Menu 64 ~ ペスカトーレ ~
13時
「第1回!『 アリアータの人達にどうすれば、魚以外の魚介類を食べてもらえるのか? 』会議を始めます!」
レストランのテーブル席にアンネリーとヒルダ、グウェルと……なぜか俺まで着席させられて
アンネリーの宣言で会議が始まった。
「また新しい議題が浮上したのか。」
「確か、最初の会議は、新鮮な魚をどうやって内陸都市に運搬するのか、だったのよね?そちらは【 収納 】のスキルのおかげで、無事に解決したと聞いたけど……」
人数分のコーヒーを運んで来てくれたクロエも、俺と同じことを考えていたのか、疑問をそのまま言葉にした。
「えっとですね。クロエさんが仰る通り、魚の運搬に関しては解決しました。」
「問題は、出荷されるのは魚ばかりで、他の魚介類は他の町へ出荷されることはありません。」
「あぁ。タクトさんの店を利用してる常連はさ、タクトさんのおかげでイカやタコ、エビとか貝が食べられるって知ってるんだけどね。世間様は相変わらず、魚以外の海産物が食べられるって思ってないんだよ。だから、タクトさんの店に卸す分以外は、相変わらず海に逃がしているんだよ。」
「なるほどな。」
「あの、ヒルダさん。私、そのタコという生き物を見たことがないのですが……」
「おや?そうなのかい?タクトさん。スキルで出して、見せてあげてくれ。」
「おう。」
俺は台所から皿を持って来て、その上に【 創造 】のスキルで茹で蛸を出現させる。
「何ですか?これ。クラーケンの幼体ですか?」
「アタイも初めて網にかかった時は、同じことを思ったよ。」
「イカと近い容姿をしていますね。タクトくん。このタコという生き物も食べられるのですよね?」
「もちろん。食べられますよ。」
「タクトさん!久しぶりに、タコ焼き作ってくれないかい?あれ、美味しかったからさ。」
「了解!それじゃ、ちょっと厨房に行ってくる。」
俺が厨房に行っている間、クロエが会議に参加する。
「それで、魚介類を他の人達にも食べてもらいたいという話だけど……いきなり他のレストランの料理人に調理法を教えるよりも、まずは露店で調理した物を提供するしかないのではないかしら?」
「なら、アンネリーが頑張るしかないねぇ。」
「えっ!?えっと、その……私、お料理が苦手でして……最近、おかげさまで懐も潤ってきましたし、料理のできる子を雇うのも有りですかねぇ?」
「それも良いかもしれませんね……おや?何だか、良い匂いが……」
テーブル席に座っていた4人が、カウンター席へと移動してきた。
「いらっしゃい。」
「何だか丸い物がたくさんあるのですが、これがタコ焼きですか?」
「あぁ。もう少し待っていてくれ。」
鉄板の上でタコ焼きを数回ひっくり返し、良い感じに焼き色が付いたところで皿へと取り出して
ソースとマヨネーズ、鰹節と青海苔をかける。
「はいよ!タコ焼き、できたぞ。熱いから、気を付けて。」
俺は盛り付けたタコ焼きに人数分の爪楊枝を刺して、4人の前に置いた。
「この木の棒で食べるんですね!では、早速……熱っ!はふ……んっ……ほふっ……美味しいです!」
「生地の中に入っているコリコリした食感……これがタコですか。噛めば潮の香りがして、美味しいですね。」
「これなら、作り方さえ判れば、露店でも売れるんじゃないかしら?」
「アタイは確実に売れると思うんだけどねぇ。」
「私もです!これは、本格的に料理ができる子の雇用を、真剣に検討しないと……」
「タコに関してはこれで大丈夫でしょう。では、次は他の食材に関してですね。」
「他の魚介類か……そういえば、クロエ。この世界の人達の主食って、パンとパスタになるのか?」
「えぇ、そうね。内陸の方だと、ジャガイモも主食になるわね。」
「なるほど。パスタか……皆、腹の具合は、まだ大丈夫そうか?1つ、心当たりがあるんだけど。」
「おや?本当ですか、タクトくん。是非とも、作っていただけますか?」
「アタイもまだまだ大丈夫!タクトさん、作って見せとくれよ。」
「了解。といっても、やることは簡単なんだけどな。」
俺は寸胴鍋でお湯を沸かしている間に、【 創造 】のスキルで出した材料の下ごしらえをしていく。
「グウェルさんとアンネリーは以前、ナポリタンを食べた時のこと、覚えてますか?」
「あぁ!あのトマトソースを絡めたパスタですね。」
「はい!とっても美味しかったです。」
「今やろうとしていることは、ナポリタンと同じなんですよ。あっちほど甘くはないですけど、要は魚介類とパスタを、トマトソースで和えるんです。」
パスタを茹でている間に、フライパンにオリーブオイルを敷いてから刻んだニンニクと鷹の爪を入れ、
弱火で熱していく。
「あとはフライパンにイカの輪切りや、エビに、貝を入れて……香り付けのお酒を入れて蒸し焼きにする。」
「ちょっ、ちょいと、タクトさん。さっき入れたエビ、頭付きじゃなかったかい?」
「貝の殻も閉じたままだったわよ。」
「あぁ。ダシを取るのと似たような物だよ。あのエビの頭からも旨味が出るんだ。それで、貝殻が開いたら、トマトソースを入れて、最後にパスタと絡めるんだ。」
「なるほどねぇ。考えての行動なんだ。」
「今の話を聞かなければ、絶対に捨てるだけだったでしょうね。」
「…………そろそろかな。」
フライパンにしていた蓋を取ると、磯の香りを含んだ湯気が立ち上った。
「おぉ……良い香りが……」
「あとはここにトマトソースを入れて……茹で上がったパスタを入れて、絡めて……よし!ペスカトーレ、完成だ!」
俺はできあがったペスカトーレを個別に盛り付け、4人に提供する。
「タクトさん。私も良いの?」
「あぁ。昼飯、まだだったろ?賄いってことで。」
「ありがとう!いただくわ。」
クロエの発言を合図に、ヒルダ、グウェル、アンネリーも各々食前の挨拶を済ませて
フォークにパスタを巻き付けて口へと運ぶ。
「もぐ……んっ!トマトの味に、魚介類から出た旨味が合わさって、美味しいですね。」
「はい。さっきも言いましたが、具材である魚介からも良い旨味が出るんです。魚を煮込み料理にするとき、イカやエビなんかを一緒に入れてごった煮にすると、いい味になったりするんですよ。」
「ほぅ。なるほど……確かに、この味は魚単体で煮込み料理にするだけでは、出ないでしょうね。」
「ん~!エビもイカも、貝もプリップリで美味しいです!」
「いやぁ、今まで魚ばっかりだったけど、改めて魚介類の可能性を見出しちまったねぇ!」
「それに、パスタとトマトソースは元々この辺りでも普通に使用されていた物だし、これこそ、露店で調理を実演して、町の人達に試食してもらえれば、瞬く間に広がると思うわ。」
「そうですね。最初こそ、抵抗はあるかもしれませんが、1度食べてさえもらえれば、可能性は充分にあるでしょう。」
「これは本格的に、新人さんを雇用しないとなりませんね。タクトさん!もし、私が料理ができる新しい子を雇うことができたら、その子にこのペスカトーレの作り方を教えてもらうことは、可能ですか!?」
「え?あぁ、そりゃもちろん構わないけど……アンネリー。お前、自分で作るという選択肢は……」
「商売に専念したいので!」
「お……おぅ……」
その後、4人は談笑しながらペスカトーレを完食し終えた。
「ふぅ……ごちそう様でした。やはり、タクトくんの店で会議をするのは正解でしたね。その度に、打開案がこうして生まれるのですから。」
「そうですね。タクトさんのおかげで、アリアータの食事情の未来は明るいよ!」
「いや、そんな……大げさだぞ、ヒルダ。まだ成功すると決まったわけじゃねえんだから。」
「まぁ、成功するにしても、失敗するにしても、まずは実行しないといけないわね。」
「ですね!では、私は早速!人材探しに行ってきます!タクトさん、ごちそう様でした!」
「おう。良い人材が見つかると良いな。」
「はい!」
アンネリーは笑顔で手を振りながら、退店していった。
「そんじゃ、アタイも明日からの漁の準備が残ってるからね。ここで失礼させてもらうよ。」
「私も、午後の業務に戻るとしますか。実に有意義な時間でした。タクトくん、ありがとうございます。」
「いえ。アリアータの食事情改善策、上手くいくといいですね。」
「ははっ、そうですね。」
ヒルダとグウェルも、満足気な笑顔を浮かべながら、午後の仕事をするため退店していった。
「ふぅ……さてと。俺も何か軽い物を腹に入れておかねえとな。」
「お疲れ様、タクトさん。おかげで、アリアータの食事情が改善されそうよ。」
「さっきも言ったけど、まだ結果は判らねえだろ?」
「えぇ、そうね。でも……アンネリーなら、きっとやってくれると思うわ。」
「あぁ……そうだな。うん。やってくれるだろうな。」
とりあえず、アンネリーが良い子を雇ったとしたら
有言実行として、まずはペスカトーレの作り方を教えてあげるとするか。




