Menu 48 ~ かき氷 ~
8時
俺は冷凍庫を開け、中に収納している物の状態を確認する。
「うん。よしよし、良い感じにできてるな。」
「タクトさん。表の掃き掃除、終わったわよ。ふぅ……日差しがすっかり強くって、暑くなってきたわね。」
「お疲れ様、クロエ。丁度良いし、頑張った御褒美をあげようかな。」
「御褒美?」
【 創造 】のスキルを発動し、必要な物を出現させる。
「この機械に、作っておいた氷と器をセットして……ハンドルを回す!」
電気の力で氷を削ってくれる物もあるみたいだけど、昔ながらのハンドル式にしたのは、俺のちょっとした拘り。
俺がハンドルを回す度に、機械に備え付けられている刃がシャリシャリと音を立てて、氷を削っていく。
「で、これに赤いシロップをかけて……はい!かき氷、お待ちどぉ!」
「氷を食べるの?まぁ、せっかくだから、いただきます。」
俺からかき氷を受け取ったクロエが、スプーンで一口掬って口の中へと運ぶ。
「ん……んっ!嘘でしょ!?あの氷が、こんなにフワッフワになるなんて!それに、口に入れたらすぐに溶けて、そのシロップだったかしら?この甘い味が舌に残って……身体がスーッと冷えていくのもいいわね!」
「あぁ。氷は細かい方が熱を早く奪って、冷ましてくれるんだよ。」
「そうだったの。それは初めて知ったわ。うん、以前頂いたチョコレートパフェに入っていたアイスクリームも美味しかったけど、このかき氷も冷たくて、甘くて美味しいわ。」
「……あっ、そうだ。クロエ。そのかき氷、一気に掻き込むように食べると、より美味しくなるぞ。」
「本当?それじゃあ、はむ……はむ……っ!?~~~~~~っ!!」
クロエの手から机に向かってスプーンが滑り落ち、同時にクロエが右肘を机に着けて、こめかみの辺りを押さえながら下を向いた。
「やったぜ。」
「~~~……酷いわ、タクトさん!まさか、頭痛を引き起こす食べ物だったなんて……」
「悪い、悪い。けど、それはかき氷を食べる際の通過儀礼みたいなモンだから。」
「ぁ……痛みが治まってきたわ。でも、どうして急に頭痛が起きたのかしら?」
「さっき、氷は細かい方が熱を奪いやすいって言っただろ?その頭痛の原因は、身体の神経が急激に冷やされたことで、『 この冷たさは痛みだ! 』って勘違いして、脳へ情報を伝達したために起こってしまうんだ。」
「なるほど。そうだったの。」
「まぁ、普通に、ゆっくり食べたら起こらない……起こる確率は急激に下げられるから、残りはゆっくり食べると良いよ。」
「えぇ。ゆっくりと!落ち着いて!頂かせてもらうわね。」
「それじゃ、クロエが食べている間に……」
俺は【 創造 】のスキルで、店先などでよく掛けられている『 氷 』の文字が書かれた暖簾を出現させる。
出現させた暖簾に書かれた氷の文字は、自動的にこの世界の物へと変換された。
「タクトさん、それは?」
「俺の居た世界では、かき氷が売りに出される季節になると、店先にこの暖簾を掛けて、かき氷の販売が始まったことを教えてくれるんだよ。」
「そうなの。でも、氷一文字じゃ……魚を冷やすための氷を求めるお客さんが来るかもしれないわね。」
「飯を提供してる店にわざわざって思ったけど……元々そういう文化があったわけでもないし、可能性は否定できねぇな。まぁ、そういうお客さんが来た場合は、随時対応させてもらうよ。」
◇◇◇
15時
「さて、クロエ。午前中にかき氷を食べてもらったんだけど………此処に、かき氷にかける苺味、レモン味、ブルーハワイ味のシロップを、それぞれほんの少量ずつ注いだ小皿がある。」
「ブルーハワイ?」
「何か、そういう名前のお酒があるらしい。そのお酒の色ってことで、そのまま名付けられたんだとか。安心してくれ、このシロップはお酒じゃないから。まぁ、話を戻して……クロエ。このシロップをそれぞれ飲んで、率直な感想を聞かせて欲しい。」
「えぇ。わかったわ。」
クロエは小皿を取り、注がれているシロップを1つずつ、味見していく。
「…………?気のせいかしら?どれも同じ味がするような……」
「おっ!正解。実はこれ、色が違うだけで、味は全部一緒なんだよ。」
「えっ!?そうなの?」
「あぁ。ベースとなっている味に、着色料ってヤツを入れて、その味をイメージさせる色にしてあるんだ。だから、ちゃんと区別してもらおうって思って、苺は少し汁気の多いジャムを、レモンは蜂蜜漬けを用意しておいた。ブルーハワイは……まぁ、このまま使っても大丈夫だろう。もし、クロエにシロップをかけてくれって頼んだ時は、これらを使ってくれ。」
「えぇ。わかったわ。」
「こんにちは~。」
扉を開け、ソニアが来店した。
「いらっしゃいませ、ソニア。カウンター席へどうぞ。」
「ありがとうございます。クロエ。」
「おぅ!いらっしゃい、ソニア。」
「こんにちは、タクトさん。あの……店先に氷と書かれた布が掛けられていたのですが……」
「あぁ。かき氷ってデザートを、夏の暑い時期だけ販売しようと思ってね。」
「そうなんですか!では、そのデザートをいただけますか?」
「あいよ!」
「ソニア。氷にかけるシロップなんだけど、苺味、レモン味、ブルーハワイ味の3種類から選べるわよ。どれにする?」
「ブルーハワイ?聞いたことありませんね。」
「タクトさんの世界のお酒の名前らしいわ。そのお酒と同じ色だから名前を付けられたそうで、アルコールは入ってないみたいよ。」
「なるほど……そうですね。まずは自分がよく知っている、イチゴの味でお願いします。」
「えぇ。わかったわ。」
「クロエ。氷を削り終えたから、シロップを頼む。」
「はぁい。」
俺から氷が盛られた器を受け取ったクロエが、苺のジャムをかけて、ソニアの前に提供する。
「どうぞ。かき氷のイチゴ味です。」
「まぁ!可愛いデザート。なるほど、イチゴのジャムがかかっているのですね。では、いただきます。」
ソニアがスプーンでかき氷を掬い、口の中へと運ぶ。
「ん……サラっと氷が口の中で溶けて、甘いイチゴの味が後から広がって、美味しいですね!」
「うふふ。……あっ、そうだ。ソニア。かき氷はね、一気に掻き込むように食べると、もっと美味しいのよ。」
「え?そうなんですか?でも、そんな一気に食べるのは、もったいない気もしますが……」
「大丈夫よ。タクトさん、おかわりってすぐに作れるかしら?」
「おぅ!頑張る。」
「というわけだから、安心して。」
「そうですか?それでは。はむ、はむ、はむ……っ!?くぅぅ~~~~!!」
クロエの言ったとおり、掻き込むように一気にかき氷を食べたソニアの手からスプーンが滑り落ち、頭を抱えながら唸り声をあげた。
「やったわ!」
「ひでぇなぁ。親友相手に。」
「あら?タクトさんがそれを言う?私に同じことをしたのに。」
「ははっ、それを言われると、何も反論できねぇな。」
「~~~……あっ、痛みが治まってきました。もぅ!酷いです!クロエ!こうなることを知っていたんですね!?」
「うふふ。ごめんなさい。でも、これはかき氷を食べる時の通過儀礼のようなものらしいから。」
「当然、俺もまだ小さかった頃に経験してるぜ。」
「そうですか。誰もが通る道なのですね。それなら、もう何も言いませんが……急に頭が痛くなったので驚きました。ですが、美味しい事には変わりありませんので、お代わりをお願いします。今度はレモン味が良いです。」
「えぇ。わかったわ。」
「ただ、食べやすいとは言っても氷だからな?あんまり食べ過ぎると腹を壊すから、この1杯までにしておいた方が良いぜ。」
「そうですね。詰め所での仕事ならともかく、船の上でお腹を壊したくありませんから……」
ソニアは2杯目のかき氷を、今度はゆっくりと完食した。
「ふぅ……タクトさん、ごちそう様でした。」
「おぅ!お粗末様。」
「えっと、お支払いはクロエに渡せばいいんですよね?」
「えぇ。かき氷1杯銅貨4枚だから、2杯で銅貨8枚頂くわね。」
「銅貨8枚……ごめんなさい。銅貨が足りないので、銀貨1枚でお釣りをいただけますか?」
「もちろん。すぐ持って来るわ。」
クロエは厨房に隠してあるお金が入った正方形の缶から銅貨を2枚取り出し、ソニアの持つ銀貨1枚と交換した。
同時に、扉が開き、セシルが来店した。
「タクト。店先に氷と書かれた布が吊るされていたが……あれは一体?」
「おぅ!いらっしゃい、セシル。」
「これは……セシルにも、通過儀礼をしてもらう必要がありそうね。」
「うふふ。そうですね。」
その後、かき氷を注文したセシルに、ソニアとクロエが一緒になって『 正しい食べ方 』を教えていた。
しばらくして、セシルの声にならない呻き声が聞こえてきたのは、至極当然のことだった。




