Menu 47 ~ 豚肉の生姜焼き ~
22時
「ふぅ……この時間になると、客足が落ち着いてくるな。クロエ、コーヒーでも飲むか?」
「えぇ。ありがとう、タクトさん。」
休憩室でコーヒーを飲みながらクロエと談笑していると、店の出入り口の扉が開いて、鈴が来客の訪れを知らせてくれた。
「ん?お客さんか?」
「誰かは判らないけど、夜食を御所望かしら?とにかく、応対してくるわ。」
「あぁ。俺もすぐに行く。」
コーヒーを飲み終えたクロエが、素早く出入り口の方へ向かった。
「いらっしゃいませ!ようこそ、【 レストラン・タクト 】へ!」
「あの……レストランということは、此処……お食事できる場所で、良いんだよね?」
俺もクロエの後に続いて、出入り口の方へ向かってみると、1人の女の子が立っていた。
茶色のショートヘアで、何かの動物の毛皮を首元に巻き、フードの付いた青緑色の布の服に茶色のミニスカートを着用。
手には洋弓を持ち、腰には矢筒の付いたベルトを巻いている。
「えぇ。カウンター席へどうぞ。」
「良い感じのお店……毛皮、取った方が良いかい?」
「いや、俺は別に気にしねぇけど……まぁ、食事するには、ちょっと邪魔だろうな。」
「ん……それじゃあ……」
女の子は俺から見て一番左……カウンター席の1番奥の席まで移動し、壁に弓を立てかけ、矢筒の付いた腰のベルトを外し、毛皮と一緒に弓の傍へ置く。
「ふぅ……小腹が空いて夜の町に出たまでは良かったんだけど、他の店はどこも閉まっていてね。此処も駄目かと思ったけど、助かったよ!」
「ウチは最後の注文は23時だけど、店自体は0時まで開けてるからな。君みたいなお客さんにも、随時対応させてもらうつもりだ。」
「ありがとう!あっ、ボクは『 アル 』。狩人を生業としてるんだ。」
「俺はタクト。彼女は給仕のクロエだ。」
「よろしくね、アル。」
「タクトさんに、クロエさんだね。うん!よろしく!」
「はい、アル。お水とメニューよ。」
「ありがとう、クロエさん。」
クロエからメニューを受け取ったアルが、1枚ずつページを捲っていく。
「何コレ!?どれも見たことの無い料理ばっかりだ!」
「ははっ、その反応を見るのも久しぶりだな。」
「タクトさん。新規のお客様には、ちゃんとタクトさんの事情を説明した方が良いわよ。」
「そうだな。あのな、アル。信じてもらえないかもしれないけど、実は……」
俺はアルに、久しぶりに自分の過去のことを話した。
「そっか……ボクも狩人という立場上、人の生活を脅かすモンスターや、自然の生態系に影響を及ぼす程増えてしまった動物や鳥を狩るけど、基本的には生き物の命を尊重しているつもりだ。だから、結果は残念だったけど、その犬を助けようと身を投げ出したタクトさんの行為には好感が持てるよ。」
「ありがとな、アル。」
「……で、タクトさんが異世界から来た人で、メニューに載ってる料理がタクトさんの居た世界の料理だってことは解ったけど……う~ん……迷うなぁ。」
「アル。『 今日はこういう物が食べたい 』と思った物があれば、タクトさんに言ってみると良いわよ。そのメニューに載っていなくても、その条件に合った物をタクトさんが知っていたら、出してくれるから。」
「そうなの?ん~……あっ!そうだ。」
アルは荷物の中から、何かの植物の葉っぱで包まれた肉の塊を取り出した。
「タクトさん。これ、オークのお肉なんだけど、これを使って何か作ってくれないかな?」
「え?いいのか?俺は良く知らないんだけど、オークの肉って高級食材なんじゃないのか?」
「いえ。凄く美味しいとは聞くけれど、高級食材ではなかったと思うわよ。町の外に出れば、割と遭遇するタイプのモンスターだし。」
「そうそう。それに、ボクだと干し肉にするか、塩焼きにするかの2択しか思い浮かばないからね。タクトさんに、このお肉を美味しく料理してもらいたいんだ。」
「わかった。そういうことなら……オーク……豚……豚肉……よし!」
俺は【 創造 】のスキルで、肉以外の必要な物を出現させる。
そして、肉の塊へと視線を移す。
オークと聞くとあの豚頭のモンスターの姿が真っ先に浮かんでくるけど、こうして肉の塊だけを見ると、豚肉と何も変わらない。
「肉をちょっと厚めにスライスしてから両面に薄力粉を付けて、生姜と醤油、砂糖や蜂蜜とかを合わせた液に漬け込んで……クロエ。このキャベツを千切りにしてくれるか?」
「えぇ!任せて。」
「時間があるなら、もう少し漬け込んだ方が良いんだけど、この肉を油を引いたフライパンで焼く……っと。」
フライパンに置いた数枚の肉が、良い音、良い香りを立てて焼けていく。
「…………よしっ、焼けた。後はこれをキャベツと一緒に皿に盛って……待たせたな、アル。オーク……豚肉の生姜焼き、おまちどぉ!」
俺は生姜焼きが乗った皿と、茶碗に盛ったご飯をアルの前に置いた。
「あぁ……良い匂い!でも、タクトさん、そんなに難しそうなことは何もしてなかったよね?まぁいいや!それじゃ、いただいきます!」
アルはフォークで肉を刺すと、そのまま口へと運んだ。
「はむ……もぐ……もぐ……っ!おっ、美味しい!オークの肉も柔らかいんだけど、それよりも!このお肉の味付けが美味しい!甘い味の中に、このちょっとピリッと辛い味があるのが良いね!」
「アル。その白いの……米っていうんだけどな。それと一緒に肉を食べてみな。」
「白いのって……これ?何か、小さい粒が密集してるんだけど……料理を提供してくれるタクトさんの言うことは、聞いておいた方が良いよね。」
アルはナイフとフォークで生姜焼きを一口大に切ってからご飯の上に乗せ、フォークで器用にコメと肉を掬って口の中へ運んだ。
「もぐ……んっ!このおコメ、凄いね!それだけでも美味しかったお肉が、更に美味しくなったよ!それに、このお肉に絡められたソースの味が染み込んだ葉野菜も美味しい!いくらでも入りそうだよ!」
「でも、その米とキャベツは、腹の中で膨れる……えっと、割とすぐに『 お腹いっぱい 』って思わせてくれるから、あんまり食べ過ぎない方が良いぜ。」
「そうなんだ。ん~……でも、もう1回だけ、このおコメをお代わりしていいかな?」
「もちろん!それくらいなら。」
その後……
アルは綺麗に生姜焼きと2杯目のご飯を完食した。
「ごちそう様でした!ふぅ、お腹いっぱいだよ!」
「ははっ、そいつは良かった。」
「そうだ!お支払いしなきゃ!幾らだい?」
「……なぁ、クロエ。オークの肉の相場って、分かるか?」
「私も詳しくは知らないけれど、1番上等なお肉の塊で銀貨1枚くらいだったはずよ。オークはゴブリンと同じくらい数が多い上に、討伐しても定期的に自然と復活して……しかも、そんなに強くて簡単に討伐できて入手しやすいということから、それほど高価というわけでもないのよ。」
「そっか。ん~……じゃあ、アル。銅貨7枚いただくけど、いいかな?」
「もちろん!えっと……はい、クロエさん。」
アルは財布から銅貨を取り出し、クロエに手渡した。
「はい。丁度いただきます!」
「ふふっ。料理は美味しいし、お店の人は良い人達だし、良いお店を見つけちゃった。タクトさん、クロエさん、また来ても良いかな?」
「もちろんだ!いつでも好きな時に来てくれ。」
「うふふ。またの御来店、心よりお待ちしてるわね、アル。」
「ありがとう!それじゃあ、またね!」
食べる時に外していたベルトと毛皮を巻き、弓を持って、アルは笑顔で店から出て行った。
「いつものお客様達とお話するのも楽しいけど、新規のお客さんが来てくれるのは、嬉しいわね。」
「あぁ、そうだな。……ん?オークの肉が余ってしまったな。ちょっと興味あるし、自分の分も作ってみるか……クロエも食べるか?」
「えぇ。ただ、時間も時間だし、少しの量でいいわ。」
夜食として、俺とクロエの分の生姜焼きを急遽作り、休憩室で試食。
この世界のオークを、俺はまだ見たこと無いけれど、初めて食べたオークの肉は
俺が知っているあの醜悪な見た目からは想像もつかない、モンスターの肉とは思えない程
上品な味がして、めちゃくちゃ美味しかった。




