランブルエッグ、どっちがいい?」
「えっと……タクトさん。オムレツは知ってるけど、スクランブルエッグって……何?」
「んっ!?ん~……あれを口で説明するのは難しいな……」
「それなら、タクトさんが作るところを、見せてあげたら?」
「そうだな。アル、こっちにおいで。」
「うん!」
元気良く返事したアルが、調理をしようとする俺の隣に立つ。
「こっちに立つのは初めてだから、何だかワクワクするなぁ……ん?あれ?ねぇ、タクトさん。フライパンが2つあるんだけど、これは?」
「ん?あぁ。持つところが青い方が肉や魚、野菜とかを焼いたり、他の調理にも使う物。持つところが赤い方が卵を焼く専用のフライパンだよ。」
「どうして卵専用を分けてるの?」
「オムレツを作る時、他の匂いが移ったら風味が台無しになるんだ。具材の入っていないオムレツを作る時なんかは、特にな。」
「へぇ!そうなんだ!」
「あぁ。タクトさんが卵を使う料理以外を作る時、ずっとその青い方のフライパンを使っていたのは、そういう理由があったのね。」
「卵に塩、コショウを少々、牛乳とチーズも少し入れて掻き混ぜて……火にかけてバターを溶かしたフライパンに流し込んで、箸で掻き混ぜながら炒める。」
「それで?」
「半熟状態になったら……はい。スクランブルエッグ、完成。」
「「簡単!」」
「それじゃ、コレは俺の物にするとして、2人はどうする?」
「じゃあ、私はオムレツで。」
「ボクはスクランブルエッグで、お願い。」
「了解!それじゃあ、卵を焼くのと一緒に……」
俺は持つところが青色のフライパンを取り、油を敷いてから厚切りのベーコンを6枚焼いていく。
「あぁ……燻製肉が焼ける良い匂い……」
俺の隣に立つアルの腹部から、腹の虫が控えめに鳴いて空腹を訴えてくる。
「ぁ……」
「ははっ、すぐできるから、もう少し待っててくれ。アル。」
「うん……」
俺は皿にオムレツと、すぐにできたスクランブルエッグ、卵料理と一緒にベーコンをそれぞれ2枚ずつ盛り付ける。
「よしっ!完成……っと。従業員用のテーブルじゃ、ちょっと狭いか。店のテーブル席で食おう。」
「そうね。あっ、タクトさん。運ぶの、手伝うわ。」
「ボクも!」
「おぅ。ありがとうな。」
各々自分の分の食事を持ち、テーブル席へと移動する。
「バターとジャム、牛乳も出してっと……それじゃあ、いただきます。」
「「いただきます!」」
食前の挨拶を済ませ、クロエとアルが好きなように朝食を食べ始める。
「もぐ……んっ……ん~!タクトさんが作るオムレツって、牛乳を少し入れてあるから、優しい甘さがして、とっても美味しいのよね。」
「スクランブルエッグも甘くて美味しいし、分厚い燻製肉も油がしっかり乗っているし、塩加減も丁度良くて、とっても美味しい!」
「ははっ、気に入ってもらえて良かったよ。」
「でも……いいのかな?美味しいパンに卵料理、燻製肉にサラダって……朝から凄く豪華じゃない?」
「ん?そう……なのかな?まぁ、毎日こんなに豪勢ってわけにはいかないけどな。」
「それに、しっかり食べておかないと。お昼まで保たないと思うわよ。どんな職業でもね。」
「さすが。体が資本の衛兵だっただけあって、言葉に重みを感じるな。」
「そっか……じゃあ、気にしないで美味しく頂きます。」
「おぅ!しっかり食べな。」
「おはようございます、タクトくん。今、よろしいですか?」
店の扉を開けて、グウェルが入ってきた。
「ん?グウェルさん、おはようございます。」
「「おはようございます。」」
「おや?皆さん、朝食中で……それに、アルさんじゃないですか。その恰好……はっはっは!うん。よく似合っていますよ。」
「はっ、はい!ありがとうございます!」
「グウェルさんも今朝の新聞を読まれたのなら、昨日のアルの件を御存知でしょう。あの後、ちょっといろいろあって……狩人を引退して、ウチの店で働いてもらうことになったんです。」
「そうでしたか!いや、実は私も……もし、アルさんが今後のことで悩まれているようでしたら、タクトくんやクロエさんに助力をしてもらおうと相談に来たのですが、その必要は無かったようですね。」
「グウェルさん……ボクなんかを気にかけてくださり、ありがとうございます!」
「いえいえ。私達はタクトくんのお店で知り合った仲ですからね。何か遭った時に気に掛けたり、協力するのは、当然のことですよ。」
「グウェルさん。よかったら朝食、食べていきます?すぐ用意できますが。」
「おぉ!是非、お願いします。相席しても宜しいですか?」
「もちろんです!どうぞ!」
アルが食器を少しずらし、グウェルがアルの隣の席に腰掛けた。
「あっ、そうだ。アル。御両親に狩人を辞めたこと、タクトさんのお店で働くようになったことを手紙に書いて、送ったほうが良いんじゃないかしら?」
「そうだな。今回の件が新聞でベゼットにまで伝わっているとしたら、御両親に無事を伝えておいた方が良い。」
「そっか……うん、そうだね。あとで書いておくよ。」
クレス達に頼んだら、アルの手紙をベゼットまで持って行ってくれないかな?
次にあいつ等が来店した時、俺から頼んでみよう。
「さてと……グウェルさん。お待たせしました。モーニングセットです。」
俺はできあがった朝食を、グウェルの前に置いていく。
「おや?もうできたのですか!?」
「まぁ、簡単な物ばかりですからね。いらんお世話だったかもしれませんが、一応、グウェルさんの分の燻製肉は、脂肪の箇所を控えめにさせていただいてます。」
「いえ、そんな!むしろ、ありがたいです。では、いただきますね。もぐ……おぉ……この卵料理、今まで食べてきたどの卵料理よりもフワフワで、ほのかに甘くて美味しいですね!」
「スクランブルエッグ、美味しいですよね!グウェルさん。」
「ほぅ。スクランブルエッグというのですか。えぇ、美味しいですね。」
「ねぇ、タクトさん。これ……普通に時間限定で商品化しない?絶対に売れるわよ。」
「うん。ボクもそう思う。オムレツかスクランブルエッグかは、注文してくれたお客さんに選んでもらうようにしてさ!」
「もぐ……確かに……朝からこれだけしっかりした……しかも、美味しい物が食べられると、嬉しいですね。」
「皆がそう言ってくれるなら……わかった。後でメニューに追加しておくよ。」
こうしてメニューに朝食限定料理が載った1ページが追加された。
アルも元気になったみたいだし、新体制で営業を始めるとするか。




