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Menu 50 ~ パエリア ~

10時


常時店を開けていても、お客さんの足が途切れる時間帯というものがある。

そういう時は、クロエにこの世界のことを色々教えてもらって、勉強することにしている。


「なぁ、クロエ。この世界の結婚についてなんだけど……」

「はい。」

「俺の居た世界じゃ、1人の男性と1人の女性が結婚して夫婦になるのが普通で、浮気なんてしようもんなら、罰金を払わないといけなかったんだ。」

「まぁ!厳しいのね。」

「その感じだと、この世界は一夫一妻制じゃないってことか。」

「えぇ。他の大陸ではどうかまでは判らないけれど、少なくとも私達の居るこの大陸では、一夫多妻制、一妻多夫制が認められているわ。当事者が複数の相手に好意を寄せて、誰か1人を選んでしまった場合、他の人達が深く悲しんで自ら命を絶つという事件と、選んでもらえなかった人達が逆恨みで結託して、惚れた相手の命を奪うという事件が、過去に複数件遭ったそうなの。」

「マジか……俺はまだ告白も失恋もしたことがないから、適当な事を言えないんだけど……そりゃ、好きな人にフラれたショックってのはデカいんだろうな。」

「そういったことがあったから、誰も不幸にならないための処置として、そういうハーレムのような結婚制度が認められているのよ。結婚式は1度に纏めてするパターンと、好きな人ができる度に複数回するパターンの2通りあるわ。」

「結婚式を複数回すんのは大変だろうな……その都度、お金を支払うことになるわけだし……」

「でも、タクトさん。どうして急にそんな話をしてきたの?」

「いや、初めてクレスと会った時に、セシルとシーナと一緒だったからさ、どっちかと恋仲になってしまった場合、選ばれなかったもう1人は辛い思いするだろうなって、勝手に思っただけさ。けど、そっか……一夫多妻制があるのなら、問題無いか。」

「えぇ。ん~……こんなことを言ったら、クレスに失礼かもしれないけれど、個人的にあと複数人は女の子を侍らせると思うのよね。」

「はははっ、まさか。」


「お~っす!タクト!クロエさん!」


店の扉を開けて、クレスが来店した。


「おっ!噂をすれば。」

「ん?俺がどうかしたのか?」

「いいえ。何でもないわ、いらっしゃい。クレス。カウンター席に……」

「あぁ、いや。今は料理を食いに来たんじゃねえんだ。」

「ん?違うのか?」

「あぁ。ようやく、俺達の拠点を購入できたからさ!タクトとクロエさんを招待しようと思って、誘いに来たんだ。けど、当たり前だけど営業時間だったよな。悪い、悪い。」

「気にすんな。それに、確かこの店の近所で探すって言ってたよな?近場なら、多少外出するくらい問題ねぇよ。」

「えぇ!せっかくだから、見てみたいわ。」

「そっか?ありがとう……ってのも変な話か。そんじゃ!俺達の拠点に案内するよ!」


◇◇◇


俺の店から歩くこと数分。


少し開けた場所に、そこそこ大きな屋敷が建っていた。


「へぇ!立派な屋敷じゃねぇか。」

「あら?此処って確か……私の記憶が正しければ、商人のお爺さんが住んでいたはず……」

「あぁ!その爺さんが、高齢で行商するのがキツくなって、東方の町に住む息子夫婦と一緒に暮らすってことになったから、売りに出したところを俺達が金を出し合って、購入したんだ。」

「そうだったの。うふふ、良い買い物をしたわね。」

「クレス。中も見せてもらって良いか?」

「おう!もちろんだ。どうぞ、どうぞ。」


クレスに案内されて、屋敷の中へと足を踏み入れる。


「ん?タクトにクロエ、いらっしゃい。」

「よぅ!セシル。おじゃまします。」

「ふふっ、いつもは私達がタクトの店に行くから、こうして出迎えるのは何だか新鮮だな。」

「ははっ、確かに。」

「外見を見ただけで解っていたけれど……部屋の数が凄いわね。」

「おぅ!俺とセシル、シーナが一部屋ずつ使っても、個室があと10部屋あるからな。」


「ふぁぁ……クレス、セシル、何を騒いで……って、タクトさん!?それに、クロエさんも!?」


2階の複数あるうちの1つの扉が開き、たった今起きてきたばかりと思われる……下着姿のシーナが出てきた。


「お……おはよう、シーナ。」

「クレス!何で、2人が……!?」

「いやぁ!手に入れた俺達の拠点を2人に見せたくってな。許せ!」

「……ちょっと、しばらく許せそうにない。」


そう言ってシーナは部屋に戻って行った。

たぶん、いつものローブ姿に着替えているんだろう。


「クロエ。こっちに来てくれ。風呂場や、書庫もあるんだ。」

「まぁ!是非、案内して。セシル。」


セシルに案内されて、クロエは屋敷の奥の方へ歩いて行った。


「これだけ部屋があるなら、ゲボルグとも暮らせるんじゃねぇか?」

「ん?あぁ……ゲボルグな……」

「何で渋ってるんだ?一緒にクエストをした仲なんだろ?」

「まぁな。いや、ゲボルグが嫌いってワケじゃねぇんだ。むしろ、好き!変な意味じゃなくてな、すっげぇ頼りになると思ってるよ。けど、ゲボルグにはリザードマンの里っていう故郷……帰る場所があるだろ?」

「あぁ。アンネリーの店で仕入れた商品を、持って帰ったりしてるみたいだな。」

「まぁ、ゲボルグに此処に住んでもらって、定期的にリザードマンの里へ……ってしてくれて、全然良いんだけどな。できることなら、俺達が誘った相手に帰る場所や身寄りが無いって場合、その相手に優先して部屋を提供したいって考えてるんだ。」

「身寄りの無い?」

「そういや、タクトには話してなかったな。俺もセシルもシーナも……原因はバラバラだけどな、戦争やモンスターの襲撃なんかで、家族や住み慣れた故郷を失ってるんだよ。」

「……っ!そういや、クレス。初めて会った時に、『 物流が滞ってひもじい思いを体験したことがある 』って言ってたけど、あれはそういう……」

「よく覚えてたな!まぁ、いずれもずっと前の話で、皆吹っ切れてるんだけどな。いつか、テレサさんが以前話していた養護施設の子ども達が、俺達と同じ冒険者になった時、見所のある奴を誘って、一緒に住もうかなって考えてる。」

「ははっ、そいつは随分と気の長い話だな。」

「まぁな。……タクト。」

「ん?何だ?」

「偶然とはいえ、セシルと出会って……俺とシーナと出会って、いつも美味い料理を提供してくれて、ありがとな!」

「おぅ!何か遭った時は、いつでも頼ってくれ。客として……友人としてな。」


「た……タクトさん……さっきは、その……」


いつもの黒いローブを羽織ったシーナが2階から降りてきた。


「い……いや……その、お互い、なるべく早く忘れようぜ。」

「うん……。」

「さてと……クレス。この屋敷、調理場もあるんだよな?」

「おぅ!もちろん。」

「そんじゃ、3人の新居購入祝いに、ちょいと腕を振るわせてもらおうかね……っと!」

「タクトさんの料理……!こっち!厨房はこっち、タクトさん。」


シーナに案内されて、屋敷の調理場へと案内される。


「ふむ……コンロは店で使用してる物と似たような形か。じゃあ、問題無く使えそうだな。」

「火の用意は私がする。」

「シーナが……ファイヤーボールで……じゃないよな?」

「大丈夫。せっかく購入した此処を壊したくないから。ちゃんと準備する。」

「そっか。じゃあ、そっちは任せるよ。」


俺は【 創造 】のスキルを発動し、必要な物を出現させる。


「エビは殻を剥いて、背ワタを取って……タコとイカは食べやすい一口大に切って、……シーナ。この鍋を火にかけてくれるか?」

「ん。わかった。」


お湯を沸かしている間に、他の食材を用意していく。

魚介の他に、トマトを角切りに、玉ねぎをみじん切り、種を取ったパプリカを細切りにする。


「悪いな、シーナ。お前達の新居購入祝いを作ってるのに、家の者に手伝わせちまって。」

「ん……気にしてない。それに、ときどきスキルで出してくれるけど、タクトさんが私達の知らない料理を作るところ、見てるの楽しいから。」

「そっか。」

「…………タクトさん。お湯、沸いたみたい。」

「よし!そんじゃ、このアサリをお湯の中に入れて……殻が開いたらアサリを取り出して、この煮汁は捨てないで、ボウルと布を使って、こしていく。」

「タクトさん、それをする意味は?」

「このアサリって貝は、海の砂の中に居る貝なんだ。だから、貝の中に砂が入ってしまってたりするから、事前にボウルに水を入れて砂抜きってのをするんだけど、それをしても抜けきらなかった砂がこの煮汁の中にあるかもしれない。その砂やゴミをより徹底的に取り除くために、布でこして、純粋な煮汁……スープだけにするんだよ。」

「なるほど。」

「この煮汁に白ワインを少量と、香り付けにサフランを足しておいて……あとは順番に炒めていくだけだ。」


熱したフライパンにオリーブオイルを引き、みじん切りにしたニンニクとエビ、タコ、イカ、追加で出したホタテのむき身を炒めていく。


「良い香り……」

「海の幸に火が通ったら取り出して、このまま次は玉ねぎと米を炒める。」

「これ、あのおにぎりに使ってた食材?」

「正解。んで、次にトマトを入れて軽く混ぜてから、この煮汁を投入。このまま沸騰するまで炒める。」


「あら?タクトさん。何してるの?」


クロエとセシルが厨房へ訪れた。


「ん?あぁ、いや……3人の新居購入祝いをな。」

「そんな……気を使ってくれなくて良かったんだぞ、タクト。」

「でも、セシル。凄く美味しそうな物ができていくわよ。」

「……ほぅ?」


「おいおい、タクト!すっげぇ、美味そうな匂いさせてくれるじゃねぇか!」


匂いが広間まで漂っていたのか、大きい子どもまで顔を覗かせてきた。


「もうすぐできるよ。沸騰したら米を平らにして、さっき炒めた魚介類をトッピングして……蓋をして3分ほど加熱する。」


***


「…………そろそろ良いかな。」


フライパンにしていた蓋を取った瞬間、良い香りが厨房内に広がり、4人から歓声が漏れる。


「あとはアサリとパプリカをトッピングして……よし!待たせたな!パエリア、できたぜ!このまま、テーブルまで持って行って、そこで取り分けるよ。」


落とさないように慎重に、少し離れたテーブルまでフライパンを持って行き、同時に人数分の皿とスプーンを出現させる。


「それじゃ!いただきます!」

「「「いただきます!」」」


全員に行き渡った後、クレスの音頭でその場にいた全員がパエリアを食べ始める。


「はむ……もぐ……もぐ……うっめぇぇぇぇぇ!」

「あぁ!タクトの店を利用していない人達にはまだ認知されていないが、このエビやイカのような海の生き物達は、本当に美味しいな!」

「タクトさんが作っている所を見てた……このアサリを煮た時にできたスープを吸ったこのおコメも、凄く美味しい!」

「……おっ!良い感じにできてる。皆、この米が焦げた部分も食ってみな。」

「ん?もぐ……おぉぉ!パリッパリに香ばしくって、良いな!コレ!」

「元は同じコメのはずなのに、まるで違う物を食べてるみたいだ!」

「ん……!美味しい!この部分、気に入った!」

「でも……本当に。私も自分で魚を使った料理を作ったことがあるけど、タクトさんが作る魚料理や、こういう魚以外の海の生き物を使った料理を見て、いつも感心させられるわ。タクトさんが元居た世界に住む人達は、海の生き物を使った料理がとっても上手なのね。」

「他の国のことまでは、そんなに詳しくないんだけど……俺が住んでいたのは周囲を海で囲まれた島国だったからな。かなり昔から、魚介類を食べる文化があったみたいだし……時代が自然と俺達を魚食いにしたって感じかな。」


よく聞く、『 最初に毒のあるフグを食べた人は偉大! 』ってほどじゃないけど

最初に海で獲れた魚や、タコやイカなんかの海の生き物を見て、食べる……その食べ方を見つけ出した昔の人達は、本当に偉大だと思う。


その後も談笑しながら、フライパンに入っていたパエリアは全員で綺麗に完食した。


「ふぅ……食った、食った!ありがとな、タクト!すっごく美味かったよ!」

「ごちそう様、タクト。クレスも言ったが、凄く美味しかった。」

「いつも美味しい料理、ありがとう。タクトさん。」

「おぅ!喜んでもらえて良かった。それじゃ、洗い物を……」

「いやいや!流石にそこまでは!洗い物くらいなら、私達がするよ。」

「ん。それくらい、ちゃんとできる。」

「そうか?……それじゃ、クロエ。そろそろ店に戻ろうか。」

「えぇ。」

「2人共、来てくれてありがとう!この後の営業も頑張ってくれ。」

「あぁ。皆も、もしクエストに出かけるなら、気を付けてな。」


手を振って別れ、3人の拠点から出た俺とクロエは、店へ向かってのんびりと歩く。


「良い家だったな。」

「えぇ。私達のお店からも近いし、何か遭った時は、できるだけ助けてあげましょう。」

「あぁ。もちろん。」


クロエはセシルから聞いたか判らないけど、俺はクレスから3人の事情を本当に簡単にだけど聞いた。


彼等や他のお客様にも楽しんでもらえるよう、今後の営業も、より励んでいこうと改めて思わせてもらった半日だった。

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