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Menu 44 ~ ドーナッツ ~

7時


クロエと店内の清掃をしていると、閉ざされた出入り口の扉が叩かれる音が聞こえた。


「あら?誰かしら?」

「空腹のお客さんかもしれない。クロエ、扉を開けてやってくれ。」

「わかったわ。」


クロエが扉を開けた先に、テレサが立っていた。


「テレサさん。おはようございます!」

「クロエさん。おはようございます。衛兵の例の件は、グウェルさんから御聞きしました。大変でしたね。」

「えぇ……ですが、今はタクトさんと楽しく、お店経営させていただいています。」

「そうですか。それを聞いて安心しました。あっ!そうだ。そのタクトさんは今、いらっしゃいますか?」

「はい!開店前ですが、どうぞ!中へ入ってください。」

「それでは、失礼しますね。」


「ん?おぅ!テレサ!いらっしゃい。」

「タクトさん。こんな早朝から申し訳ありません。少し、御相談したいことがございまして……」

「相談ですか?」

「タクトさん。お茶の用意は私がするわ。先にテレサさんと。」

「あぁ。頼むよ、クロエ。」


お茶の用意はクロエに任せて、俺はテーブルを挟んで、テレサと対面するように席に着いた。


「それで、頼み事というのは?」

「タクトさん。このお店が建つ前……屋台で、クレスさんと御一緒になったとき、児童養護施設の話が少し出たと思うのですが、覚えてらっしゃいますか?」

「あぁ、大丈夫。覚えてるよ。確か、10人くらいの身寄りの無い子ども達が居るんだっけ?」

「はい。そうです。あっ、先日購入させていただいたビーフジャーキー、とても好評でした。皆、美味しい、美味しいと言って食べていましたよ。」

「そっか。そいつは良かった。」


「テレサさん、どうぞ。コーヒーです。」


クロエがそっと、丁寧にクロエの前にコーヒーが入ったカップを置いた。


「ありがとうございます、クロエさん。」

「うふふ。どういたしまして。はい、タクトさん。」

「おう。ありがとう、クロエ。」

「それで、話を戻させていただくのですが、タクトさん。こちらのお店に、子ども達を連れて来ても構いませんか?もちろん、代金はきちんとお支払いしますし、他のお客様の迷惑にならない時間帯を考慮致しますので。」

「なるほど。子ども食堂みたいなモンか。」

「子ども食堂?」


俺の隣で、初めて聞くであろう単語を耳にしたクロエが、小首を傾げる。


「俺が前に居た世界でも、似たような物があったんだ。詳しくは知らないんだけど、訳あって児童養護施設にいる子ども達のために、レストランが一定の時間貸し切りにして、子ども達のために料理を提供してあげるんだ。」

「まぁ!タクトさんが居た世界には、既にそのような素晴らしい物が存在していたのですね!」

「俺はまだ、その養護施設に居る子ども達のことを知らない……けど、店を構えたら、いずれそういうことをしてみたいって気持ちはあったんだ。クロエ。子ども食堂、やっても構わないかな?」

「えぇ!もちろんよ!反対するつもりなんて無いわ。むしろ、タクトさんが乗り気じゃなかったら、私が意地でも説得していたわね。」

「ははっ、そっか。そういう訳なんで、テレサ。その頼み、快く引き受けさせてもらうよ。」

「あ……ありがとうございます!タクトさん、クロエさん!」

「それじゃあ、準備をしておくから、今日のおやつ時にでも、子ども達を連れて来てあげてください。」

「え?本日、いきなりで宜しいのですか?」

「あぁ。子ども達にとって楽しい事ってのを、少しでも増やしてやりてぇですから。あっ、そうだ。テレサ。子ども達の中に、小麦粉を使った物や、卵を食べてその……死にかけた子って、居たりするかな?」

「小麦粉を使った物や、卵を食べてですか?……いえ、今居る子達の中に、そのような事態に陥ったことのある子は居なかったはずです。」

「そっか。じゃあ、安心して用意しようと思っていた物を提供できるな。それじゃあ、おやつ時までに、こちらも用意しておきますよ。」

「ありがとうございます!それでは早速、養護施設の方へ報告してきます。」


テレサは深々と頭を下げ、扉から出て行った。


「タクトさん。記念すべき最初は何にするの?」

「まぁ、それは後のお楽しみってことで……うっし!そんじゃ、生地と……必要な物を用意しておくとするかね。」


◇◇◇


15時


「こんにちは。タクトさん、クロエさん。」


扉を開け、テレサと引率の大人3名、そして子ども達が入って来た。


「ほら、皆さんも御挨拶して。」

「「「「「こんにちは!」」」」」


引率の職員さんって扱いで良いのかな?

1人の女の人に促されて、子ども達が元気良く挨拶してくれた。


「いらっしゃい!お待ちしてました、テレサさん。そして、他の皆さんは初めまして!ようこそ、【 レストラン・タクト 】へ。」

「それじゃ、クロエ。皆に厨房まで来てもらってくれ。」

「えぇ。分かったわ。」

「え?厨房に入っても宜しいのですか?あちらは、タクトさんにとって神聖な場所では……?」

「そんな大層な……あぁ、でも、今回は使わないけど、包丁とか刃物、他にもちょっと危険な物があるから、引率の方は子ども達が危ない真似しないように、ちゃんと見てやってくださいね。」

「「「わかりました!」」」


そして、クロエに引率してもらい、流し台で手を洗ってもらってから、子ども達には調理台の前に5人ずつ分かれて立ってもらう。


「それじゃあ、皆にお菓子を食べてもらう前に、少し手伝いをしてもらおうかな。」

「「「手伝い?」」」

「そう難しい事じゃねぇよ。目の前に広げてある生地から、この道具を使って……こうして、繰り抜いてもらいたいんだ。」


俺は試しに1つ、専用の型を使って生地から繰り抜き、パッドの上に置く。


「わぁ!クッキーを作る時みたい!」

「ボク、やりたい!」

「おぅ!手元に型があるだろ。可能な限り、いっぱい繰り抜くと良い。」


俺がそう言った瞬間、子ども達が一斉に生地に型を押し当て、どんどん繰り抜いていく。


「繰り抜いた生地は、そっと、置いてあるお皿の上に置いてね。」

「「「「「は~い!」」」」」

「タクトさん。これは……クッキーを作ってくださるのですか?」

「似たようなことをしてもらってるけど、完成形はまったくの別物になりますよ。さて……こっちの準備もできたな。」

「これは……油ですか?」

「あぁ。既に過熱しているんで、あんまり近づいたら危ねぇですよ。」

「タクトさん。第1陣、用意できたわ。お願い。」

「あいよ!」


俺はクロエが持って来てくれた生地を菜箸で掴み、油の中へと投入する。

できるだけ、同時に食べさせてあげたかったので、油の入った鍋を2つ用意して、ほぼほぼ同じタイミングで揚げていく。


「あの生地を、油で揚げるのですか!?」

「そういうこと。……ほら、見てください。少しずつだけど、色づいて、膨れてきたのが解りますか?」

「えぇ。確かに……ほら、皆さんも、こちらの席から見せてもらって。」


テレサに引率され、数人の子ども達がカウンター席から、俺が調理する様子を見学する。


「何コレ!?こんなの、初めて見た!」

「すっごい!すっごい!」

「…………よし、そろそろ良いかな。」


油の中から商品を取り出し、油を切るために用意した網の上に乗せてから、粉砂糖を振りかける。


「はいよ!ドーナッツ、おまちどぉ!クロエ。テーブル席へ運んであげてくれ。」

「了解!」


ドーナッツが5個ずつ入った皿を、クロエがテーブル席に1つずつ置いていく。

事前に10人と聞いていたので、追加で椅子を1脚ずつ出して、5人掛けできるようにしておいた。


「それじゃ、テレサ、引率の皆さん。子ども達にもう1度、流し台で手を洗ってもらってから、食べさせてあげてくれ。」

「わかりました。さぁ、皆、食べる前に手を洗いますよ。」


テレサと引率の先生の指示の下、手を洗う子ども達を背後に、俺は子ども達が容赦なく繰り抜いた生地を揚げていく。


「それでは皆さん、いただきます!」

「「「「「いただきます!」」」」」


子ども達はドーナッツを1個ずつ手に取ると、すぐにがぶりと噛みついた。


「はむっ!もぐ……もぐ……おっ!美味しい!」

「甘ーい!こんなに甘いお菓子、初めて!」


「よし……テレサも引率の皆さんもどうです?食べてみませんか?」

「良いのですか!?」

「もちろんです。我慢は体に悪いですからね。クロエも、皆さんと一緒に食べてみな。」

「えぇ。ありがとう、タクトさん。」


俺は皿に5個盛り付けると、そのままクロエに差し出した。


「では、いただきます。」


大人達も1個ずつドーナッツを手に取り、かぶり付く。


「んっ!美味しいです!外はサクサクしているのに、中はシットリしていて……」

「えぇ!生地の作り方さえ教えて頂ければ、施設でも作ってあげられそうですね!」

「ですが、これ……油と砂糖の両方を使っているので、子ども達の健康を考えると、作れるとしても頻繁に作るのは控えた方が良いかもですね。」


「うふふ。タクトさん。皆さん、喜んでくれているみたいね。」

「あぁ。……そろそろ良いかな。クロエ、事前に用意しておいたコレも、運んでくれるか?」

「えぇ!わかったわ。」


子ども達が来る前に、事前に作っておいたドーナッツが5個ずつ盛った皿を、クロエが運んでいく。


「どうぞ。追加のドーナッツです。」

「わぁ!半分だけ色が違う!」

「何これ、ちょっと苦いけど、これも甘くて美味しいー!」


「タクトさん。あの半分だけ色の違うドーナッツは……?」

「あぁ。ドーナッツの半分に湯煎して溶かしたチョコレートを付けた物だよ。チョコレートが固まるのに時間がかかるから、テレサ達が来る前に作っておいたんだ。ほら、テレサ達の分。」

「ありがとうございます、タクトさん。」


その後、子ども達が繰り抜いた分を全て揚げ終え、子ども達も1人3個ずつ食べて、満足してくれたようだった。


「タクトさん。本日はありがとうございました。お代は後日、改めてお持ちしますね。」

「おぅ!そんなに急ぐ必要は無いから、テレサの都合がつく時で良いよ。」

「ありがとうございます。さぁ、皆さんも挨拶してください。」

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

「美味しかったー!」

「先生!またこのお店に来たい!」

「そうですね。先生も気に入ったわ。あの……また利用させていただいても、構いませんか?」

「もちろん!事前にでも、当日でも、相談してくだされば都合を付けますよ。」

「今回のようにおやつ時でも、昼食時でも、どちらでも構いませんよ。」

「ありがとうございます!」


その後、テレサ達を見送り、俺は休憩スペースの椅子に腰かける。


「ふぅ……さすがに少し、腕がダルくなったな。」

「ずっとドーナッツを油に入れたり、出したりしていたものね。お疲れ様。でも、皆楽しんでくれていたし、子ども食堂1回目は、成功ってことで良いんじゃないかしら?」

「あぁ……だったら嬉しいな。」

「それにしても、やっぱり子どもって可愛いわね。子どもかぁ……」


そう呟きながら、クロエがチラチラとこっちを見てきているけど……

今はまだ、気付かないフリをしておこう。

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