Menu 56 ~ インスタント麺 と 缶詰 ~
14時
「こんにちは~!」
レストランの扉を開け、アルが入ってきた。
「あら。いらっしゃい、アル。」
「こんにちは、クロエさん。あの……タクトさん、居るかな?」
「えぇ。カウンター席にどうぞ。」
クロエに通され、アルがカウンター席に座る。
「おぅ!いらっしゃい、アル。」
「タクトさん……ちょっと、相談したいことがあるんだけど……時間、大丈夫かな?」
「あぁ、もちろん。どうしたんだ?」
「ありがとう。あのね……狩りで地元の近くを訪れたから、実家に顔を出そうと思って立ち寄ったんだけど……」
「実家で何か遭ったの?」
「実家というより……村全体で……かな。タクトさんはこっちの世界に来たばかりだから知らないと思うんだけど、去年は快晴の日が多くて、雨が殆ど降らなかったんだ。」
「雨が?なるほど……何となく、解ったぞ。作物を育てるのに必要な水が確保できなかったんだな?」
「そうなんだよ!一応、去年のうちに貯えておいた干し肉とか、ジャガイモはあるんだけど……さすがにそれも、底を尽き始めてきて……」
「その状態はアルの家だけじゃなくて、村の殆どの家が、そういう状況……それに近い状況なんだな?」
「うん……タクトさん!お願い!お金はいつか、必ず全額支払うから!何か日持ちする食べ物があるなら、売ってくれないかな!?」
「わかった。そういうことなら、力になってやるよ。」
「タクトさん……!ありがとう!!」
「……クロエ、ちょっとお遣いを頼まれてくれないか?」
「お遣い?」
「アンネリーと、クレス達を呼んで来て欲しい。これは、緊急のクエストになる。」
「えぇ!任せて!すぐに呼んでくるわ!」
力強く頷いてくれたクロエが、レストランから出て行った。
***
「おう!タクト!事情はクロエさんから聞いたぜ。」
「不作の事態の厳しさは理解しているつもりだ。またアンネリーの護衛というのであれば、喜んで協力しよう。」
「困った時は、お互い様。」
クロエが呼んできてくらたクレス達が、既に快くアンネリーの護衛を引き受けてくれるようだった。
「ただいま。アンネリーも呼んできたわよ。」
「どうも!何やら大変な状況とのことで、微力ながらお手伝いに来ました!」
「皆、急な呼びかけなのに、集まってくれてありがとうな。」
「何を水くせぇこと言ってんだよ、タクト。この店で共に美味い飯を食う、気の知れた友人……今回はアルか。彼女の地元がヤバい状況なんだろ?だったら、喜んでいくらでも力を貸してやるよ。」
「ははっ、頼もしいな。」
「あの、タクトさん。クロエさんの話によると、アルさんの故郷の作物が今年は不作だったので、保存の利く食材を大量に輸送するということでしたが……」
「それなんだけど、実際に見てもらおうって思って、集まってもらったんだ。」
俺は【 創造 】のスキルで提供予定の商品をテーブルの上に出現させる。
「あら?これは……紙よね?」
「タクトさん……いくら非常事態だからって、さすがに紙は食べられないよ……」
「わかってるって!こいつはインスタント麺っていって、この中に食べ物が入ってるんだよ。」
そう言いながら、俺はインスタント麺の蓋を開ける。
「ん?こりゃ……茹でる前のパスタか?」
「それと、袋が2種類……タクト。これは……?」
「1つの袋にはお湯に溶ける調味料とでも言えば良いのかな?全体の味になる物が、もう1つの袋には加薬……」
「火薬?え……?これ、爆発するの……?」
「声に出して言えば同じだけど、まったくの別物だ、シーナ。えっと……ほら、メニューに載ってるうどんとか蕎麦の上に、ネギが乗ってるだろ?」
そう言いながら、俺は全員にうどんや蕎麦が載っているページを見せる。
「このネギとか、笊蕎麦に添えてあるワサビとかを、俺の居た世界では『 薬味 』って言ってたんだ。その薬味を加えるから『 加薬 』なんだよ。」
どうやら、実際に書いた文字はこちらの世界の人達にも理解してもらえるようなので、説明しながら紙にペンで『 加薬 』と書いて見せた。
「なるほど!調味料とカヤクについては理解しました!それで、タクトさん。これはどうやって作るのですか!?」
「難しいことは何も無いんだ。この袋に入っている調味料と加薬を入れて、お湯を注いで……このまま3分待つ。」
「…………えっ?それだけなの?」
「おう。まあ、種類によっては5分待ったりするヤツもあったりするけどな。さてと……3分待っている間に、クレス。」
「ん?何だ?」
「今回は、俺もアルの故郷へ行こうと思う。護衛を頼めるか?」
「え?そりゃ、もちろん構わねえけど……この店は……」
「利用してくれる皆には悪いとは思うけど、戻って来るまで臨時休業させてもらおうと考えてる。俺の居た世界では『 炊き出し 』っていう、自然災害や戦争で大ダメージを受けた村や町に、今回の皆みたいに『 困ってるなら助ける!』っていう思いを持って集まった人達が、料理を提供する制度?えっと、まぁ、そういうものがあったんだよ。」
「へぇ!いいことじゃねえか。そりゃ、困ってる人達は助かるだろうな。」
「せっかく、こうして無料で食材を出せるスキルと、調理できる技術があるんだ。できることなら、俺も力になってやりたくてな。悪いな、クロエ。勝手に決めて……」
「謝らないで、タクトさん。そういうことなら、私がソニア達に話したうえで、貴方の護衛として同行させてもらうわ!」
「え?いや、俺が留守の間、クロエには休暇を……」
「同行!させてもらうわ!」
「……うっす。よろしくお願いします。」
「あっははは!おいおい、押し切られんなよ、タクト!」
「ふふっ、今回の仕事は、賑やかになりそうだな。」
「そして、もれなくタクトさんが出してくれる食事が付いてくる……」
「おぉ!それはお得ですね!」
そうこうしている間に、セットしておいたタイマーが3分を知らせる、けたたましい音を響かせた。
「よし、できた。」
「あら?これって……醤油ラーメン?覚えのある香りだわ。」
「あぁ、今回はな。もちろん、他の味もあるよ。それじゃあ、量は少なくなるが、試食ってことで……分け合って食べてみてくれ。」
「おう!それじゃあ、いただきます。」
「「「「「いただきます!」」」」」
クロエを含む6人が順番にフォークで麺を掬い、口へと運ぶ。
「ん……もぐ…………っ!?驚いたわ。タクトさんが出してくれた物ほどではないけれど、確かに醤油ラーメンだわ。」
「マジかよ……何も難しいことはしてない、3分待つだけで、こんなに美味い物ができるのか!?」
「これは純粋に驚いたな……3分待つだけでこんなに美味しくなるのなら、倍の時間をかければ……」
「麵が伸びてしまって、美味しくなくなるぞ。美味しく食べたいなら、時間厳守……まぁ、最悪、1分後には食べた方が良いぞ、セシル。」
「そうなのか?タクトが言うのなら、そうなのだろうな。わかった。」
「タクトさん!これは絶対に売れます!是非とも、私の店に卸してください!」
「アンネリーの店で売り出されたら……クエストの常備品として、購入させてもらうわ。」
「ボクも。お湯を沸かすだけで作れるのなら……」
「あぁ。でも、まずはアルの故郷へ提供してからだ。それと……毎日毎食インスタント麺だと、さすがに身体に悪いので……もう1つ、提供する物がある。」
俺は再び【 創造 】のスキルを発動させ、もう1つの提供物を出現させる。
「ん?今度は……金属?」
「タクトさん。これも中に食べ物が入ってるんだよね?」
「おう。こいつは缶詰っていってな、ほら……金属が輪っかになってる場所があるだろ。ここに人差し指を引っ掻けて、引っ張ると……」
「おお!中に魚が!」
「中の食材は既に調理済みの物なんだ。それを、あっちの世界の技術でこの金属の中に入れておくと、この蓋さえ開けなければ、年単位で保存が効くんだよ。」
「年単位!?それは、凄いです……」
「今回はサバの水煮を出したけど、魚だけじゃなくて、肉料理が入った缶詰もあるし、加熱した豆やトウモロコシが入った缶詰もある。ただ……」
「何か問題でもあるの?タクトさん。」
「この水煮はそれほどなんだけど、缶詰の中の料理は味の濃い物が多いんだ。だから……自然と米やパンが欲しくなる。」
「さすがに、パンくらいは何とかできる……と、思う。」
「まぁ、以上が俺が今回、アルの地元にしてやれることだ。炊き出し以外のことは、その都度……」
「いやいや!充分、充分すぎるよ!」
「よしっ!それじゃあ、俺とクロエは他のお客さん達に事情を説明して来るから、出発は明日の朝で!」
その場に居た全員が頷き、その場で解散となった。




