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Menu 49 ~ チューリップ揚げ ~

12時


「こんにちは、タクトさん!」


店の扉を開けて、ヒルダが入って来た。


「あら?いらっしゃいませ、ヒルダ。」

「おぉ!ソニアさんから聞いていたけど、本当にタクトさんの店で働いていたんだね、クロエさん。あははっ、似合ってるじゃないか!」

「うふふ。ありがとう。カウンター席へどうぞ。」


「おっ!久しぶりだな、ヒルダ。」


カウンター席に座ったおしぼりと水を提供する。


「いやぁ!アンネリーの実験が成功してくれたおかげで、魚を仕入れようって商人さんが増えてねぇ。今回の漁では、海の魚が居なくなっちまうかもってくらい獲っちまったよ。」

「ははっ、頑張ってるなぁ。」


このアリアータの漁港でも、ついに競りが行われるようになったのか……

活気が出て、良い感じになってるんだろうな。


「さてと、タクトさん。この辺りじゃ、卵が産めなくなった廃鶏しか出回ってないっていうのに、タクトさんの店では、美味い鶏肉を出してくれるそうじゃないかい。今日は鶏肉を使った料理をお願いしたいんだけど、お願いできるかな?」

「鶏肉料理か。おぅ、いいぜ!」


調理に取り掛かろうとしたとき、扉が開いて、来客を伝えるベルの音が店内に響いた。


「や……やぁ……タクトさん……」

「いらっしゃいませ……ろ、ロイドさん!大丈夫!?」


クロエが驚きの声を上げたので、カウンター席の方へ身を乗り出して見てみると、

ロイドが上半身裸で、大量の汗をかきながらフラフラと立っていた。


「うおぉぉ!?大丈夫か?ロイドさん!と、とにかくカウンター席に!」

「あぁ……ありがとう……」


ヒルダの隣に座ったロイドに、急いでおしぼりと水を提供する。


「はぁぁ!生き返る……」

「ロイドさん。お風呂場からタオルを持って来たわ。どうぞ、使って。」

「ありがとう、クロエさん。それじゃあ、御言葉に甘えて。」


クロエからタオルを受け取ったロイドは、身体の汗を拭き始めた。


「これから暑くなってくるこの季節、鍛冶場は地獄だろうねぇ。」

「それでも、皆さんが生活していくうえで必要な物を作る職ですからね。暑さくらいで愚痴を零していられませんよ。」

「仕事熱心なのは感心するけど、自己管理はきちんとしてください。ロイドさんが倒れたら、私達も心配するけど、特にソニアが悲しむわよ。」

「あ……そうですね。気を付けます。」

「さてと……ロイドさん。今からヒルダが注文してくれた鶏肉料理を作るんだけど、今回は同じ物で良いですか?スタミナが付く物、作りますんで。」

「うん。タクトさんにお任せするよ。」

「よし!それじゃあ、早速始めるか。」


俺は【 創造 】のスキルを発動し、必要な物を出現させる。


「ウチで出す鶏肉料理の殆どは腿肉を使うんだけど、今回は手羽先を使用する。」

「この形……鶏の翼の部分?」

「あぁ。この手羽先の関節の少し下辺りに切り込みを入れて肉を開いて、小骨を引っ張って捻じるようにしてもう1回開く。」

「へぇ!面白い事してるねぇ。」

「相当練習しないと、難しそうだね。」

「いや、これは見た目の割にそんなに難しくないから、一般の御家庭でも簡単にできるよ。」


まぁ、この世界では美味しい鶏肉を手に入れるトコロから、難しいみたいだけど……


「そんで、このお肉に塩と胡椒を振りかけて……生姜醤油に漬けて揉み込む。とりあえず、この肉はこのまま置いといて……」


鍋に油を注ぎ、火にかけて加熱する。


「本当は先に用意しておくものなんだけど、肉に味を染み込ませる時間も欲しかったんで、今回は今から用意させてもらうよ。」

「あぁ!アタイはこの後、別に急ぐ用事も無いしね。ゆっくり待たせてもらうよ。」

「僕もまだ時間に余裕があるし、急ぐことないよ、タクトさん。」

「そう言ってもらえると、助かるよ。」


充分油が過熱したのを確認して、鶏肉に片栗粉を付けて揚げ始める。


「この何かを揚げる匂いって、どうしてこうも食欲がそそられるんだろうねぇ?」

「ははっ、わかります。良い匂いですよね。」

「…………よし!そろそろかな。」


菜箸を使って油の中から鶏肉を取り出し、人数分盛り付けていく。


「はいよ!チューリップ揚げ、お待ちどぉ!」

「へぇ!美味しそうだね!」

「じゃあ、早速……いただきます。」


ヒルダとロイドは、剥き出しになっている骨を摘まんで、先端の肉の部分を口の中へと運んだ。


「はむ……もぐ……んっ!美味しい!鶏肉は柔らかいし、この生姜とショーユの味が肉汁と混ざって、凄く美味しいよ!」

「この剥き出しの骨を摘まんで食べられるのも良いねぇ!まさか、ナイフやフォークみたいな食器を使わないで、揚げ物料理が食べられるなんて思ってもみなかったよ。」

「まぁ、広い括りで言えば鶏肉の唐揚げなんだけどな。喜んでもらえて良かったよ。あっ、添えてあるレモンを絞って汁をかけると、サッパリして食べやすくなるよ。」

「あっ、この黄色い果物はそのために置いてあったのか。それじゃあ、店主のタクトさんが言ってくれたとおりに……」


その後、ヒルダとロイドは談笑しながら、チューリップ揚げを完食した。


「ふぅ!美味しかったぁ!お会計はクロエさんにお願いすりゃいいのかい?」

「えぇ。チューリップ揚げ1皿で銅貨7枚ですね。」

「銅貨7枚だね…………はいよ!クロエさん。」

「僕の分も。はい、クロエさん。」


クロエはヒルダとロイドからそれぞれ銅貨を受け取った。


「えっと……はい!丁度、頂きますね!」

「うっし!良いモノ食べたし、これで明日からの漁もまた頑張れるよ!」

「僕も、残りの仕事を頑張らないと!……あ、クロエさん。このタオル、洗濯してから返しますね。」

「いつでも構いませんよ。2人共、お仕事頑張って。」


笑顔で手を振り、ヒルダとロイドが退店した。


「さてと……余り物で悪いけど、クロエも食べるか?」

「えぇ。いただくわ。」


多めに作っておいたチューリップ揚げの1個を、クロエが摘まんで口へと運ぶ。


「はむ……もぐ……んっ!美味しい!揚げ物を出すお店は最近増えてきているみたいだけど、美味しい鶏肉を出せるお店は、私の知っている限りだと、タクトさんのお店以外に思いつかないわね。」

「そっか……卵を産めなくなるか、何らかの原因で命を落としてしまった鶏の肉しか出回らないんだっけ?こればっかりは、魚みたいに鮮度がどうこうって話じゃないもんな。」


食肉用の動物を育てるって考えが浸透するのには、もっと時間がかかるんだろうな。

まぁ、動物……家畜は共存するものって考えは大事だと思うし、この件に関しては、あんまり口出ししない方が良いなと思った。

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