Menu 46 ~ ピザ ~
11時
「タクトさん。この料理なんだけど……」
お客さんが居ない店内、クロエがメニューを捲って、あるページに載っている料理を見せてきた。
「ん?あぁ、これか。昼飯に食べたいのか?」
「あら。良いわね、それ。でも、今はそのことではなくて、この料理……この絵に載っている具材しか使えないのかしら?見た限りだと、結構いろいろな物を乗せられそうだと思って。」
「クロエの言う通り、まぁ……致命的に合わない具材もあるけど、大抵の物は乗せられるよ。ただ、まずはその絵のヤツでどういう物かを知ってもらってから、後々具材を選べるようにって考えてたんだ。」
「あっ、そうだったの。ごめんなさい、急くようなことを言ってしまって。」
「いやいや!疑問に思ったことを質問しただけで、クロエは何も悪くねえって!まぁ、どのタイミングで選んでもらうようにするかは、お客さんと相談しながら、追々かな。」
「えぇ!そうしましょう。」
話が纏まったタイミングを見計らっていたのか、店の出入り口の扉が開き、備え付けのベルが音を立てて来客の訪問を知らせた。
「あっ、いらっしゃいませ!ようこそ、【 レストラン・タクト 】へ!」
「うおぉ!すげぇ立派な店になってる!」
「ソニアから聞いていたが、本当に衛兵を辞めていたんだな、クロエ。」
「クロエさん、可愛い。」
「うふふ。ありがとう、シーナ。3人……テーブル席でも構わないかしら?」
「あぁ。どこでも構わないぜ。」
クロエに案内されて、クレス、セシル、シーナが来店した。
「よぅ!久しぶりだな、3人共。」
「事情はタクトさんから聞いたわ。アンネリーの護衛で王都の方まで行っていたのよね?お疲れ様。はい、お水とメニューです。」
「ありがと、クロエ。」
「こっちは無事に実験成功したんだが、まさか俺達が出掛けてるうちに、クロエさんがこんなことになってたとはな……事前にソニアさんから聞いていたとはいえ、ビックリだぜ。」
「でも、ちゃんと裏切り者達を処したとも聞いた時は、さすがだと思った。」
「えぇ……まぁ……」
「…………ところでよぉ、タクト。」
「何だ?クレス。」
「クロエさんが着てるこの服……これはお前の趣味か?」
「いや、まぁ……『 こんな服がある 』って情報提供はしたけど、そのデザインはクロエと話し合って……いや、ほぼほぼクロエの要望で、そうなったんだ。」
「へぇ……クロエの趣味か……」
「何だ、タクトの趣味じゃなかったのか。でも……良い趣味してますね!クロエさん!」
「? ありがとう。」
「クレス。馬鹿なこと言ってないで、今日食べる料理、選ぶ。」
「おぅ!そうだな。さて……久しぶりのタクトの店での食事だ。何を頼むかな。」
3人はクロエからそれぞれ受け取ったメニューを、各々のペースで捲っていく。
「……ん?なぁ、クロエ。」
「何?セシル。」
「このピザという料理の説明の横に書かれている『 S ・ M ・ L 』というのは、どういう意味だ?」
「えっ!?えっと…………タクトさん、ごめんなさい。説明をお願い!」
「ん?そっか、クロエにも説明してなかったな。悪い、悪い。その S は Small……小さいって意味だ。M は Medium で普通サイズ、L は Large で1番大きいサイズだ。1人で食べるならSかM、大勢で分けて食べたりするならLがオススメかな。まぁ、1人でガッツリ食べたいっていうなら、L を勧めるけど。」
「なるほど!料理の大きさだったのか。なぁ、セシル、シーナ。試しにこのピザのLサイズを頼んでみねぇか?」
「ふふっ、そうだな。どうやら、分け合って食べられるようだしな。」
「うん。私も、これ、食べてみたい。」
「ってなワケで、クロエさん、タクト!このピザってヤツの Lサイズとコーラを人数分頼むよ。」
「はい!承りました。」
「どうする?腹減ってんなら、スキルですぐに出しちまうけど……」
「……いや、この後別に用事も無いし、せっかくだから、タクトが1から作るところを見せてくれ。」
「了解!ちょっと、焼くのに時間がかかるってことだけ、了承してくれ。あと、コーラは料理と一緒に出すよ。」
「あぁ、わかった。」
俺は【 創造 】のスキルを発動し、必要な物と……厨房の一角をリフォームして、ピザ窯を設置する。
「おいおいおい!何か、レンガ造りのすげぇの出てきたけど、それも必要なのか?」
「あぁ。ピザを焼くのに必要なんだ。」
普通のオーブンでも問題無いんだろうけど……雰囲気って大事だよな。
「さてと……窯を温めているうちに、ピザを作るとすっか。」
俺は用意した生地を、回転を加えながら高々と放り投げて指先でキャッチする。
「む……タクトさん、食べ物で遊んでる……クロエさん、あれは注意しないと。」
「え?違う、違う!これでも真剣に土台を作ってんだよ。まぁ、普通に台の上で棒を使って伸ばしても良いんだけど、これはこれで意味があるんだ。」
「へぇ……どんな意味があるんだ?」
「生地を上に放り投げた時に、クルクル回ってるだろ?このとき、遠心力ってパワーのおかげで生地が素早く均一に伸ばせるんだ。厚みが均一だと、焼いた時に焼きムラが少ない物ができるんだ。」
「確かに、みるみる薄く、大きく広がっているな。ふふっ、凄い、凄い。」
「俺が居た世界じゃ、この生地をいかに早く、薄く、綺麗に伸ばせるかを競う大会だって開催されてたくらいなんだぜ。」
偉そうなこと言ってるけど、【 プロの技術 】のスキルが無かったら、絶対にこんなことしなかっただろうな。
優秀なスキルに感謝、感謝。
「……で、この伸ばした生地にトマトソースを塗って、今回は薄く切った玉ねぎとピーマン、ベーコンを乗せて、上からチーズをたっぷりかけて……」
俺はピザピールの上に乗せた生地に具材を乗せ終えると、そのまま窯の中へ入れて、ピザの様子を伺いながら焼いていく。
「真剣ね。タクトさん。」
「あぁ。一応【 プロの技術 】ってスキルの恩恵は受けてるけどな。それを過信しすぎたり、スキルがあるからと慢心して焦がしちゃ、何してることか分んねぇからさ。食事を提供する店として、やっぱり、美味いモンを食ってもらいたいじゃねぇか。」
「あぁいうことをサラっと言う店主が居る店の料理が、マズいワケねぇよな。」
「ふふっ、そうだな。おっ!パンが焼ける、良い匂いがしてきた。」
「うふふ。楽しみ。」
火のご機嫌や、生地や上の具材の様子を確認しつつ、焼き上がった頃合いを見計らって窯からピザピールを駆使して取り出し、滑らせるように大皿の上へ乗せる。
「クロエ。このピザカッターってのを横に1回、右から斜めに1回、左から斜めに1回ずつ転がして、できるだけ同じ大きさになるように6等分に切って、持って行ってあげてくれ。」
「これをピザの上で転がして、6等分ね。わかったわ!」
クロエはピザカッターを使って、綺麗に6等分に分けたピザが乗った皿を、3人が居る席へ持って行く。
「お待たせしました!ピザです!コーラもすぐお持ちしますね。」
「うおぉぉ!美味そう!」
「これは……手で掴んで食べれば良いのか?」
「あぁ。けど、熱いから掴むときは、気を付けてな!」
「わかった。それじゃあ、いただきます。」
シーナの『 いただきます 』を合図に、3人は各々、自分から1番近くにあったピザを手に取る。
「うわっち!本当に熱いな。」
「おぉぉ……凄い!チーズがこんなに伸びるなんて……」
「気を付けないと、チーズと一緒に、他の具も落ちそう……」
様々なリアクションを見せながらピザを手に取った3人は、そのままかぶり付いた。
「ん……もぐ……んっ!うめぇぇぇぇぇ!!」
「あぁ!凄く美味しいな、コレ!肉の旨味と、ソースの甘味、野菜の苦みに、チーズの味……いろんな味が1度に楽しめる!」
「このパンも、普段食べてるパンよりも淡白な味だけど、土台の薄い部分と、周りの少し厚い部分と、食べ応えが違って、凄く美味しい!」
「はい。コーラ、お待たせ。」
「ありがとう、クロエ。」
「んっ……ごく……ごく……っぷはぁぁぁ!こういうガッツリと食事できるタイプのパン料理とコーラって、よく合うなぁ。」
「うん。本当に美味しい。お金とお腹が許してくれる限り、いくらでも食べたくなる。」
「ん~……もう少し入るかな。タクト!追加でもう1枚お願いして良いか?」
「あいよ!すぐ用意する。」
その後、用意したもう1枚のピザも、3人は笑顔ですぐに完食してくれた。
「ふぅぅ……食った、食った!」
「1人4枚しか食べていないが、凄い満足感だ。ピザがお腹の中で膨れてきた感じがする。」
「クロエさん。お会計……お願い。」
「えぇ。えっと……ピザのLサイズ1枚が銀貨1枚と銅貨2枚が2皿と、コーラが1杯銅貨2枚が人数分だから、合計で銀貨3枚ね。」
「なるほど。メニューを見た感じ、このピザは大きさで値段が変わるんだな。」
「それでも、お金を出し合って皆で楽しんで食べられるなら、このお値段にも納得できる。」
「だな!それじゃあ、皆。財布から銀貨1枚ずつ出して、お支払いしようぜ。」
3人はそれぞれ財布から銀貨を1枚ずつ取り出し、クロエに手渡した。
「はい!丁度、いただきますね。」
「ねぇ……クレス。」
「ん?何だ?シーナ。」
「少し前に話した、この町に拠点を購入しようって話……別に一等地でなくても良いから、タクトさんとクロエさんの居るこのお店の近くで、空き物件が無いか探してみない?」
「ふむ……良いな。私もシーナの意見に賛成だ。」
「そっか。そんじゃ、この後ちょっと物件を探してみるか!」
「そういえば、前にそんな話してたな。ははっ、御近所さんができるのは楽しみだな。」
「良い物件が見つかると、いいわね。」
「おぅ!意地でも見つけ出してやるさ!そんじゃ、今日もありがとな!」
挨拶を交わし、3人は店から出て行った。
「やっぱり、あの3人は賑やかで、見てて楽しいな。」
「クレスが1人で騒いでる……なんて言ったら、失礼かしらね?」
「……否定できねぇな。セシルもシーナも、物静かな方だもんな。」
まぁ、あれはあれで良いパーティなんだろう。
「こんにちは。あら?何だか、パンが焼ける良い匂いが……」
扉を開けて、ソニアが来店した。
「いらっしゃい、ソニア。本日、タクトさんが提供できる料理は1種類だけよ。」
「えぇっ!?」
「コラ、コラ。嘘を吐くな。大丈夫だぞ、ソニア。そんなことねぇから!」
その後、先程のクレス達の話をして、興味を持ってくれたソニアからもピザを注文していただいた。
クロエと話していた、上に乗せる具材を自由に選べる件。
この調子なら、割と早めに検討しても良いのかもしれない。




