Menu 63 ~ メンチカツ ~
11時
「そういえば……」
「どうしたの?タクトさん。」
「少し前……此処が屋台だった時、ソニアが1回、この町の露店で売られているコロッケを買って来てくれたことがあったんだけど」
「あら、そうだったの。どう?美味しかった?」
「結構前のことだからなぁ……でも、なかなか素朴な味がした……ような気がする。」
「あぁ……そうね。私も1度食べたことがあるけれど、確かにあれは……ただ潰した芋に衣を付けて、揚げた物でしょうね。」
「……え?あれって、味付けされてないのか?素材の味、オンリー?」
「えぇ、おそらく。露店であの形にするまでの過程を見たことがないから、何とも言えないけど……」
ということは、ジャガイモその物の味が甘かったのか。
結構食べられたもんな、アレ。
「ん~……揚げ物の話をしてたら、食べたくなってきたな。クロエ、まだちょっと早いけど、今日の賄は揚げ物でも良いかな?」
「えぇ!何を出してくれるのかしら?楽しみだわ。」
◇◇◇
13時
昼食を食べに来てくれた常連さん達を見送り、しばしの休憩タイム。
といっても、別に表の看板を『 Close 』にしてあるわけではないので、来店してくれたお客さんには
随時対応させてもらうが。
「さてと!それじゃあ、俺達も昼飯にするか。」
【 創造 】のスキルを発動させ、既に形作った物とパン粉、キャベツの千切りを盛り付けた皿を2つ出現させる。
「あら?タクトさん。これって……少し小さいけど、ハンバーグよね?お昼ご飯は揚げ物だって言ってたけど……予定変更?」
「いや。これにパン粉を付けて、揚げるんだよ。」
実際にハンバーグに衣を付け、熱した油の中に投入する。
「タクトさん……あなた、何て恐ろしい物を!?こんなの、絶対に美味しいに決まっているじゃない!」
「ははっ、クロエのその期待を裏切らねえように、気を付けないとな。」
「そんなに難しいことをしているようには見えないんだけど?」
「まぁ、揚げてるだけだしなぁ。ただ、あんまり揚げ過ぎると、口の中が切れそうになるくらい衣が硬くなったりするんだよ。あと、コロッケの中のジャガイモみたいに、1度茹でたりして火を通した物じゃなくて、生のお肉が具材だから、中にちゃんと火が通ったかの見極めを注意するくらいかな。」
「なるほど。」
「…………よし、そろそろか。」
俺は油の中で泳いでいたメンチカツを取り出し、油をよく切って、キャベツを盛り付けてある皿に
2個ずつ置いていく。
「できたぞ、クロエ。熱いうちに食おうぜ。」
「えぇ!」
俺とクロエは厨房の隅にある、職員用のテーブル席に向かい合わせで座る。
「クロエ。パンとごはん、どっちがいい?」
「じゃあ、パンをお願いしてもいいかしら?」
「了解。」
「それじゃあ、いただきます。」
【 創造 】のスキルでパンを出している目の前で、クロエがメンチカツにナイフを入れ
一口大に切った物を口の中へと運んだ。
「んっ!はふっ……もぐ……もぐ……んっ……あぁ。やっぱり、凄く美味しい!口の中で肉汁が溢れて……」
「んっ……ちゃんとできているな。美味い、美味い。」
「中のハンバーグの味付けも絶妙ね!塩、胡椒がちょうど良い感じに、よく効いているわ。」
「ほら、クロエ。ソースも使うか?」
「えぇ!」
俺からソースの入った筒を受け取ったクロエが、楽しそうにメンチカツにソースをかける。
「美味しいわぁ。このソースって調味料、かなり万能ね。」
「俺が作り方を知らないから、自作はできないけど……まぁ、無くなったら、スキルで出せばいいだけだし、問題無いか。」
「えぇ。これは……まだ、アンネリーの店に卸さなくても良いでしょうね。もうしばらくは、私達だけのお店で独占しましょう。」
「ははっ、あぁ、そうだな。」
「こんにちは!」
俺とクロエが食事していると、店の扉が開き、ターニャが入ってきた。
「おっ!ターニャ、いらっしゃい。今から昼飯かい?」
「はい。そのつもりだったのですが……御2人共、お食事中でしたか。ごめんなさい!出直しましょうか?」
「いやいや、大丈夫だよ。クロエはそのまま食事していてくれ。俺が対応するから。」
「んっ……ごめんなさい、タクトさん。お願い。」
「あぁ。普段はクロエに任せてるんだから、こういう時くらいはな。」
俺はカウンター席の前に立ち、ターニャに水を提供する。
「はい、ターニャ。お水とメニュー。」
「ありがとうございます。あの、タクトさんとクロエ先輩は、何を食べていたんですか?」
「ん?あぁ。メンチカツっていう揚げ物だよ。食べてみるか?」
「はい!是非!」
「あいよ!それじゃあ、すぐ作るから、少し待っててくれ。」
俺はターニャの分のメンチカツも、すぐに用意する。
「…………さてと。よしっ!できたぞ、ターニャ。パンとご飯、好きな方を選べるけど、どっちにする?」
「そうですね……では、パンでお願いします。」
「あぁ。わかった。」
ターニャの前に、メンチカツを盛り付けた皿と、パンが2個乗った皿を置いていく。
「これがメンチカツですか……では、早速……いただきます!」
食膳の挨拶を済ませたターニャが、上品にメンチカツをナイフとフォークで一口大に切り分け、口の中へと運ぶ。
「んっ、熱っ……もぐ……もぐ……んっ、なっ……何ですか、これ!?お肉なのに、凄く柔らかくって、とっても美味しいです!」
「ははっ、気に入ってもらえて良かった。」
「外のパン粉も、油も上質な物ですね。以前、昼食の時間を短縮するために、この町の露店でコロッケを買ったのですが……その……」
「油臭かったか……それとも、外の衣で口を切りそうになったか?」
「その両方です。」
「マジかぁ……同じような物を出す店が幾つかあるのなら、たまたまその時、ターニャはハズレの店を引き当てちまったって感じか。」
「そうなのでしょうね。その時は人が少なくて、すぐに注文できると思ったのですが……よくよく考えると、多くの人が行き来する大通りに露店を出しているのに、お店の周りに人が少なかったという事は、それなりの理由があったのだと思います。」
「まぁ、味覚なんてのは人それぞれだからな。美味いかどうかの判断なんて、結局自分で決めるしかないんだよ。」
「そうですね。」
その後、ターニャは美味しそうにメンチカツを完食した。
「ふぅ……ごちそう様でした、タクトさん。とっても美味しかったです!」
「おう!お粗末様でした。1皿だけで良かったのか?」
「はい!いくらタクトさんの所の揚げ物が、質の良い油を使っているとはいえ、やっぱり揚げ物ですからね。あまり食べ過ぎると、この後の仕事に支障をきたしそうだと思いまして。」
「それもそっか。それじゃあ、ターニャ。メンチカツ1皿で銅貨7枚頂くけど、構わないか?」
コンビニとかで売られているのは、もっと安い値段だけど……
ウチの料理の値段も、そっちに合わせた方が良いのだろうか?
「わかりました!大丈夫です、納得のいくお値段ですから!」
「ちなみにターニャ。露店で売られてるコロッケの値段って?」
「えっと……確か、1個銀貨1枚ですね。」
「そ……そっか。」
露店……町のたこ焼き屋さんみたいな感じの店で売られてるコロッケが、1個1000円……
余程良い素材を使っているのか……物価の問題か?
何にせよ、それを聞いたら、ウチのメンチカツはこれくらいの値段でも大丈夫……かな?
「えっと……どうぞ、タクトさん。銅貨7枚です。」
俺はターニャから銅貨7枚を受け取った。
「はい!丁度いただきました。」
「ふぅ……タクトさん、私もごちそう様でした。ごめんなさい、お客様の対応を任せっきりで……」
「いいって、いいって。」
「ふふっ……それでは、私は午後の仕事に戻ります。」
「えぇ。頑張ってね、ターニャ。」
「衛兵の職が忙しいってのは解ってるけど、頑張れよ、ターニャ。腹空かして来てくれたら、いつでも飯を用意してやるからさ。」
「はい!ありがとうございます!」
ターニャは笑顔を浮かべて一礼すると、退店していった。
「さてと……俺も残りの飯、食べ終えてしまわないとな。」
「仕方ないとはいえ、冷めてしまってるわよね……もう1度揚げ直すの?」
「いや。メンチカツは冷めても美味いんだよ。こうしてパンに切り込みを入れて……」
この世界の人達に馴染みのある丸い形の白パンに切り込みを入れ、メンチカツとキャベツを挟んで
ソースをかける。
「もぐ……ん……」
「え?タクトさん……何、その食べ方……」
「ん?メンチカツサンド……」
「揚げ物を手を汚さないで食べる方法が……何より、美味しそう……タクトさん!メンチカツ、おかわり!」
「いや、クロエ。お前、さっき、ごちそう様って……それに、揚げ物だからな。あんまり食べ過ぎると、太るぞ?」
「ゔっ!……わかった。次の機会の楽しみにしておくわ。」
「うん。その方が良いよ、絶対。」
美味しい物をいっぱい食べたいって気持ちも、解らなくはないけどな。
できるだけ近いうちに機会を作ってあげて、その時にまた美味しく食べてもらおう。




