Menu 54 ~ 焼きそば ~
10時
「ねぇ、タクトさん。」
「ん?何だ?」
客足が途絶えている今、厨房に座椅子を置いて本を読んでいると、クロエに声をかけられた。
「私にも、このメニューに載っている料理って作ることができるかしら?」
「え?そりゃ、できるだろうな。元々料理をするって言ってたし、レシピ本に記載されている内容や俺が教えた通りの作り方で、分量を間違えたりしなければ、クロエなら普通に作れると思うよ。」
「本当!?それなら、私に教えてもらえるかしら?」
「そうだな。ん~……じゃあ、昼食は一緒に作るか。」
「えぇ!」
◇◇◇
11時30分
「え~……一緒に作るとは言ったけど、ぶっちゃけた話、材料を切って焼くだけという簡単な料理です。」
「まぁ、それでも……あまり考えたくないけれど、タクトさんがもし、万が一、病気や怪我で動けなくなった時に、私が代理で何か作ることができれば……ね?」
「そうだな。クロエにも少しずつ作ってもらえるようになると、心強いな。うっし!そんじゃ、始めるか。」
「えぇ!」
俺は【 創造 】のスキルを発動して、必要な材料を出現させる。
「お肉と葉野菜、パスタに、この茶色い液体はたぶん調味料……ここまでは分かるんだけど、タクトさん。この白い……これは何?」
「ん?あぁ。それはモヤシっていうんだ。先端の黄色い……この部分が豆でな。豆を水に浸けて、日光に当てずに発芽させた物が、このモヤシだよ。」
「へぇ……そういう栽培方法があるのね。」
「とりあえず、豚肉とキャベツを食べやすい大きさに切って……」
「はい。」
俺が言ったとおり、クロエが包丁で食材を切っていく。
「で、油を引いた鉄板でまずは豚肉を、肉の色が変わってきたらキャベツを炒める。」
「キャベツだけ?モヤシは一緒に炒めなくて良いの?」
「その辺は好みかな。水洗いしたモヤシはこのままでも食べられるから……このキャベツと一緒に入れても良いし、最後に投入してサッと火を通すだけでも、どっちでも良いんだよ。」
「なるほど。それじゃあ、今回は最後に投入する方向ね。」
「あぁ。それで、話している間にキャベツの葉がしんなりしてきたから、麺……パスタを投入して、解れやすくするために少しだけ水を入れる。」
鉄板の上の食材に水をかけた瞬間、ショワアアァァァ!と勢い良く水が弾ける音が聞こえてくる。
「それで、モヤシを入れて、このソースを全体的に絡めるように炒めれば、焼きそばの完成だ。」
「まぁ!本当に簡単なのね!うん。これなら、私1人でも作れそうだわ!」
俺は鉄板の上の焼きそばを皿に盛り、クロエに差し出す。
「ほら、食べてみな。これは啜って食べて大丈夫だから。」
「えぇ。いただきます。」
厨房に置いてある座椅子に座り、クロエはフォークを使って焼きそばを口の中へと運ぶ。
「はむ……ズ……ズズッ……んっ!もぐ……もぐ……うん!とっても美味しい!このソースという調味料の濃い目の味、焼いたパスタのモチモチとパリパリが混ざった食感、葉野菜とモヤシのシャキシャキとした歯応えも良いわ!」
「今回はこの3つの具材で作ったけど、エビやイカのような具材を入れても美味いし、ニンジンやピーマンみたいな野菜を増やしても美味いぞ。」
「そうなの?それを聞くと……エビやイカも、なかなかに万能な食材ね。」
「まぁな。さて……それじゃ、俺もクロエが作った焼きそばを頂くとするか。」
俺は残っていた焼きそばを皿に盛り、箸を使って口の中へと運んだ。」
「ズズズッ……うん。美味い。あっ、そうだ。クロエ。追加でこのマヨネーズや鰹の削り節、青海苔をかけても美味くなるぞ。」
「……この木を削ったような物と、青い粉のような物、食べられるの?」
「ははっ、初見だとそう思うよな。どっちも風味が良いんだ。まぁ、強制はしないからさ、気が向いたら使って見ると良いよ。」
「えぇ。ん~……もう少し味が濃くても良かったかしら?」
「そこも好みだからなぁ。その辺はソースの量やマヨネーズで調整だな。」
その後、焼きそばを美味しく食べ終え、使用した食器の後片付けを開始する。
「それにしても……」
「ん?」
「いや、母親以外の女性の手料理を食ったの、クロエが初めてだなぁって……ちょっと、嬉しかった。」
「えっ?あ……うふふ。これからもずっと、少しずつでもタクトさんが教えてくれれば、作ってあげられるようになるわよ。」
「ははっ、それじゃあ、クロエには俺がスキルで料理を出さないで1から作る時は、貪欲に見て覚えてもらおうかな。」
「えぇ!任せて!」
そんな話をしていると、店の扉が開き、来客を知らせるベルの音が鳴り響いた。
「あら、お客様ね。行ってくるわ!」
「あぁ。頼む。」
クロエが厨房から店の出入り口へ、小走りで駆けていく。
「こんにちは、クロエさん。くんくん……何だか、香ばしい良い匂いがしますね。」
「いらっしゃい、アンネリー。今日はお食事?」
「はい!この美味しそうな匂いの料理を食べたいです。」
「えぇ。わかったわ。タクトさん、聞こえた?」
「あぁ。すぐに作り始める。」
「それじゃ、アンネリー。カウンター席へどうぞ。」
「ありがとうございます。」
アンネリーとクロエが談笑している間に肉と野菜を切り、油を引いた鉄板で炒め始める。
「…………ん?あっ!タクトさん、焼いたその肉と野菜をパスタにかけるんじゃなく、パスタを焼くんですか!?以前頂いたナポリタンというパスタ料理みたいですね。」
「ん?あぁ、そういえばそうだな。」
市販の焼きそばの麺……あれは既に茹でてあるんだろうか?
袋の内側が既に濡れている物は、麺をほぐしやすくするために水で濡らしてあると思ってたんだけど……
たぶん、既に茹でてあって、熱が冷めて水滴になってるんだよな?
「麺とモヤシを炒めながらソースを絡めて……ほい!焼きそば、お待ちどぉ!」
完成した料理を皿に盛り、アンネリーの前に提供する。
「おお~!ではでは!いただきます!」
アンネリーはフォークに焼きそばを巻き付け、口の中へと運ぶ。
「ん……もぐ……んっ!味が濃くて美味しいですね!パスタ、お肉、お野菜のそれぞれの食感と味が1つになって……」
「……焼きそばをあんな上品に食べる人、初めて見た。」
「まぁ、タクトさんからしてみれば、そうよね……」
「本当に美味しいです!……では、そろそろ、粉チーズとタバスコを……」
「ん!?ん~……合う……のかもしれないけど、アンネリー。焼きそばにはこっちの方が合うと思うぞ。たぶん……」
俺はそう言いながら、アンネリーの前にマヨネーズが入った容器、鰹節が入ったパック、青海苔が入った筒を提供する。
「タクトさん。マヨネーズは解りますが、この木の側面を削ったような物と、緑色の粉は……?」
「ぷっ!くくっ……そうだよな、見慣れないと木を削った物にしか見えねぇよな。一応、これ、魚を削った物なんだよ。試しにこれだけで食べてみな?クロエも。」
「はい!いただきます。」
「えぇ。いただきます。」
袋を開けて、鰹節を2人の前に差し出す。
「ん……香ばしくって、良い味ですね。美味しいです!」
「これ、魚なのよね?何をどうすればこんな風になるのかは判らないけど、これは美味しいわね。タクトさん、さっきは使わなかったけど、このアオノリというのは?」
「これは海藻を乾かして粉末にした物だよ。」
「これもそのまま食べられるの?」
「いや、粉末にした物だからな……そのまま食べたら、多分……咽るぞ。あと、青海苔は歯によく引っ付くからな……食べた後に、鏡の前で確認しながら歯を磨かないと……歯に青海苔が付いたまま、接客することになるぞ。」
「なるほど……使用する場合は、自己責任ということね。」
そんな話をしているうちに、アンネリーは焼きそばを完食した。
「ふぅ!ごちそう様でした!本日いただいた料理も、とっても美味しかったです。」
「ははっ、そいつは良かった。」
「それに、パスタが少し違うからか、具材が多いからでしょうか?意外と満腹感がありますね。」
「えぇ。1皿で充分お腹いっぱいになるのよね。」
「さてと!お支払いをしないとですね。お幾らですか?」
「そうだな……1皿銅貨7枚だな。今日は使わなかったけど、エビやイカを追加で注文できるようにして、それ等を入れた焼きそばは、銅貨1枚プラスしようって考えてる。」
「なるほど。わかりました。それでは……」
アンネリーは財布から銅貨7枚を取り出し、クロエに支払った。
「はい!確かに丁度、いただきます。」
「うふふ。タクトさん、クロエさん。本日もありがとうございました!おかげで、午後も頑張れそうです!」
「おぅ!最近暑くなってきたからな、倒れねぇ程度に頑張れ。」
「いつでも休みに来てくれて良いからね。」
「はい!それでは、失礼します!」
挨拶を交わし、アンネリーが店から出て行った。
「さてと……クロエ。そろそろ昼飯時で、お客さんが増えると思う。スキルで出すこともあるけど、料理を1から作ることになったら……しっかり、盗み見てくれよな。」
「はいっ!」
先の事は判らないけど、クロエが言った通り、今後俺が何かの病気でこの厨房に立てない時があるかもしれない。
そのときのためにも、クロエには頑張って、作れる料理の数を増やしていってもらいたいと思った。




