Menu 58 ~ オムライス Ⅱ ~
アルの故郷・ベゼットから戻ってきた翌日
13時
「ん~!以前頂いたミートソースも美味しかったですが、このナポリタンというパスタも、とっても美味しいです!」
カウンター席でナポリタンを食べているユリアが、嬉しそうな声を上げる。
「ははっ、そいつは良かった。」
「ふむ……私達が知っている既存のパスタは、上にソースをかけるだけの物ばかりだけど、こうしてソースと絡める物もあるのね。」
「そういえば、ケーキは以前クロエに案内してもらったお店で食べたけど……」
「あら!デートですか?」
ユリアの発言に、クロエの顔が一気に赤くなる。
「デート……あぁ、そういうことになるのかな?日頃のお礼って感じで……なぁ、クロエ。」
「えっ、えぇ!タクトさんが、こっちのお料理を食べたことが無いって言うから、日頃お料理を提供してくれているお礼にってことで……」
「うふふ。そうなのですね。」
「こんにちは!」
ユリアとそんな話をしていると、見せの扉が開いてターニャが入ってきた。
「いらっしゃい、ターニャ。好きな席にどうぞ。」
「ありがとうございます、クロエ先輩。」
クロエに案内されたターニャが、ユリアの隣のカウンター席に座る。
「あら?今から昼食を頼んで、食べている暇があるのですか?ターニャ。」
「この後は非番だから、時間に余裕があるのよ。貴女こそ、早く昼食を済ませて、港へ戻った方が良いのではないですか?ユリア。」
言葉を交わし、顔を合わせたユリアとターニャの間で、火花が飛び散ったような気がした。
「えっと……2人は知り合いなのか?」
「はい。私とユリアは幼馴染みなんです…………残念ながら。」
「聞こえていますよ、ターニャ。まったく……」
「それで?ユリアは相変わらず、パスタなのですか?」
「えぇ。好きなのですから、良いでしょう?別に。」
「ふむ……パスタと燻製肉、玉ねぎに……ユリア。その緑色の物は……まさか……」
「えぇ。ピーマンですよ。ターニャ……貴女、もしかして……まだ、ピーマンが食べられないのですか?」
「……そんなことないもん。食べられるもん。」
あ……これはまだ、苦手なんだろうなぁ。
「はい、ターニャ。お水……と、メニューはどうする?タクトさんに直接注文する?」
「そうですね……では、タクトさん!ピーマンが入っているお料理、お任せでお願いします!」
「だ……大丈夫か?ターニャ。無理しなくても……」
「だっ、大丈夫です!ドンと来いです!」
「わかった。それじゃあ……」
俺は【 創造 】のスキルでオムライスを出現させる。
「はい。オムライス、お待ちどぉ!」
「あら。オムライスじゃない。あぁ、そういえば、確かにピーマンの微塵切りが入っていたわね。」
「ピーマンの微塵切り……なっ、なるほど。この薄焼き卵の内側に、ピーマンの微塵切りがびっしり入っているのですね。上にかかっているこの赤いソースは……トマトソースですか。」
それはそれで美味しいのかもしれないけど……ピーマンが苦手な人からすれば、
苦行以外の何物でもないな、そのオムレツ。
「ちょっと、タクトさん。目の前で作らないでスキルで出したから、ターニャが何か変な想像してるわよ。」
「やっぱり独断はマズかったかな?この後、非番って言ってたし……時間に余裕があったみたいだし、1から作った方が良かったか?」
「……まぁ、これはこれで面白いから、問題無しということで。」
「ふぅ……ごちそうさまでした。クロエさん、お勘定をお願いします。」
「えぇ。ナポリタン1皿で銅貨8枚ね。」
「わかりました。」
オムライスを前に、妙な想像をして冷や汗を大量にかいているターニャの隣で、ユリアが勘定を済ませる。
「はい!丁度いただきますね。」
「ゆ……ユリア、た……たす、助け……」
「うふふ。自分で注文したんですから、責任を持って完食するのですよ。それでは、私はこの後沖に出るので、失礼します。タクトさん、クロエさん。ごちそうさまでした!」
ユリアは俺とクロエに挨拶をして、店から出て行った。
「うぅ……いつか、絶対に泣かせてやる。」
「ターニャ。本当に無理なら、別の料理に交換するけど……」
「いえ!大丈夫です、タクトさん。貴重な食料を粗末にするわけにはいきません!提供していただいた、こちらのお料理は、きちんと完食します。」
そう言いながらターニャはスプーンでオムライスに切り込みを入れ、一口分掬い上げた。
「あら?確かにピーマンの微塵切りらしい緑色の物が見えますが、殆どがオレンジ色の粒なのですね。こちらは……?」
「ターニャ。それはコメという植物よ。何かを乗せたり、混ぜたりして食べるのに、適した食材なの。」
「コメ……私が初めて聞いたということは、これはタクトさんの居た世界の植物なのですね。」
「あぁ。今はこの町の領主さん主導で、米をどうにかしてこの世界でも作ろうとしているみたいだけどな。」
「そうですか。それが実現できれば、このアリアータから各地へ……食事情が大きく変わっていくかもしれませんね。」
「まぁ、これまでに無かった植物だから、簡単には受け入れてもらえないだろうけどな。」
「確かに……ですが、クロエ先輩も、領主様も……おそらく、このタクトさんのお店に通ってらっしゃる方々は、このおコメを食べたことがあるのですよね?」
「えぇ。私も生きている間に、こんな万能な食材に出会えるだなんて、思ってもみなかったわ。」
「そこまでですか!?……では、いただきます。はむっ!」
ターニャはスプーンで掬っていたオムライスに視線を落とし……意を決したように、口の中へと運んだ。
「もぐ……もぐ……んっ、美味しい……美味しいです!確かにピーマンの微塵切りも一緒に食べたはずなのに、このトマトソースの味がするおコメと卵の甘さのおかげで、苦みがまったく感じられませんでした!タクトさん!オムライス、とっても美味しいです!」
「ははっ、気に入ってもらえたようで良かったよ。」
「もぐ……中の具材、おコメとピーマン以外にも、具材が入っているのですね。これは……お肉ですか?」
「あぁ。鶏の腿肉と玉ねぎのみじん切り、マッシュルームっていうキノコを切った物が入ってる。」
「この薄焼き卵の下に、5種類の食材が包まれているのですか!?とっても具沢山なんですね!」
満面の笑みを浮かべながら、ターニャが手を止めることなくオムライスを食べていく。
「もぐもぐ……んっ、クロエ先輩もオムライスを食べたことがあるのですか?」
「えぇ。私の場合は、少し違っていたのだけれど……」
「どういうことですか?」
「クロエが初めて来たとき、何を食べようか迷っていてな。その時、同席していた他のお客さんが食べていたオムライスを初めとする、ハンバーグとかエビフライみたいな色々な物を少量ずつ1つの皿に纏めた物を提供したんだよ。」
「今日、ユリアが食べていたナポリタンも、少量だったけど入っていたわね。」
「何ですか?その夢のような料理は!」
「タクトさんの居た世界の子ども達が好きな料理が1つのお皿に盛りつけられた『 お子様ランチ 』というのだけれど、大人でも食べたいと思う人が居たそうで、提供できるお店が増えていたそうなの。」
「だからターニャも、食べたくなったら遠慮しないで言ってくれよな。食べ物の量は大人用に調整するから。」
「ありがとうございます!ですが今日は、オムライスを堪能させてもらいますね。」
「ターニャ。おかわり、いる?」
「はい!お願いします!」
その後、新しく提供したオムライスも、ターニャは満面の笑みで完食した。
「ふぅ……ごちそう様でした。」
「おぅ!お粗末様。」
「美味しかった……本当に……大満足です。」
「嫌いなピーマンが入っていたのに、問題無く完食したわね。偉いわよ、ターニャ。」
「途中から、そのことをすっかり忘れてました……あっ、クロエ先輩。お勘定をお願いします。」
「えぇ。オムライス1皿が銅貨7枚で、2皿だから銀貨1枚と銅貨4枚ね。」
「わかりました。」
ターニャは財布を取り出し、銀貨と銅貨を取り出す。
「はい。確かにちょうど、いただきますね。」
「さてと……あまり長居をするのも迷惑ですね。私は詰め所の自室に戻って、ゆっくり過ごそうと思います。」
「ウチはあんまり気にしないけどな。そんなに混む時間でもないし……でもまぁ、休みをどう過ごそうかは、ターニャの自由だよな。」
「またいつでもいらっしゃい、ターニャ。」
「はい!ありがとうございます。」
軽く頭を下げたターニャが店から出て行った。
「ターニャのピーマン嫌いは、衛兵の間で周知の事実だったの。それがあんなに……」
「ハンバーグやオムライスみたいに、他の味が強い物に混ぜると、意外と食べられるんだよな。」
「それなら、今度テレサさんに頼まれて子ども食堂を開くことがあったら、ピーマンや人参の微塵切りが入った料理を盛り合わせた お子様ランチ。」
「あぁ~……うん、そうだな。検討してみるか。」
クロエと話しながら食器を洗っていると出入口の呼び鈴が鳴ったので、俺達は次のお客さんを出迎えた。




