Menu 51 ~ ミートソーススパゲッティ ~
俺が屋台のときから店を出しているこの場所は、背後は切り立った岩の垂直の段差……小さな崖のようになっており
その下は視界いっぱいに白い砂浜、青い海が広がっている。
俺は自分の店と砂浜を繋ぐ、石造りで横幅が広い手すり付きの階段を【 創造 】のスキルで出現させた。
「そういや、クロエ。この町の人は、海で泳いだりしないのか?」
「え?そうね……子ども達が暑い時期に遊んでいるのは、たまに見かけたわね。大人は……その子達の保護者さんくらいかしら?あと、子ども達が危険なところまで行かないよう、監視する役目を担った水軍の兵士が派遣されているくらいかしら?」
「水軍、そんなことまでしてんの!?」
でもまぁ、泳ぎは得意だろうし、ライフセイバーみたいなことしてくれてるのは、頼りになるな。
「でも、どうしてそんな話を?」
「ん?あぁ。俺の居た世界にな、海で遊んでる人達に料理を出す、海の家ってのがあってな。この店の立地的に、同じことができそうだなって。」
「あぁ。それで石造りの階段でお店と砂浜を繋いだのね。」
「こんにちは~!」
休憩室の壁にかかっている時計を見ると長針が12を、短針が11を示しており、扉が開いて来客を知らせるベルの音が店内に鳴り響いた。
「あっ、お客様……あの声はソニアね。行ってくるわ!」
「あぁ。俺もすぐに行く。」
「いらっしゃいませ!ようこそ、【 レストラン・タクト 】へ!」
「クロエ……そんなに慌てなくて良いんですよ?」
「そういうわけにもいかないわ。新規のお客様だった場合、最初の一声が大事なんですから……って、あら?」
「おっ!いらっしゃい、ソニア。」
「こんにちは、タクトさん。」
カウンター席へ乗り出すように、入り口に立つソニアを見ると、彼女の後ろにもう1人女の子が立っていた。
青緑色のショートヘアで、ソニアと同じような軍服を着ている。
「えっと……ソニア、そちらさんは?」
「見たところ、貴女と同じ水軍の子のようだけど……」
「はい。彼女は『 ユリア 』。私の側近……右腕?とでも言えばいいのでしょうか?少し前に任命したんです。」
「はっ、初めまして!」
「おぅ!よろしくな。」
「それでですね。今日はこの後沖に出るので、早めにお昼ご飯を……と思い、彼女がオススメだというお店へ行ってみようという話になったのですが、そのお店が本日運悪く臨時休業だったので……それで、こちらへ。」
「なるほど。そりゃ残念だったな。まぁ、ウチもそのお店に負けねえような料理を提供できるよう、努力させてもらうよ。」
「えぇ。お願いします、タクトさん。」
「それでは、ソニア、ユリアさん。どうぞ、テーブル席へ。」
「ありがとう、クロエ。」
「あっ……ありがとうございます。」
クロエに促されて、ソニアとユリアがテーブル席に対面するように座る。
「ソニア様。本当に、このお店の料理は美味しいのですか?その……一等地にあるレストランに比べると、かなり小ぢんまりしているといいますか……」
「ゆ……ユリア……」
「うふふ。そう思う気持ちは解かるわ。このレストランが建つ前の屋台を見た時、私も似たようなことを思ったし。」
「それが今じゃ、俺の店で働いてくれてるんだから、人生って分かんねぇよな。」
「えぇ、本当に。はい、ソニアにユリア。お水とメニューよ。」
「ありがとうございます。クロエ。」
「あ……ありがとうございます……」
クロエからメニューを受け取った2人が、パラパラとメニューを捲っていく。
「なっ!?何ですか、此処の料理!見たことの無い料理に加えて、種類がとっても多いです!」
「うふふ。良い反応ですね。ですが、本当に料理が増えましたね。」
「あぁ。皆が頼んでくれる料理で、そのメニューに載っていなくって、それでも俺が知っている料理を出しているうちにな。」
「いつもありがとうございます。タクトさん。」
「ソニア、ユリア。いつもなら、ゆっくり選んでって言うんだけど……この後、沖に出るんでしょ?なるべく早く選ばないと、食べる時間が少なくなるわよ?」
「あっ、そうですね。ん~……あっ!タクトさん。本日、私達は最初に行く予定だったお店でパスタを食べるつもりだったんです。それでですね……このミートソースというパスタ料理をお願いしても良いですか?ユリアも同じ物で良いですか?」
「はい!ソニア様にお任せします。」
「わかった。パスタを茹でるのはいうほど時間がかからないんだけど、生憎ソースの作り置きが無くってな。スキルですぐ出すよ。」
俺は【 創造 】のスキルを発動して、注文された料理を出現させる。
「はい、2人共。ご注文のミートソーススパゲッティです。」
クロエが2人の前にそれぞれ料理を置いていく。
「それから、好みでこの粉チーズとタバスコをかけて食べると良いわよ。」
「ありがとうございます、クロエ。」
「あっ!このチーズと赤い調味料……このお店でも仕入れていたんですね。私のオススメのお店でも、この2つが置いてありますよ。確か、猫耳の亜人の女の子のお店で買えるんでしたっけ?」
「このお店でも仕入れていたというか……この店が発祥というか……ソニア。これは別に言う必要、無いわよね?」
「えぇ。話すとしても、まずはこの料理を食べてもらってからですね。それでは、いただきましょうか。」
「あっ、はい!いただきます。」
「ソニア。これは啜らない、ソニア達が普段から食べてるようなパスタだからな。」
「わかりました。」
ソニアとユリアは上品に、フォークにスパゲッティを巻き付けて口へと運ぶ。
「ん~!小麦の味に、甘さと酸味が合わさったトマトの味とお肉の旨味が加わって、とっても美味しいです!」
「スキルで出してるとはいえ、イメージしてるのは牛肉と豚肉の合挽肉だ。片方のお肉だけでは出せない旨さがあるんだよなぁ。」
「確か、ハンバーグもそうでしたね?……あら?どうしたのですか?ユリア。」
「もしかして、タクトさんのお料理が口に合わなかったのかしら?」
「何!?だとしたら、こちらの責任だな。謝罪ってわけではないけど、今回の代金はこちらで負担させてもらうよ。」
「とっ、とんでもないです!美味しい!物凄く美味しいです!パスタはこのアリアータにもありますが、このソース!こんなに上質な肉を使ったソースなんて、初めて食べました!」
「あっ……タクトさん。大丈夫です。喜んでいただけたみたいです。」
「そっか。なら良かった。」
「この粉チーズを使うと、とってもまろやかになるんですね!ビックリです!」
「……ソニア。タバスコを使っても良いのよ?」
「クロエ。分っていて言ってますね?気持ちだけ受け取っておきます。」
「ははっ。まぁ、無理して使う必要もないからな。」
「それもあるけれど……ソニア、辛い物全般が駄目なのよ。」
「あぁ……なるほど。」
その後、2人はミートソーススパゲッティを笑顔で完食した。
「ふぅ……ごちそう様でした。」
「おう。お粗末様。」
「あっ!あの!料理を頂く前、失礼なことを言ってしまい、申し訳ありませんでした!お料理、とっても美味しかったです!」
「ははっ、ありがとな。」
「さてと……クロエ。お支払いをお願いします。」
「えぇ。ミートソーススパゲッティ1皿銅貨7枚なので、2皿で銀貨1枚と銅貨4枚ね。」
「え?私の聞き間違いでしょうか?もの凄く安いお値段が聞こえたのですが……」
「うふふ。ユリア、もう1度メニューを見てください。殆どのお料理が、これくらいのお値段なんですよ。」
「あの美味しさで……このお値段……」
「どうする?ソニアが全額支払う?」
「そうですね……えぇ。今回はユリアの分も私がお支払いします。」
「えっ!?いえ、ソニア様!自分の分は自分で……」
「うふふ。たまには、です。」
ソニアは財布から銀貨と銅貨を取り出し、クロエに支払った。
「はい。確かに丁度、いただきました。」
「こんにちは!」
ソニアがちょうど会計を支払い終えたと同時に扉が開き、アンネリーが入って来た。
「あら、いらっしゃい、アンネリー。」
「こんにちは、クロエさん。あの、タクトさんはいらっしゃいますか?」
「あら……あの猫耳の子は……」
「おぅ!いらっしゃい、アンネリー。今日はどっちだ?」
「商いの方です。相変わらず、粉チーズとタバスコ、それとサイダーの売れ行きも好調で!また追加で補充をお願いしたいんです。」
「わかった。そうだな……とりあえず、全部50ずつでどうだ?」
「ん~……粉チーズとタバスコは、そんなにすぐ無くなるような物ではないので、その数で大丈夫ですが、サイダーはできればもう少し多めにお願いしたいです。これからの暑い季節、おそらく、もっと売れるようになると睨んでますんで。」
「了解。じゃあサイダーは200本用意するよ。【 収納 】しておけば、消費期限や賞味期限を気にしなくても良いみたいだし、減ったら随時補充するって形で。」
「はい!ありがとうございます!そうですね……売り上げの半分は、月末にこちらへお持ちする形で構いませんか?」
「おぅ。別に急いで何かに必要ってワケでもないからな。それで構わないよ。」
「わかりました!」
「ま……まさか、こんな繋がりが……」
「ユリアも気に入ったのでしたら、いつでも利用すると良いですよ。確かに、他の店と比べてそこまで大きくはありませんが、その分、人と人との距離が近いので、様々な交流ができますから。」
「はい!ソニア様。」
アンネリーの【 収納 】スペースに商品を詰め込んでいる最中、ソニアとユリアと挨拶を交わし、2人は笑顔で退店した。
確か、これから沖に出るんだったか……海の平和のために、これからも頑張っていただきたい。




